#19-18 くだらない神話
「さぁ、諦めはつきましたか?優也くん」
「……」
「お仲間は完全に殺しました。それに、例え今ここで私を殺そうとも無駄です。そもそも殺せてませんが!ふふっ」
「……」
「そんな怖い顔で睨まないでください。大丈夫ですよ、貴方のことは殺しません。これから先の未来永劫、私と過ごすのですから」
「……断る」
「そんな寂しいこと言わないでください!あなたは始まりの細胞。神様が地球へ、そしてこの私へ贈ったギフトなんですよ。孤虎優也の誕生がこの運命をもたらした。そんな素晴らしい存在なんですよ」
「黙れ!」
ナイフを投げる。けど、こんな体勢じゃ、
投擲したナイフはザセルに掠ることすらなくかわされ、地面に落ちたナイフをザセルは足で踏みつける。すると、ナイフはまるで割れた陶器のようだと思った。
ザセルは片手を頭の側頭部にあててやれやれと煽るように首を振る。
「危ない危ない……はぁ。どうしても仲良くはしてもらえませんか」
「何が始まりの細胞だ。何が運命だ。勝手に俺の生まれた意味を決めつけるな!」
「うぅん……神が救世主である私に与えた、地球を救うためのギフト。その自覚がないのですねぇ」
「俺は俺の未来を切り開く。お前なんか、全部焼き尽くしてやる!!」
「おまけによく吠えること……あの憎たらしい父親によく似ていますねぇ。あ、そうだ」
パチン、と上機嫌に指を鳴らす。
「貴方がそこまでして望む未来はなんですか。世界平和?父親からの愛?それとも貴方を拒むこの世界への復讐ですか?」
「はぁ……?」
「その切り開く未来とやらを用意すれば、仲良くしてくれますか?」
人当たり良く微笑まれる。まだ俺と仲良くしようとしているのか。こいつの中で構築されている神話に俺がどうしても必要らしいな。だが、
「俺はそんなこと望んでない」
「では、何を?」
「海美と龍斗さんと朝ご飯食べて、なんてことない話で笑う!そんな……そんなたわいもない明日だ!」
仰向けの状態から跳ね起き、拳をザセルの顔面に向けて振りかぶった。
バシッ!!
「…………っぐ、ぅ……!」
簡単に受け止められ、それどころか蔦が絡みつき動かせなくなってしまう
「本当に愚かな子。できるだけ仲良く、神話の片割れとして迎えようとしている私の善意をこうも踏みにじって。名誉なことなのに、なぜそこまで抵抗するのですか。意味が分かりません」
「……神話神話って、くっだらねぇなぁ!!」
「……?」
いい加減にしろ。ふざけんな!
困惑するザセルに向け、募らせた怒りをそのままぶつけるように怒鳴る!
「地球を救う神話!?その救世主として名を残す!?くだらねぇ、ぜんっっっぶ下らねぇ!!そんな自分の名前残したきゃ、研究で成果上げりゃよかっただけだろアホが!!」
「それはこの世界が私を正当に評価しな」
「全部言い訳だろ!!自分ができなかったこと他人が成し遂げて、勝手妬んで恨んで!じゃあ神話になれば自分の勝ちだと!?ちげぇよ土俵を下りた時点でお前の負けだ!!同じ土俵で戦えもしない奴なんて、一生負け組だよ!!」
「~~っ!」
「同じ土俵で戦えなくなって逃げて作った神話がほこらしい!?俺だったら恥ずかしくてたまらないね!!そんな神話の片割れになんかされてたまるか!」
「この!!好きに言わせてみれば!!!」
「ガァアッ!?!?」
掴まれた拳が焼ける。俺の体を焼けるほどの熱を出せるのか、こいつ!
ひるんだところに蹴りが入り、背中を強く地面に打ち付ける。立ち上がろうにも上から降ってくるザセルの足蹴に腕をクロスして耐えるしかできない。
「この、この野郎!!やはり憎き孤虎利人の息子なのね、ここまで私をイラつかせるなんて!いいわ、お望み通り仲良くなんてしない。アンタは一生私の中で飼い殺してやる!」
「ガハッ……!」
「そのふざけた口も頭も全部全部、部屋にむごたらしく飾り付けて尊厳をすべて壊してやろうかしら!?」
「……はは、なら残念だったな、生き物としての尊厳ならもうとっくのとうに犬に食わせてやったよ!!」
「あはは、ははははは!!いいでしょう。口を失くすのはやめです。その舐めた口がいつ命乞いに代わるか、実験してみたくなりましたから!」
ザセルの足蹴が止まり、その代わりに周囲を取り囲んでいたオルガー達が夥しい数の触手を振るってきた。全身をはじき切り刻む激痛に視界が明滅する。
一体のオルガーが俺の体を蹴り飛ばし、オルガー達の輪から抜けた。それを追うようにゾンビのように体を揺らしながら接近している。リンチが止むこの一瞬の隙間。
これが最後のチャンスだ。
「こん、な、ところで……」
「はぁ?」
「死んでたまるか……」
「ふふっ、貴方、自分の状況がわかっていないのですか?そんなボロボロの体で、それもお一人で何ができるというの」
「……」
足元はおぼつかない。けど立ち上がることはできた。
大丈夫。最後の任務だ。やり遂げてみせる。
正面にいるザセルをまっすぐ、強く睨みつける。その余裕かました表情も、これが最後だ。
「……ん?」
わざとらしく顔を恐怖に満ちた表情に変える。体を少しずつ震えさせて、その場に崩れ落ちる。その場に膝をつき地面に手をついて、絶望した男を装って、死の恐怖に囚われた哀れな化け物を演じる。
これでいい。これでいいんだ。
「……死にたく……ない」




