#19-6 どんな困難が伴おうとも
「SCR、戦闘を開始します!」
『フレイムがいない今、対象を焼却するのではなく戦闘不能にすることが目標だ。忘れるなよ』
「了解!」
てかなんか変身したら呼吸も楽になったみたいで、体が羽みたいに軽い!すごい、これなら大丈夫!
お腹のちょっと下あたりに力を込める。するとパチンパチンと体の外側から電気が跳ねて水に通電し、水の中で雷が光る。赤いサイレンの光ばかりで薄暗い空間で強い光源となったそれは、私とネピアを下から照らす。
……通電させてもネピアには何も効いてない?やっぱり何か罠があるんだ。
「バチバチうっさいわね、ほんと喧しい化け物だこと」
「……」
「とっとと黙らせてやらないと……ね!」
「っ!」
ネピアが腕を振り上げた瞬間、ネピアの足元から小さな魚がたくさん飛び出す。あれ、体が水でできてる!?なにあれ魔法!?
水でできた魚群は一斉に私へむけて飛んでくる。やばやば、よくわからないけど避けないと!!
通路の直線じゃ分が悪い。右手のフェンスを蹴り倒し、プールのある方へ走って逃げる。うわわ、魚群がついてきた!?
「逃げても無駄よ。その子たちはターゲットを追い続ける。当たったらBomb!」
「ボンッ、って……!うわっ!?」
「ほらほら話す余裕、あるのかしら?」
なるべく直線を避け動きで避け続けていると、その曲がりくねった動きについていけなかった魚が壁に衝突して爆発した。何、なんで水が爆発するわけ!?って、いやいや、そんなこと考えている場合じゃない!
これじゃ逃げ続ける一方だ。何とかして攻勢にもっていかないと。
……当たったらボン!なんだよね。それを誘発する衝撃ってなんでもいいのかな?
「ほらほらまだまだ行くわよ!」
「やってみるしかない……か!」
壁を蹴って体の向きを180度回転させる。後ろには爆弾魚群たち。それに向かって指をさして、
ボンッ!!
「は?何してんの!?」
「やっぱり!」
指をさして微細な電流を流せば、その魚は爆発を起こしてその周りにいた魚も誘爆を食らって爆発下。原理はよくわからないけど、どんな衝撃でもいいんだ。なら私にたどり着く前に電気で全部爆発させちゃえばいいんだ!
爆発に躊躇わず追ってくる魚群を避けて、さらに走る。電気当てればいいことはわかった。けど後ろ向くことがまず難しい!
どうしよ、電気感覚があるからどこにいるかはわかるけど、後ろ見ないと当たらないし、あぁもう背中から電気でないかなぁ!?
「隙あり!」
「っ!」
「私のこと忘れてた?あぁ、おさかなちゃんたちで頭がいっぱいだったみたいねぇ!」
ネピアの鋭い爪が顔すれすれに通りすぎ、壁に突き刺さる。身を引けばすぐ後ろには魚群が、前にはネピアがいる。……あれ?てことは、
「とりゃああああっ!」
「……へ?なんで跳んで……!?」
「ふふん、そっちは考えなしだったみたいだね!」
「なっ!?」
電気感覚でギリギリまで魚群を背に引き付け、後ほんの数センチというところで跳躍した。そう、ちょうど私を追ってきた魚群がネピアに直撃するような感じ!
ボンボンボンッ!!
「きゃあぁぁあっ!?」
「よーし命中!おさかなさんに好かれてるんだねぇ!」
「ぐ、ぅ、このぉぉおおおおおお!!」
爆発の煙の中からネピアの声と鋭い爪が伸びてくる。なんですぐに動けるの!?てかヤバイ、空中じゃ避けきれない。
咄嗟に身を捻るものの、鋭い爪は私の腕を深く引き裂いていく。鮮やかな赤が散って、足元の水を溶けていった。
「う……」
「はぁはぁ、う、ゲホゲホっ……ザセル様の耐熱細胞がなければ危なかったわね……よくも……!」
「……ねぇ」
「何よ」
「ちょっとだけ聞きたいんだけど」
回復の時間稼ぎだ。腕が使えないとかなり不利だし、私の腕は殴るその瞬間だけ鮫の頭部に変形して相手に噛みつき、相当なダメージを与えることができるから、余裕があるなら特に腕は回復しておくようにって優也に言われたし。
口の中に仕込んでおいたセルヒールを嚙み砕く。
「なんでそこまで戦おうとするの?」
「はぁ?」
「だって、貴方はお姉ちゃんじゃないんだよね。お姉ちゃんの体に入った別人なんでしょ」
「……」
「だったら、他人の貴方がなんでそんなに戦おうとするの?大変じゃん」
「今更何のつもり?時間稼ぎ?」
「そんなつもりはないよ。でも腕が痛くてさ。こんなに痛い思いをお互いするなら話し合って解決できれば一番じゃん?」
「……」
ちょっと無理やりかなぁ。いや、だいぶ無理やりだなぁ。
ネピアの訝しげな視線が刺さる刺さる。うぅ、優也ごめん。やっぱ私こういう時間稼ぎ苦手だよぉ。でも少しだけ腕が良くなった。無理はあったけど、無駄じゃない。
「私が戦う理由?そんなの初めから言ってるでしょ?」
「お姉ちゃんがかわいそうだから?」
「あんたが腹が立つから」
「……」
「昔から何も知らないでニコニコしちゃって。今だって愛海が必死に隠してた真実を乱暴にこじ開けようとしている。何様なのよ」
「……」
「あの時助けてほしかった愛海は、あの時知ってほしかった姉はもういないの。アンタにできることはもう何もないの。それを理解しないで『お姉ちゃんの真実を知りたい?』ふざけんな!あんたが何をしようと、もう愛海が報われることはないのよ!ならせめて、死んで詫びろって言ってんの!」
ネピアの声に熱がこもっていく。そっか。ネピアは本当にフラットな目で見て、それで私に腹を立てているんだね。ザセルに付き従うのは、そりゃ支配の関係もあるんだろうけど、それ以上にお姉ちゃんの無念をできる限り晴らそうとしているんだ。
わかってる。
昔お姉ちゃんの苦悩を何も知らなかった。知ろうとも思わなかった。
そんな罪人の私が今更真実を知りたいというのは、あまりに乱暴だ。
でも
一歩前に踏み出す。足の動きに伴って、ちゃぷんと水が跳ねた。
「死んで詫びる?そんなことが贖罪になるならすぐにやってる」
「は?」
「私が死んでお姉ちゃんが楽になるなら今ここで死んでやるって言ってんの。でもそんなことしてもお姉ちゃんの無念は晴れない。だから私は!」
足元に跳ねた水がパチパチと電気をまとい、空中に浮かぶ。水滴同士がひかれあって一つの大きな水の塊となり、徐々に形を成していく。
「お姉ちゃんが何を見て、知って、感じて、何を思っていたのかを知る。全部全部知って、お姉ちゃんの苦しみに触れて嬉しくなったり辛くなったりして、全部抱えて生きていく。勝手死んで償った気になんてならない。生きて償っていく!」
「……っ、でも真実はもう闇の中よ!?どうやって」
「SCRが何か情報をつかんでいるのかもしれない。ううん、そうじゃなくたって、お姉ちゃんに直接聞けばいいんだもん!」
「何言ってんのあんたバカなの!?」
「空中に浮かぶ魚とか魔法みたいなことが起きるんだ。だったら死んじゃったお姉ちゃんと話せる方法がどこかにあるかもしれない。私はあきらめない、何があろうと真実に近づいて見せる!だって私は!」
水の塊は大きな大きな鮫の形となって、水の中には電気がうずまき強く発光する。
「どんな運命にも食らいつく、シャークガールなんだから!」
そう叫んだ瞬間、鮫は意思を持ったように動き出す。体を左右にくねらせ尾を揺らして、ネピアに向けて一直線に飛び出した。
「なに、なんなのよこれ!」
ネピアはヒグマの俊足で足場の悪い水場の中でも器用に走って逃げていく。でも悪いけど、無駄だよ!
ガチンガチンと歯を鳴らしながら巨大サメはネピアを追っていく。途中魚群がガードに入るように壁を作るけど、全部噛み付いて飲み込んでいった。
「こんなことが現実にあり得るわけない!まさか、こんな!」
「あり得るんだよ、全部。そもそも特異生物がファンタジーみたいなもんだし。私たちの知らない世界はまだまだびっくりばっかりで、お姉ちゃんはそこで待ってる」
「あぁっ!?い゛っ……!?」
「だから」
Go bite into the mutation!
腕に熱と痛みが走る。矢をひく動作で弓は大きくしなって、目を細める標的を定めていく。
ネピアは素早い。普段なら当てられないような速度だ。でもなんだか、今は絶対に当てられる。絶対に外さないような気がするんだ。
ギリギリまで引いて、その瞬間を見極める。
「なんでアンタなんかに、そんなことが!」
「私の名前は鮫島海美。強くて、かっこよくて、優しいお姉ちゃんと同じシャークガールだ!」
火花が散った。
ドォォォオオオオオンッッ……




