#19-13 さいごは笑って
「……りゅ、うと」
宙に投げ出されたその体をすぐに引き寄せ抱きしめる。気怠げに半分ほど開かれた瞳は黒曜石のような深い黒で、確かに、確かに俺の知っている光莉だ。
体が痛みに耐えきれず翼だけ残して人間の姿に戻っていく。構わない。むしろ好都合だ。変身態じゃ君を抱きしめられないから。
風を巧みにあやつり光莉のもとへ向かって空を泳いで、細いその体を強く強く抱きしめる。冷たい。よく見れば肌の色も悪い。
「光莉、光莉っ!!」
「あはは、なんかやばい、かも」
「大丈夫だから、俺が守るから!」
「いやぁ、むりでしょ、これ。力入んないし」
「っ……」
爆発の炎で彩られた肌に血の気はない。こんなに抱きしめているのに、心臓の鼓動はあまりに弱く、遅い。本人も自分のことくらいわかっているんだろう。
俺たちに残された時間は、短い。
わかってる。わかってるんだ。
「ごめんね」
「……え、」
「見てたんだ、ずっと。アイツの中で」
「……」
「酷いこと、龍斗にも、大事な子たちにもしたよね。ごめんね」
「違う!!光莉のせいじゃない!!」
「っ……でもさぁ」
光莉の大きく透き通った瞳からポロポロとこぼれた涙が宙を舞う。
「色んな人傷つけたんだよ?龍斗の知らないとこでもさぁ」
「関係ない」
「関係なくないよ。私の体なんだよ?私が背負うべきなんだ」
「光莉」
「色んな人傷つけて、殺して、それで、」
「光莉」
「!」
ゆっくりと近づく地面。その衝突よりも早く光莉の体もたなくなるだろう。本当は一つ一つの悲しみに寄り添いたいんだけど、俺たちに残された時間は短い。それを悲しい感情で終わらせちゃダメだ。
光莉と至近距離で目を合わせる。悲しみでいっぱいになった目は、いつしか恋した光を失ってしまっていた。
最後の最期なんだ。貴女にはそんな顔よりも────
「光莉、よく聞いて」
「……?」
「たとえ光莉がどんな罪を犯していても、光莉自身のことが嫌いでも、俺は」
────笑顔が似合うから。
「どんな貴女でも愛してる」
「………ぅうっ……ひっく」
「だからほら、笑って。光莉は笑った顔が一番だよ」
「ず、るい、よぉ」
「ごめんごめん。でも、悲しみに浸るより前を向く方がいいって、大切な仲間が教えてくれたんだ」
時に過去の傷に浸ってもいいけれど、それだけじゃ前を向けないままだから。
背中に痛みが走る。残っていた片方の翼が縮んで背中に戻りつつあった。それまで片方の翼でなんとかゆっくり下降していたのが、さらに速度を上げて地面が近づいてくる。このままじゃ俺も危ないかもしれないな。
これが最後か。でも怖くはない。貴女が俺の隣にいてくれるなら。
「ねぇ光莉」
「ぐすっ、うぅ、」
「貴女は、こんな化け物みたいな俺でも、ずっと一緒にいてくれますか」
「っ、そんな、そんなの!」
力の入らなかったはずの腕があがり、俺を弱く抱きしめ返した。涙は止まることを知らないけれど、やっと浮かんだその笑顔は俺の知る光莉の笑顔、そのものだ。
「当然でしょ!だって私も、世界一貴方のことを愛してるんだから!」
顔を引き寄せられ唇を奪われる。
幸せいっぱいの笑顔だ。大きく開かれた瞳の中には美しい夜空の星空があるかと錯覚するような輝きがあった。
それがずっとずっと見たかった。それがずっと恋しかった。
頭を撫でて抱きしめる。もう地面はすぐそこだ
少しずつ光莉の瞳が閉じられていく。血を失いすぎたその体はもう限界を迎えたんだろう。俺ももう、この体勢じゃろくに着地できないし無理かなぁ。
もうこれで終わってもいい。このまま、幸せで飽和したまま。そう目をゆっくりと閉じようとした
その時。
「ストーム!!」
俺を呼んで、傷だらけの相棒が走って来るのが見えた。




