#18-4 子供扱いはしない
「白夜長官」
「ちょうかーーん!」
「……」
呼ばれた方向には狛華とスパークがそれぞれお椀を持ち、私に駆け寄ってきた。
彼女らが持っているお椀の中は豚キムチ鍋だ。キムチ独特の香りが鼻をかすめる。
「なんだ」
「豚キムチ、食べました?めっちゃおいしいんですよ!?」
「ふふ、海美ちゃんが鍋の具材を切って味見までしてくれましたからね」
「ほんと!?嬉しい~!……味付けはほぼ優也だけど。でも私も手伝ったし!ありがとう、結奈さん!」
「あいにくだが味噌煮込みで十分だ」
「えぇっ!?そんな……」
「まぁまぁ。また今度作ったら食べてもらいましょう」
また今度、か。
……狛華は優秀だがいかんせん日が浅い。覚悟という面ではまだまだだ。
こいつにまた今度など、気軽に話すことのできる立場でないことがわかっていない。
流石に当人は理解しているだろうが────
「うんまた今度!絶対ですよ?」
「んぐっ!?」
「え長官どうしたんですか」「白夜長官!?」
思わず吹き出しそうになった。なんだこいつは。今の状況を理解していないのか?
ザセルとの戦闘はおそらく苛烈を極める。無事に帰って来られる保証などどこにもないし、可能性も低い。
それを呑気に『また今度』?お前に『また』なんてないかもしれないんだぞ、と理解させる必要がある。戦いの場に出てから後悔しないように。
「えぇ?変なこと言ったかなぁ、私」
「いえ、私にもあまりそうとは……」
「ううん。まあいっか。今度は一番に豚キムチのところ来てくださいね。絶対!」
「お前……」
「?」
「……」
大きな瞳に自分の当惑する様子が映っている。キラキラと星が瞬くようにハイライトが輝き、どこまでも澄んでいる。まるで雲一つの無い夜空のようにどこまでも。
不気味なほどの清々しさに少し鳥肌がたつ。
こいつ、最終決戦から生還すると確信しているのか?
「白夜長官」
「!」
「……失礼を承知の上、言わせてください。なんだかこの子ならやってくれるって信じたくなっちゃいませんか」
「……」
わかっているのか、こいつは、狛華は。
わかった上で、そんな顔を。
これがサメジマの血なのか。スパークの意見に逆らう者がいない。彼女が帰ってくるといえば帰ってくるだろう、と妙に納得してしまう。それだけか?それだけでこんなにスパークのいう事を信じてしまうものなのか?
困惑しながら眉をひそめていると、それがおかしかったのか、ふっと狛華がにこやかに笑った。それに反応し、スパークが花の咲くような笑みを浮かべる。
「もちろんだよ!それに今度は鳥白湯も作るんだ~優也とね!」
「ふふふ、だ、そうです」
「……おい、スパーク」
「はい?」
狛華に向いていた顔はこちらに向く。
今は亡き愛娘──りんねによく似たその顔に、何度心臓を跳ねさせたことだろうか。
拳を握りこんで、奥歯をかみしめた。
「任務が始まればもう逃げられないぞ」
「……」
「途中放棄も許されない。それに」
「長官」
「!」
「私を誰だと思ってるの?か弱い鮫島財閥のお嬢様?何も知らない哀れな化け物?ううん、違う。違うよ。私は残酷な運命にもためらわずに噛みつくシャーク・ガールなんだよ!」
「シャーク、ガール」
「なんでも噛みついて、大好きな世界のこともっと知るために戦うの。だから大丈夫。どんなに怖くたって、立ち向かえるよ。それに優也も龍斗さんもいる。一人じゃない!」
「……そうか」
まだ18歳にしてこの覚悟。恐れ入った、シャーク・ガール。
そういえばりんねにも良く子供扱いしすぎだと咎められていた。年齢だけに目をやってしまってはいけないな。改めて思い知らされた。
大丈夫だろう。こいつなら、必ず帰ってくる。
その後に待ち受ける現実は、伝えないことにした。
適当に切り上げてその場を後にする。私は少し見くびりすぎていたのかもしれない。特殊戦闘部の三体だけじゃない。SCR全体に対してだ。私が想像する以上に硬い絆が生まれている。まったく、発足当初はあんなにバラバラだったというのに、ここまで。
あの少女のおかげも大いにあるだろう。あの子が来てからずいぶんの雰囲気が良くなった。
そして、それはこいつも同じだ。
すき焼き鍋を個別の容器によそいながら、横髪のハネが特徴的なその男は眉を怪訝そうに寄せ、困惑の表情を浮かべている。見るに、三人がそれぞれ別の鍋を担当しているようだ。ストームは味噌煮込み鍋、スパークはキムチ鍋、目の前のこいつ────フレイムは、すき焼き鍋が担当のようだ。




