#18-6 おまじないの効果
「ねぇ、龍斗さん。ちょっといいかな」
同日同時刻────SCR本部内にて
海美ちゃんにそう声をかけられて、二人っきりで食堂を出た。優也はすでに食堂にいなくて、トイレかと思っていたらなんと的戸に連れていかれたらしい。煌湊が「もうどこ行っちゃったんですかぁ!」と叫びながら来た道を引き返していったことが記憶に新しい。
俺たちも食堂を出て、静かな廊下を雑談しながら進み、見つけた適当な空き会議室に入る。こんな改まって呼ばれると緊張するな。なんだろう。
「どうしたの?なんか緊張しちゃうけど」
「えっと、その。わ、私ね」
「うん。いいよ、ゆっくりで。まだ時間はあるし」
海美ちゃんは相当緊張しているようだ。申し訳ないけど、何の話でこうして二人っきりに呼び出されたのか見当がつかない。察しが良いとよく言われる俺でも流石に限界ってものがある。だから話してもらわないと困っちゃうなぁ。
緊張をほぐす、ほぐす、かぁ。
……あれなんかどうだろう。
「海美ちゃん」
「ん?」
「優也にね、昔、おまじないを教えたんだよ」
「おまじない?」
「そう。感情が高ぶったときに、あいつ冷静さを失って無茶をすることが多かったからさ、もし感情がぐちゃぐちゃになって抑えられなくなりそうだったら、そのおまじないを試してみろって言ったんだ」
ほら、こういう感じのおまじない。
そういって左手の手首────ミューシスが巻かれているから、正確には左手首の少し下────を右手で握りこむ。トクン、トクンと脈がふれた。そうそう、この脈の感覚。これが速くなってたら冷静さを失ってるかもしれないから、少し深呼吸しろって言うアンガーマネジメント。
昔、優也がまだ幼い子供で、理不尽なこととか仕方なかった過去とかに対して自分の感情に片を付けることが上手くできなかった頃に、練習として教えたおまじない。
今になってもたまにやっているところを見る。教えたその時はその場しのぎのモノだと思っていたけど、あそこまで効果てきめんだったなら海美ちゃんにも試してもらいたいのだ。
「こう?」
「そうそう。そしたらさ、脈触れないかな」
「うーーん……脈、ないかも」
「かも?」
「死んでるかも!」
「そりゃ大変だ!柏木先生呼んでこないとだね!」
「あはははっ!」
緊張で張りつめていた空気が緩んだような感覚がする。よかった。手段は少しずれたけど、目的は果たせたようだ。
そうそういつもの感じでいこう。いつもの、くだらなくて大切な日常のように。
「はぁ、なんか緊張ほぐれたかも」
「それはなにより」
「……ねぇ、龍斗さん」
「ん?」
「今朝優也のこと殺そうとしたでしょ」
「!」
笑みもなく、怒りでも悲しみでもなく、ただ淡々と大きな瞳が俺を捉えて離さない。
気が付いていたのか。あの一瞬を。
「……」
「優也にシリンジ刺したとき、2本目の……心臓を止める毒の注射も構えてたよね。そのまま一緒に死んじゃおうとしたんでしょ。バレてるよ」
「……はは、バレてたかぁ」
「当然だよ。慌てて静電気で吹っ飛ばしちゃった」
「わぁ、あれ意図的にやってたの?」
「私、結構すごいでしょ?」
「すごいや。流石はシャークガール」
「ふふ……ま、気づいたのは当然だよ。だって、」
すると海美ちゃんはいつもの快活な笑顔とは一転して、歳離れした大人のような妖艶な笑みを浮かべる。
「私も殺そうとしたんだもん」




