#19-7 火花が弾けた
ドォォォオオオオオンッッ……
「…………は、ははは、あはははは!やった、やったぁ!!」
黒煙が建物全体に立ち込める中でネピアの笑い声が響く。
「やったやった引っかかったわね!アンタがそれを使うのを待ってたのよ!この足元の水にはザセル様が作った、水で姿が透明になるトビウオがうじゃうじゃいる。アンタがその弓を放つ直前、アンタに飛びついてそのまま自爆させてやろうと思ったのよ!」
暗闇の中でじゃぶじゃぶと走り近寄ってくる。
声は高くはしゃいだようで、罠がはまってさぞ嬉しいんだろう。
「バーカバーカ!アンタなんかにこのアタシが負けるわけ、」
黒煙の中で見えた、鋭く光る爪。
そこだ。
バチバチバチッッ!!
「わけ、な、」
「みーつけた」
バチバチバチバチバチッッ!バチンッッ!!
「な────」
ボロボロになった右の拳に力を込める。過剰な電気が体の中に溜まって発光して、筋肉が赤く見える。
明るくなったおかげでよーく見えるよ。貴方の恐怖に引き攣った表情。
身を退くネピアの胸あたりを左手で掴み逃さない。
邪魔をする魚群よりも速く拳を振り抜いて。
火花が、弾けた!
ゴッッッッ!!
「───っあ゛あ゛あ゛あ゛!!」
「まだまだ」
床を跳ねるネピアの体へ更に拳を振り落とす。拳は衝撃を与える瞬間だけ、鮫の頭部に変形しネピアの体を食いちぎっていく。
「い゛っ、あ゛っ!?」
「まだ、まだ!」
回し蹴りで壁へ叩きつけ、上から拳の雨を降らせる。飛び散った血や肉が壁にへばりついて、ずるずると落ちていった。
気がつけばネピアの体は見るも無惨なものになって、あまりのダメージに耐えられなくなったのか人間の姿へと戻っていく。
「ば、けも、の……」
「お互いさま、だね」
掠れたその声はまだ意識があることを意味している。まだ足りなかったかな?そう拳を振り上げた。
「アンタ、」
「?」
「変わった、わね」
その言葉に振り上げた拳はぴたりと止まる。……変わった?
仰向けに転がるネピアは震える腕を顔の隣に置いて、降参の意を示している。
どうせもうこの体じゃまともに動けないでしょ。なら情報を引き出すために待ってもいいかもしれない。
「変わった?何が?」
「アンタ、はじめのころは、フレイムの影に隠れて震えてるだけの存在だったはずじゃない」
「……」
「ガキの時は気に食わないことがあるとすぐに泣いて、都合いいことが起こるとヘラヘラ笑うだけ。何にも知らずに。なんなの、弱っちぃはずなのに、ムカつくムカつくムカつく……!!」
「言いたいことはそれだけ?」
「……」
「じゃあバイバイだね」
「……ひと、つ」
一つ最後に言いたいこと?命乞いか、あるいは遺言か?
上からじっと見下ろすと、気まずそうにネピアの視線が逸れた。しばらく経って、ネピアが口を開く。
「一つ、聞きたい」
「なに?命乞い?それとも回復までの時間稼ぎ?」
「違うわよ……アンタ、死んで勝手に楽になるなんてとかなんとか、言ったわね。なんでそんなこと、思ったの?」
「……」
「悔しいけど納得がいった。認めてないけど、確かにって一瞬思っちゃった。そんな考え、アンタから出てくるなんて思えない。誰かの入れ知恵?」
「……ううん、違う」
「……」
「私は別に、死ぬことが逃げることだとは思ってないよ。でもさ、死んでこれでお姉ちゃんが楽になるって、勝手に決めつけたくなかったの」
「……」
「だから、全部知ってお姉ちゃんが私に死んで欲しかったってことなら、考える。けどまたお姉ちゃんのこと知らないまま勝手なことしたくない。それに、もしかしたらそうじゃないかもしれない。頭お花畑だけどさ、まだ信じてたいんだ、お姉ちゃんのこと」
「愛海のことを?」
「うん。話したことなかったっけ。あぁ、ないかぁ」
「……あるわけないでしょ。敵なんだから」
「じゃあ今だけ、仲良くしてよ。ちょっとだけ話聞いてよ」
「……はぁ?そんなことしてていいの?」
「ちょっとだけ、ちょっとだけだから」
気が変わった。ちょっとだけ、ちょっとだけね。
私も話してみたかったの、貴女と。




