#19-15 SCR、戦闘を開始します
「はぁ、つまらないつまらない。所詮は凡人、ただの肉塊。面白い人形にもなれないとは」
「「「!!」」」
「せめて、最後の見送りに泣け叫ぶとかなんとかしてもらわないと面白くありませんね」
上から降ってきた女の声は、振り返ったころには同じ高さに降りてきた。短い茶色のボブカットに黒と紫のオフショルダートップスとレーススカートを熱風に揺らしている。
知らない顔がにやりと意地悪く笑う。初めて見るはずなのに、その嫌な表情はどこか見覚えあるような気がした。声も顔も何もかもが知らないけれど、こいつがザセルであることに間違いはない。
「こんにちは、SCRの皆さん。今宵は良い夜ですね」
「ザセル……」
「良いプレゼントはいかがでしたか?それぞれ大切な人には会えたでしょう?」
「……あぁ、ほんと感謝してるよ」
「えぇそうでしょうそうでしょう。今宵、歴史が塗り替わる。人間は植物に進化し、地球は偉大なる研究者である私に救われる。誰もが私を認め、崇め、信仰の対象となる!!誰にも覆すことのできない、あの孤虎利人など比べ物にならない!私がどれだけ素晴らしい人間なのか思い知る!!」
アハハハハハハハハハっ!と甲高い女の笑い声が響く。
眼を見開いた。こいつ、まさかそんなくだらないことが目的だったのか?
そんなことのために、どれだけの人を傷つけて、悲しませて。
怒りで体の熱が上がっていくの感じる頭がどうにかなってしまいそうだった。冷静でいろ。どれだけ憎くてもどれだけ苦しくても頭は冷静に。けれど絶対に許さない想いを込めて、拳を固く握りしめた。
ザセルはそんな様子の俺たちを面白がるような調子で煽る。
「でもね、私、特異生物と呼ばれる存在同士、皆さんとは仲良くしたいのですよ。神に従う使徒としてね」
「仲良くする気になんてないって、初めから言ってると思うけど?あれあれ、記憶力ないの?偉大なる研究者様」
「愛する婚約者を殺しておいて、随分と軽い調子ですねぇ。そちらこそ海馬に問題があるのでは?」
「うるさいっ!!龍斗さんは殺してない、全部お前が悪いんじゃないか!」
「ガキもガキで、頭の悪いこと。あぁ、優也くん。君だけでも一緒に」
「その口を閉じろ。もうたくさんだ」
「んん……気難しいですねぇ。まぁいいです。邪魔な二匹のキメラを殺して。優也くん。君の優秀な遺伝子だけでも取り込むことにしましょう」
ザセルが片腕を空に掲げると、その瞬間大樹が再生を始める。やっぱり一度に広範囲を焼き尽くさないと再生されるな。しかもこの広範囲、Mortal evolutionのburst upでも焼き切れるかわからない。
もしその時が来たら、やるしかないのか。
『おそらく、相手のことを取り込むことができるんじゃないかって思うんだよね』
的戸さんが言っていた最後の切り札。ザセルと俺が融合し、未知数の力で焼き切る。その後、どうなるかはわからないけど、もしその時が来たならやるしかない。
覚悟を決めて前にいる怪物を強く睨みつける。
父さんも、光莉さんも、海美の姉も。
それだけじゃない。あの事件で大切な人を奪われたすべての人のために。
そして、これから続く大切な日々のために。
「アハハハハハハハハハ!!待ち望んだ未来はもうすぐそこです!見てごらんなさい。葛花輪禍という名の救世主が地球を救う未来を!これから語り継がれる神話の始まりを!!」
「そんなことさせてたまるか」
「はははは。はぁ?あはは。止められるとでも?私は『変異』と『再生』の力を持っている。どれだけあなた達が足掻こうと無駄ですよ。すでにあなた達の能力に適応する『変異』を起こし、焼かれた部分からすぐに『再生』します。今のあなたたちにできることは私に降伏し、美しい未来をともに見届けることですよ」
「聞こえなかったかバカ!!そんなことさせねぇよ!!」
Mortal evolutionシリンジを取り出し、真ん中のくびれたところで二つに割る。そのまま片方はミューシスに、片方は直接首に刺した。途端周囲にマグマがあふれかえる。
隣では嵐が巻き起こり、反対には雷鳴が鳴り響く。
Burst Flame!Storm!Spark!
Ready for injection !
「そんな未来なんて────俺たちが変えてやる!!」
「「「change my feature!!!」」」
Genes are promoted!
「フレイム、変身完了」
「ストーム、変身かんりょーう!」
「スパーク、変身完了!」
熱風と雷鳴がが吹き荒ぶ嵐の中から現れ、横に並び立つ三体の異形。それを目の前に、女は余裕を見せるためか、地面から木を早しそれに足を組んで座る。
「なんと愚かな。勝ち目のない戦いでも縋りつくなんて。あぁ!!そういえばそうでしたね!!」
ひと際大きな声と、舞台の上の役者にでもなったように仰々しい身振りで口元を手で覆い、眉を八の字にして嘲笑った。
「あなた達は色々な生物と人間を組み合わせたキメラですものね。愚かで救えない存在であるのも納得です。来なさい。神話の序章にしてあげましょう」
ザセルがそう告げると、あたりに黒一色の花畑が咲き誇る。それらがクキを伸ばしザセルの足元に絡みつくと、ザセルはくるりとその場で回転した。
次にこちらを振りかえると、そこにはもう女性の姿はない。一瞬にして漆黒の花々で飾られた女王のドレスに早変わりし、頭部は人間の形ではなく毒々しい紫の花が大きく咲き誇っているだけだった。植物人間。そう形容するにふさわしい。
眼も鼻もない。ただ口元がゆるやかに弧を描いている。楽しんでいるのか?
「舐めやがって。こりゃ能ある鷹も爪むき出しでやらないとな」
「全力全開で噛みついてやる!!」
「SCR、戦闘を開始します!」




