#18-5 最後の博打
「えっと、食べますか?」
「いい」
「あぁ、そうですか。そうですよね。まぁ、さっき龍斗さんのところで味噌煮込み食べてましたし」
「……」
「……あの、何か御用があるんじゃないですか。わざわざ俺のところまで貴方が来るなんて」
「この会を主催したのはお前か?」
「海美です。俺は料理担当になっただけ」
「怪我はもういいのか」
「俺はそもそもそこまで怪我してないです。Mortal evolutionも使えるぐらいに体力も戻りました。二人も大方怪我はなおったそうです。もちろん全快と言うにはほど遠いですけど」
「そうか」
「それで、まぁ、柏木先生が「ちゃんと飯を食わないやつは回復なんてできない」とまで言い出して、回復のためにしっかりごはんを食べようって名目で、この会をやってる感じです」
「……」
「……」
「名目」
「はい。名目、です」
本心は違うというわけだ。こいつ、いつの間にこんなに本部の人間と仲良くなったんだ。
そもそも、なぜ壮行会などやっているんだ。異常事態に飲み込まれそうになっていた自分を取り戻す。こいつらがこんな会を開いた理由は。
「最後の晩餐、というわけだ」
「……最後」
「特異生物を殲滅し終わったら、次はお前達だ。わかっているだろう?」
「……」
「必要のなくなった化け物は処分する。お前たちの意思は関係ない。すべては人類のために。なら、最後にうまい飯でも食いたくなるか」
「別にそれだけなら部屋で三人で食べますよ。俺たちはSCRのみんなと食べたかったんだ」
「何?」
「……俺たちは独りじゃない。三人だけでもない。全員で戦いに行くんだって、気合入れたくて。これ、海美と龍斗さんには言わないでくださいね」
「!」
恥ずかしそうに眼を逸らしたその仕草は初めて見るものだった。いつもの赤い目をギラギラとさせ戦いに身を投じる兵士ではなく、年相応の男性の姿。きっと、事件も特異細胞も何もなければそれが普通だったはずの姿。
こいつはこんな顔もできたのか。10年見てきたつもりだったが、私の知らないうちにこいつは悲劇の少年ではなく、穏やかで優しい青年に成長していたのか。
気まずそうなフレイムに、何も言わずフン、とだけ鼻を鳴らした。
「それと、白夜長官。それについて俺から提案があります」
「なんだ。今晩の任務に関わるものか?」
「いえ、あいや、ちょっと関係ありますけど」
「何?」
「任務の────」
「────────────」
「────。……長官にとっても、悪い話じゃないでしょ」
「……」
「すぐに返事を、とは言いません。ただ考えておいてもらえればいいです」
「……お前」
「フレイムくぅ~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!」
「げ」
心底嫌そうな顔を見せた先には、余った白衣の袖をブンブンを振り回す小柄な女がいた。車いすからは脱出したらしいが、未だに火傷や切り傷等に充てているガーゼがちらほら見える。しかしここまで喧しい様子を見れば、もう全快と言っても過言ではないだろう。
女────的戸才花はフレイムにとびつくと、グワングワンと音がなりそうな勢いでフレイムの体を揺らす。
「フレイムくぅ~~~~ん!みっつけた!!」
「的戸さん。今は実験付き合いませんからね」
「うんうんわかってるよぉ。でも僕ちんとのお話には付き合ってよ!」
「話?」
「うん!面白い実験結果がでたんだ、最終決戦前出し、使える情報は君の頭の中に突っ込んでおこうと思ってね」
「!」
「まぁそんなに長い話じゃあないさ。すぐに戻るから、借りてもいいかい?長官様」
「構わない」
「おっけーー!じゃあ行こうかフレイムくん!」
「はい」
嵐のごとく突然現れた的戸はフレイムを攫ってそのまま食堂を出ていった。それから数分後、研究部の問題児新エースの煌湊が慌てて的戸を探しに来て、周囲の人に事情を聴いた後すぐに食堂を出ていく。アイツも大概変わり者だが、的戸という度を越した変人の前では苦労人になるらしい。
ぐつぐつ、とすき焼きが眼前で温められている。近くに使用前のお椀があった。
その近くに置かれている生卵を手に取って、お椀の中に割り入れる。数回混ぜた後、すき焼き鍋を少し取り分けて、口に運んだ。
うまい。
醤油ベースの割り下が良い仕事をしている。さらに噛めば噛むほど肉の甘さが口内に広がって、よく味のしみ込んだ野菜たちはある程度の食感を残しつつ柔らかで程よい。うまい。
話を聞く限り、今回用意されている鍋はほとんどすべてアイツが作っているようだ。あんな小さかった無力のガキが、こんな料理を作れるようになっていたのか。
具材をかみしめて、ごくんと飲み込む。
時刻を見れば21時過ぎ。お椀は食堂の洗い物レーンに流して、そのまま会場を出ていった。
フレイムの提案は面倒なものだ。だが、悪くない。合理的だ。
最後の博打とでも言おうか。お前がそれを果たしたなら、私も。
コツコツと廊下に響く足音は、心臓の鼓動とともに、いつもよりもどこか早まっているような気がした。




