#17-23 朝日が昇る、未来を照らす
「誰の話してんだ」
「!」
海から太陽が覗く。まばゆい光が放射状に広がる。それが照らすのは、広場の階段の上に横に並ぶ、3体の特異生物。
長身の男は腕を組み、上から余裕の表情で敵を見据えている。
若い女性は拳を握りしめながら目の前の敵を睨みつけ、肩に力が入っているのか怒り肩になっている。
長身の男と若い女性に挟まれる男性は、静かに赤い瞳を開いた。
「あら……!優也くん、戻ってきたのですか?」
「あぁ。お前を殺しにな」
「!」
光が差し込む赤い瞳は、彩度をあげて輝く。一度消したはずの光が再び宿っている。それも消す前よりも強く強く。あそこまで堕としたというのに、なぜ?何をしたというのか。
ベンチから立ち上がり、優也へ手を向ける。
「私はね、優也くん。人間は家族のことを大切にし、失えば心が折れる生き物だと聞いていました。それが自分の手で殺したとなれば尚更。違いましたか?」
「あぁ大間違いだ。俺は人間じゃないからな」
「!……っふふ、そうでしたね。でも優也くん、一度はお仲間を殺したその手で、また拳を振るえるのですか?」
「殺されてねーよ。お前の目は節穴か?」
「そうだよ!優也とずっと一緒だもん!」
龍斗と海美が庇うように前に出る。チッ、と思わず舌打ちをした。こいつらが適当なフォローでも入れたのだろう。
でもそれは、逆手に取れば好都合。再び結んだ絆とやらをまた目の前で粉々にしてやれば、今度こそ立ち上がれなくなる。
今度こそ再起不能にしてやろう。そうにんまりと笑った。
じわじわと嫌な音を立てて、ザセルの周囲にオルガー、オルガネル、オルガンがコンクリートの隙間から生える。
もっともっと、恐怖を煽って。
「ねぇ、みなさん。一つ提案があります。私たちと手を組みませんか?」
「はぁ?」
「変身の代償があるのでしょう?我々と争う中で、昨夜のように死ぬ可能性もある。死ぬのが怖くないですか?キメラになって無様に死ぬか、あるいは想像を絶する苦痛と絶望の中死ぬか。私と手を組めば、代償を癒し、家族とも過ごせます。それこそ戦闘で死ぬことだって──」
「怖くない!!」
「!」
優也の左隣にいた海美は一歩踏み出す。風が髪を流す。それでも決意を秘めた大きな瞳はザセルを捉えて離さない。
風に遮られないどころか、隣の優也の耳をつんざく勢いで叫ぶ。
「怖くないよ、そんなの!知りたいこと全部掴み取るためなら、3人でいればこれっぽっちも怖くないんだから!」
すると左にいる龍斗が頭の上で手を組みながら一歩踏み出す。
戦闘で崩れた髪をかき上げて、不敵に笑った。
「そのとーり。俺らは諦めが悪いんだよ。夢の正体に辿り着くまでは、命を燃やし続けさせてもらうよ」
ザセルの横に控えるアスカロイは2人を鼻で笑う。
周りにゆらめくオルガーたちも俺たちを嘲笑うかのようにサワサワと音を立てている。
「愚かな種族は理解に苦しみますねぇ、ザセル様。あのねぇ、話聞いてました?戦えば戦うほど貴方達は死へと近づいていく!決定で絶対で確定の未来なんですわ!ならザセル様に従った方が得でなくてぇ!?」
優也一歩前へ出る。先に前へ出ていた2人の間へ、2人の隣に立つように。
「確かに怖い。どれだけ目を瞑っても逸らしても、そこに確かに恐怖はある。変異も、代償も、死も。でも」
ブワッ、と風が一際強く吹いた。雲は流されて、澄んだ空は高く清々しく晴れ渡っている。
「独りで怖くて進めなくたって、2人がいてくれたら進むことができる。お互いがいてくれるから、俺たちはどこまでだっていける!!だから──」
風が吹き渡って少し熱く赤くなった目元を冷やしていく。その表情にもう曇りはない。
動揺するアスカロイを強く睨みつけながら、手に持った特殊なシリンジのくびれ部分をパキンと割った。
「──お前の言うクソみたいな未来なんて、この手で変えてやるよ!!」
Burst Flame!Ready for injection!
Storm!Ready for injection !
Spark!Ready for injection !
「「「change my feature!!!」」」
Mortal evolution!
Genes are promoted!
幻想でも見ているのか。そう思わせるほどに現実離れした姿の龍が空を舞い、見るだけで背筋が凍る鋭い牙を見せるサメの化け物が地を泳ぐように飛び出す。
雷神と風神が思うままに暴れ回り、そこはまさに地獄の様相だ。地面に蔓延るオルガー達を
風で切り裂き、
「ストーム、変身かんりょーう!!」
雷で焼き殺して、
「スパーク、変身完了!!」
夥しいその数をどんどん減らしていく。
その双璧の合間、烈火に燃ゆる炎が火花をあげる。
熱は地面を、空気を伝い、その場にいるだけでオルガーを焼き殺していく。並ぶ石畳の階段を一歩、その足を下ろせばバキンと地面が放射状に割れてマグマが吹き出し、幾つもの小爆発を起こした。オルガーはおろか、オルガネルやオルガンもろくに逃げられず爆発に巻き込まれて死んでいく。
「フレイム、変身完了」
口を開けば火花とマグマが垂れ、地面がジュワリと焼ける。四肢を動かせば破壊あるのみ。前に二つ、後ろに一つ、ぎょろりと開いた赤い瞳から逃げられるものは誰もいない。
化け物、悪魔、邪神。
その醜悪な姿は、そう形容されるに相応しい。
「アスカロイさん」
「ひっ、ひぃぃっ!?あ、たすけ、」
「貴方に新たな力を差し上げます。それで優也くんを連れ戻してください。」
「えぇっ!?」
「私も援護します。ただ、この環境ですから私の植物たちは当てにしないように。ネイチ、貴方もアスカロイさんのサポートを」
「はい」
シュルシュルとザセルの周りに茎が伸び花が咲く。ザセルの足先から上るように体に絡みつき、同化していく。
絡みつく植物を巻き取るように、ワンピースのフリルを揺らしてその場で回り、見るものを魅了する優雅な動きで腕を頭上から前へ回し、パチン、と指を鳴らす。
「変身」
その姿はたちまち植物の最上位に君臨する女王の姿。あまたの花々で覆われた目は、一体何を見通しているのか。
地面に咲いた花は熱でたちまち黒ずみになり、塵すら残らない。
「ここで終わらせる」
「ふふふ、できるといいですねぇ」
「SCR、戦闘を開始します」




