#19-3 親子喧嘩ごっこ
ドゴオオオオオオオオオオオオオッ!!
何とか飛び出しかけた体を止めた。それと同時に突然天井が崩壊した。さっきまでいたオルガーの上から何か落ちた。なんだ。
少しずつ晴れていく煙の中から巨体が見えてくる。頭部に特徴的な牛のような角、筋肉が異常に発達した体は暗赤色。水牛とゴリラのハーフだったか。パワー型に俺が当たったのは良かったかもしれない。スパークだったらどれだけ電撃を当ててもパワーで押し切られる可能性がある。
「ユウ……ヤ……」
「こちらフレイム。ネイチを発見。先に焼却処分に入ります」
『司令部了解。Mortal evolutionはできる限り温存してください』
「了解」
「ユ……」
ぶつぶつと俺の名前をつぶやいている。よく見れば、目がひっくり返っているな。前見たときは普通の目だったような気がするけど、今は白目になってしまっている。それに口調もおかしい。正気を失っているのか?
「ウウウウゥゥゥ」
「……?」
ネイチは頭を抑え唸っている。突然降ってきたかと思えばこれか。何がしたいんだ?
警戒しながら見ていると数秒してネイチの体からポンポンと連続して花が咲く。赤、紫、オレンジ。さらに茎が伸びてネイチの体を締め付けていく。ザセルが何かしたのか。であれば今までとは違うパターンで動いてくる。警戒しろ。何をしてくるのかわからない。
「ユウヤ……ユウヤ……」
「……」
「ワタシノ、ムスコダ……」
「俺はお前の息子じゃない。気安く呼ぶな」
「ワタシノムスコ……タイセツ、ナ」
「他人のくせにその父親面、気持ちわりぃんだよ!」
Flame!Ready for injection!
「Change my feature!!」
Genes are promoted!
一気にプランジャーを押し込み、左腕を外側へ一振りすれば炎の海は裂け視界は露わになった。
「SCR、戦闘を開始します」
「ユウヤ、ワタシト、トモニ」
ネイチが床へ剛腕をふるう。廊下へ放射状の亀裂が走り、建物自体が震えた。その揺れに足を取られる前に跳び、体を回転させて勢いづけたナイフを目に向かって放つ。チッ、躱された。
着地を狙ったのかネイチがその巨体からは想像できないスピードで迫ってくる。拳に熱を込め、重力に逆らって拳を天井へ向けて放った。拳自体が届かなくとも、熱は届くさ。確信はパキッと音を鳴らして、そのまま近づいてきたネイチに降り注ぐ。
「グッ!?」
「あっつあつの蛍光灯だ。よく味わえよ!」
動揺している間に着地して、体を低くしネイチの足を蹴りで払う。ぐ、クソ、かてぇ!なんだこれ、無理か!
しゃがんだ状態から跳躍する。俺をつかもうとする剛腕の内側にすりぬけ、厚い胸板をありったけの力でぶん殴った。その衝撃で後ろによろめいたところの隙をつき、これまた太い首に飛びついた。数秒で顔面を拳でタコ殴りにし、そのまま足蹴にしてくるっと宙返りで距離を離す。ネイチは後ずさりながら、頭を右へ左へ大きく揺らしていた。かなり入ったか、今の。
Burn upで早く決着をつけなければいけない。Mortal Evolutionを使った焼却処理はザセルと同時にやるにしても、戦闘不能にするにはそれなりの火力が必要だ。さらにその前にそれなりのダメージを入れておかないと無駄打ちになる。もう少し削りに行くぞ。
拳にふっと息を吹きかけ、さらに温度をあげていく。
『フレイム、念のため体温に気を付けてください』
「了解」
任務の前に受けた説明。俺の体温は上がり続けている。ある温度を超えた時、人間態になってもその温度が戻らずに死に至る可能性についてだ。だからできる限り体温は上げられない。けど、現状まだ全然上げられる範囲内にはある。
「ユウヤァ……ユウヤァ……!」
「なんなんだ、さっきからゾンビみたいに」
「ゴメンナ、ヒトリニシテ……」
「!」
「カアサン、シンダ、ヒトリオマエ、ナイテテ」
「……黙れ」
「リヒト、コウカイ、シテ」
「黙れ……!」
「イヤ、ワタシガチチオヤ。カナシイオモイ、モウサセナイカラ」
「うるせぇんだよ!!その声で父さんを語るな!」
激情のまま飛び出した。記憶を見たんだろうあの日母さんが事故で死んだ日の。
あの時の幼い俺を見て、同情でもしたか?父性が目覚めたか?
気色悪い。
ネイチの剛腕が届く距離の手前で跳躍して、ネイチの頭部に拳を放つ。よろけるネイチに間髪入れずにさらに打撃を加えた。カハッと吐かれた生唾に血が混じっている。まだ、まだだ。
ブンッと風を切って振るわれる剛腕を姿勢を低くして避け、地面に手をつきながら後ろ回し蹴りを決めた。手ごたえはある。
ネイチは体が焼け始め、狼狽えながらも拳を振るった。その直線を避けるように壁に跳び、そのまま頭部にダメ押しの蹴りを入れた。かなりダメージが入っているのか、ネイチはふらりとよろけ、その場に膝をつく。
今だ。
Burn up the mutati────
「っ!?」
「ユウヤ」
腕が動かない。視線だけ逸らせば、ミューシスに蔦が絡み付いてシリンジの注入を妨げている。出所はネイチの胸あたりだ。コイツ、ザセルの力も使えるのか!
ていうかマズい、コイツにこんな近づいたら、
「ゔっ!?」
「ユウヤ、ワタ、し、私の、息子」
「ガァッ!?」
「言うことをキケ!!ワタシの、大切な、息子!!」
次々に振り下ろされた拳が体に落ちる。腕でガードしようにも植物が邪魔をしてモロに入ってしまった。骨の割れる音にチカチカと視界が点滅する。
1発でも受けたくなかったのに、こんなに受けてちゃ躊躇ってる場合じゃない。本当はザセルに使いたかったけど、ここで倒れれば本末転倒だ。
振り上げられた拳の隙を見て、床を転がり立ち上がる。足を払うように植物の蔦が風を切ったが、跳躍して避けた。こんな図体のデカいやつだ。素早さなら負けない。ここからmortal evolutionで───!
ドンッッ!!
「〜〜〜っ!?」
「ユウヤ、言うことを、キケ!」
はや、い。
瞬間、跳躍した目の前には奴の太い足があった。ガードをする暇もなくモロに受けてしまった。壁に蹴りつけられ、ズルズルと体が壁に沿ってずり落ちる。
速い。速すぎる。以前のコイツはこんなに速く動けたはずがないのに。ザセルが何かしたのか?あの植物を操る力だけじゃないのか。
赤いサイレンの光がネイチの巨体で遮られ視界が暗くなる。ネイチは俺を見下ろし、ギチギチと音が聞こえるほど拳を固く固めて振り上げた。
体が痙攣して上手く動かない。このままじゃ、
「ユウヤァァアアア!!」
「クッソ……!」
意識を体全体に集中させ、熱を込めて絡み付いた植物を焼き切る。シリンジの注入を妨げていたものもなくなって、
Burn up the mutation!
体が燃える感覚。Mortal evolutionを使う暇はない。これで火力が足りるかわからないが、一か八かに賭ける!
「──ファイナルフレイムアタック!」
振り下ろされるネイチの拳。それにクロスするように燃える拳を振り上げた。
相打ちによる激痛を覚悟した、その時。
「ゆうや」
「──っ!」




