#19-2 ろくな死に方じゃない
10年ぶりの景色は、あまりに見慣れないものだった。
同日同時刻──── 特殊遺伝子細胞総合研究所にて
建物は蔦や茎が這い老朽化して色褪せ、さらにコの字型の建物の中心に生えた巨大な木の根にその殆どを絡め取られている。
どこかのファンタジーゲームの中に出てくるような、太古の景色のようだ。というより、遥か先の未来、人間がいなくなり緑が生い茂った世界のような景色ともとれる。
どちらにせよ、気味の悪い景色に違いはない。そう考えながら耳につけたインカムに手を当てる。
「フレイム、配置につきました」
『こちら狛坂。了解』
作戦通り、3手に分かれて内部に突撃する。固まって敵の根城に行けば必ず罠にかけられる。なら分かれてまとめてやられるリスクを避け、さらに隠密行動で虚を突く。
俺が今いるのは研究所の西側入口近く。俺が連れて行かれた時に入った記憶のある入り口だ。ここから確か、地下に行ったはず。
『配置完了。用意』
手に持ったナイフを構え直す。できるだけ隠密に、変身はいざという時に温存しておきたい。特にMortal evolutionは体力を削る。ザセルとそのほか幹部たちはあれでしか焼却できないから、なるべく戦闘を裂けて敵を捜索する。
音を立てないように息を深く吸って、ゆっくり吐いた。今朝できた傷がまだ癒えていないのか、ずき、と体の中で何かが痛んだ。
気にしてられるか。これが最後だ。
『カウント。10,9,8』
ここで全部終わらせる。全部。
『7,6,5,4』
もう二度と、誰も苦しい思いなんてさせない。あの日の絶望を再演させない。
『3,2,1────!』
何も、奪わせはしない!
『特殊戦闘部隊、各自行動開始』
扉の横にある電子錠に持ってきたカードを当てると緑のランプが光り、横にスライドするように扉が開く。電気のつかない真っ暗な廊下だ。明かりをつければ敵が寄ってくる。
目に神経を集中させた。徐々に暗闇に慣れてきたのか、視界はそこまで悪くはない。ネコ科の夜目をなめるなよ。
足音を立てないように慎重に先へ進む。目的は廊下の先にある中央階段。あそこから地下に行ったはずだ。慎重に進みたいけど、あまり呑気に歩いてもいられない。足音に慎重になりつつ足は先へ急ぐ。
「ヴーーーーー.........」
「!」
オルガーの声。どこだ。
背を廊下の壁につけ、姿勢を低くする。前後を慎重に確認すれば、前にゆらゆらと揺れる濃い影があった。しかも一つじゃないな。かなり数がいる。やっぱり足止めはいるか。
中央階段は捨てる。今いる西棟にも階段はある。10年前から改造されていなければ問題なく下に下がることができるはずだ。
この暗闇にオルガーは俺に気が付いていないらしい。物音に気が付かれないように……
ヴーーーッ!
ヴーーーッ!
ヴーーーッ!!!
「っ!?」
突然廊下に赤い光が散乱し、瞳孔の開いた瞳に強く刺さった。なんだ、何が起こった。この音、まさかこれって、バイオハザードの警報じゃ!
咄嗟に目を腕で覆ったから突然の光にやられることなくすぐに視界は回復した。そこにいるのは廊下に所狭しとつまったオルガー達。それらが俺の存在に気が付いたのか、こちらへ向けてゾンビのようにゆらゆら揺れながら向かってくる。クソ、面倒だが、ここでやっておかないと後々もっと面倒になるな。
構えたナイフに熱を込めれば白に光る。変身はしない。生身で殺る。
足に力を込めて前方へ跳躍した。その勢いを活かしナイフでオルガー達の体を切り裂く。まずは5体。そんで天井に張り付いているやつを2体。次々に襲い掛かってくる植物の蔦や茎を、目を凝らし見極め、身を捻って避ける。その合間にナイフを投擲し、奥にいるオルガネルの目ん玉に直撃したのを確認した。もう一本のナイフを懐から取り出して、細かく動かしながらその場で回転するように振るえばオルガー達は焼け死んでいく。
目の回るような視界に、過去の記憶が脳裏を巡る。
『オルガーは植物と人間のキメラだ。人間を素体に、植物が体にはびこっているといった方がいいかもしれないな』
『……オルガーは、人間をもとに?』
『あぁ。何か問題でも?特異生物にされた人間は助からない。お前も知っているはずだ』
『俺は、今までオルガーをたくさん殺して、』
『……』
『特異生物だからだと、化け物だと思ってた。でも、あれがもとは人間なら、俺は』
俺は人間を殺してるんじゃないか。
目の前に飛び出してくるオルガーを切り捨てる。ろくに形成されていない声帯からすすり泣くようなうめき声が漏れた。
体に絡みついてくるオルガーの手を熱で焼き払えば、灼熱に苦しむような叫び声が耳の中でこだました。
気が付けば視界にオルガーもオルガネルもほとんどいない。ジュウジュウと焼き焦げる音、ボロボロと空気に触れる側から真っ黒な塵となって崩れていく体。低い唸り声は少しずつ聞こえなくなって、廊下に伏せたまま動かなくなっていった。
それらは全て人間の形をしている。
それはつまり、人間を取り込んだ特異生物。なら、
俺は人間を殺している。
「……大丈夫。俺はろくな死に方しない。あんた達より酷い死に方するからさ」
前方を確認すれば、そこには最後の1体が立っていた。足が熱でやられたのか、そこから動く気配はない。ナイフをくるくると手の中で回転させた。目的の中央階段はあの先だ。アイツで最後。
ナイフをしっかりと握りこんで、前にちょうや────
「────!」




