#17.5-3 知らない思い出
「やだよ。あたし、お兄ちゃんと一緒が良いの」
「────っ!?」
突如周囲の様子が切り替わる。遊園地の入り口だったはずのそこは、遊園地の中のアトラクションエリアになっていた。
ゲームの中の世界をモデルに、ゲームの中のアイテムやオブジェクトが忠実に再現されている。それにあたりには愛らしいキャラクターが園内を闊歩していて、しきりに小さな子供に握手を求められていた。
……いや、なんで?俺はそんなこと考えてないのに。
明晰夢自体詳しいわけじゃないが、夢って自分の中の潜在的な意識だったり、遠い記憶を整理するためにある物だと思っていた。その情報をもとに自分の想像する世界で好き勝手できるものだと。
だけど、俺はこんな遊園地の記憶なんてない。曖昧に想像することはできるかもしれないけど、ここまで鮮明に、かつ緻密に作るなんて無理じゃないか?
ましてや妹の性格や顔なんて俺には────
「お兄ちゃん!」
「あ、え、」
「ほらほら、あっちでリズムチャレンジしようよ!リズムよくたたくとサイサイが出てきてくれるんだって、あの箱から!」
「サイ…………なんて?」
「いいから!」
グイっと力強く手を引かれてリズムゲームとやらの前に立たされる係員の人の説明では、流れるBGMにのってリズム良く二つの太鼓をたたくらしい。右と左、色が違うからわかりやすい。
「楽しみ~~うひゃひゃ!」
「笑い方……」
「何?文句あんの?」
「いや別に……ほら、始まるみたいだぞ」
とりあえずいったんここは話を合わせておこう。何が起きているのか、こいつが誰なのか、わからないけど。
係員の掛け声に、耳を澄ませる。不必要なまでにどくどくと鳴る心臓。困惑ばかりが続くが、それに隠れていた楽しむ自分が顔をのぞかせている。
いよいよカウントダウン。3、2、
「あのねお兄ちゃん」
「え──」
「あたしね、こうして遊びたかったんだぁ」
チャラララ~~~ン!!
「さぁ、ゲームスタート!!」
「うおーーーー!!うひゃひゃひゃひゃひゃ!!」
「あ、え、えっと……!タン、タタン、タンタン!」
「はいみーぎ、ひだり!ひだり!みぎ!」
「こっち、こっち、こっち!」
「うひゃひゃひゃひゃ!!楽しい~~!!」
光る太鼓を音楽にのせて叩いて、単純だけど、面白くて楽しい!
ぴょんぴょんと太鼓の間を跳ねるように移動する。その刹那、心の底から楽しんでいそうな少女と目があった。相手も気が付いたのか、にぃ、と嬉しそうに猫目が細まる。
「うひひ、お兄ちゃん、楽しい?」
「あは、はははっ!なんだこれ、楽しい!」
「でしょ~~!!ふふん、はいみーぎ、ひだり!」
「あはははははは!」
「うひゃひゃひゃひゃ!」
たっぷり1分くらい。太鼓をたたいた結末に、
「おっめでとうございま~~す!サイサイがなんと箱から出てきてくれました!!」
「わぁ~~!やったぁ!」
「よっしゃ!やったな!」
パチンっ!とハイタッチをする。俺は少しだけかがんで、少女は高くジャンプして。身長差も大してないのに、顔を近づけて楽しくって。
次に並んでいる人がいるからと、その場をすぐに後にすれば、少し離れたところにいたらしい母さんが俺たちを呼んだ。
「優也、××、こっちにおいで」
「え、何々~?なにに?」
「なににって何だよ」
「なんでしょ~~ぷくく」
「なんだとこの~~!」
「にゃーー!」
ぷにぷにの頬を軽く引っ張れば、嬉しそうに笑いながら少女は逃げるよう身をよじった。待て待てと追いかけようとしたところで、母さんが困ったようにまた俺たちを呼ぶから、さすがにそっちに意識が向いた。
あれ、俺なんか、変?
なんか考えてたことがあったんだけど。なんだっけ。
……まぁいいか。俺は今日、家族みんなで旅行に来たんだし。それも遠路はるばるここまできたんだから、楽しまなきゃ損だよな!
「お兄ちゃん~えへへ」
「なんだよ」
「うへへ、あのね、こうやってくっつけるの嬉しいの」
「いつもやってるじゃん。てかはなれろよ~あつい~」
「うひゃひゃ!あ、お母さん呼んでる~!」
「やべ、早くいかないと」
母さんのもとへ向かえば、そのさらに奥で父さんが待っていた。そこは開けた広場。着ぐるみのキャラクターが手をブンブンと振っている。
「二人がゲームしている間にお父さんが写真撮影並んでおいてくれたのよ。さ、写真撮りましょ」
「うん!」
「やった~マリリオンとルールジだ!かっこいい~!うひゃひゃ!」
「はいはい並ぶぞ~兄ちゃんについてこい!」
「はぁい!」
右隣に少女。俺たちを挟むように両親が立つ。父さんは俺の頭をなでて、母さんは俺と少女の方に優しく手を置くように。
「はーい撮りますよ~!」
係員がカメラを構える。家族寄り添って、笑顔を浮かべて、
「ねぇお兄ちゃん」
「ん?」
「──大好き。大好きだよ、ずっと」
小さな声で囁く。幸せそうに眼を細めて、優しい笑みを浮かべて。
「はい、チーズ!」
パシャっ!
「お写真確認してもらっていいですか?」
「はい。……大丈夫です。これでお願いします」
「ではすぐに印刷できるので、少々お待ちください」
母さんが係員に連れられて、手持ち無沙汰になったのか少女に抱き着いてきた。それを見た父さんは、本当に××は優也のことが好きだねぇと笑う。それに反応するように、俺を抱きしめながらぴょんぴょんと跳ねた。
「うん!好き!だーーーい好き!」
「なんだよ、なんで?」
「おなかの中でずっと聞いてたもん。かっこよくて、やさしくて、すてきなおにいちゃんって!」
「おなかの、中……?」
「それでねぇ、ずっと見てたら、本当にかっこよくて優しくて、大好きになったの!あたしのお兄ちゃん、ほんとにすごいんだって!」
話し始めればもう止まらない、まるでブレーキの壊れた車のように語り始める。やれ厳しい戦いに身を投じることになっても決して退かなかったとか、やれ化け物に怯まず飛び出していったとか。
……戦い?化け物?
どれも知らない。あれ?俺は、そんなの、知らないのに。
「それにね、龍斗さんって人が敵になっちゃっても『俺を信じろ!』って言った時はしびれたねぇ。それに海美ちゃんって子を元気付けたんだよ!」
「……龍斗、海美?だれ、それ」
「まだまだたっくさんあるの!うひゃひゃ!」
「そうかそうか。××は本当に優也が好きなんだね。あ、お母さんも帰ってきたみたいだし、行こうか」
「次はどこー?」
「あそこにブロックをたたくと音が鳴るフォトスポットあるらしいよ。見に行こうか」
「やったー!」
家族で移動する。ゲームのように叩くとコインでも出てくるのかな?ぴょんとジャンプして、グーでブロックをたたくんだ。
そう。ぴょんとジャンプしてグーで……叩くんだけど……
「た、高い……」
遠くから見ている分にはそこまで高くないのかなとか思ってたけど、近づくと意外と高い!俺の身長じゃ届かないよ!
でも叩きたい。それも自分で。自分でたたきたいのに。
う~~こうなったら、
「父さん、抱っこ……抱っこして!」
「ん?あぁ、もちろんだ。よっこらせ」
「わっ!」
抱えあげられて足がふわりと浮く。あんなに遠かったブロックは目の前だ。
拳を振り上げて、ブロックの底面に描かれたマークをぽこんとたたく。すると
チャリーン!
「わぁっ!」
コインの音。わぁ、楽しい!
連続して叩く。チャリンチャリンとまたコインの音。
楽しい!楽しいよこれ!まるでゲームの中に入ったみたい!
「あたしも!あたしもやる!お母さん抱っこ!!」
「ふふ、はいはい。よいしょ」
「うひゃひゃひゃひゃ!えいっ!」
チャリーンチャリーンチャリーン!
「うひゃひゃひゃひゃ!うひゃひゃひゃひゃ!たぁのしぃ~!」
「俺もやりたい~」
「あたしの番!」
「俺も!」
「あたしも!」
「はいはい、二人とも喧嘩しない。せーのでやろうね。いくよ?せーの!」
チャリーン!
「……あれ?」




