#17-20 大切に想うものは
「2人には、安全なところで……っ!ずっと笑っててほしかったんだよ!!」
はぁ、はぁ、と呼吸が荒れる。握り込んでいた隊服が少し破れているのを見て、ゆっくりと拳を開いた。爪が長かったのか、力がこもりすぎたのか、拳には血が滲んでいる。
胸がスッとした。同時に、あぁ、もうダメだと思った。
「なんだよ、それ」
こんな自分勝手な事情で大事なことを共有しない上に今回の失態まで。嫌われたって仕方ない。俺を嫌った2人がいなくなったら、隠していた意味もないのに。あーあ、全部言っちまったな。
でも、2人が死んでいなくなるよりはマシだ。
「おい」
嫌われたって、生きててくれればいい。むしろ俺を嫌って避けて戦いの場からいなくなれば、戦闘からも代償からも遠ざけることができる。
龍斗さんの拳が震えている。
「なぁ、なんだよそれ!」
ドン、と衝撃を胸に受けた。龍斗さんの拳だ。避けようと思えば避けられたけど、避けなかった。
抵抗せずに倒れる俺に馬乗りになって、また胸ぐらを掴まれる。後ろから海美が慌てて龍斗さんの肩を掴み止めようとしていた。
いいよ。もう、いい。
「ねぇもうやめて!!やめてってば!!」
「ふざけんじゃねぇ!!そんなことで俺たちが喜ぶとでも思ったか!?納得するとでも思ってんのかよ!!」
「はっ……お前らが喜ぶ?納得?そんなのどうでもいいね!俺はわがままなんだよ。それにアンタ達にとっても良い話でしょ?なら安全なところで、黙って見てろよ!!」
「この……大馬鹿野郎!!」
ゴッと本気の拳が顔に飛んでくる。口の中がキレて血を吐き出す。それを見た海美が顔をさらに青くした。
「龍斗さんやめて!!」
「そんなに1人で戦いたきゃやればいい!でもそれなら俺たちの大事なもん全部守れるようになってから言えこの馬鹿!!」
「大事なもの……!?」
「できもしねぇくせに、自分1人で全部背負い込んで自爆して、それに巻き込まれるこっちの身にもなれ!!大迷惑なんだよ!!それなら……始めっから一緒に背負っていけばいい話だろうが!!」
「単独行動で迷惑をかけたのは謝ります!でも次はもっと上手くやる!!アンタ達の大切なもん死んでも全部守ってやるから!!だから安全なところで生きてろよ!!」
俺も龍斗さんも退かない。視界の端で、海美が何か堪えたように顔を顰めたのが見えた。
海美に意識が一瞬逸れてしまったことを感じ取ったのか、龍斗さんは俺の顔の真横の地面を殴りつけ、再び視線がかみあう。
「何がもっと上手くやるだ!それじゃ全っっ然守れてねぇだろ!!いいか、俺たちが大切に想うのは何よりも、」
襟首を掴まれて顔がぴたりと近づく。視線がゼロ距離でかち合う。
「優也、お前だ!!!!」
「……お………れ?」
は、と息がこぼれた。
「優也にとって俺たちが大切なように、俺たちにとっても優也が大切なんだよ!!なんだよ死んでも守るって!!例えお前自身だろうと、俺たちの大切な存在を傷つけんなら許さねぇぞ!!」
「……ぁ、」
俺が、大切?
俺が俺自身を傷つけるのも、許さない、って。
どうして。俺の身勝手な理由で、色んな人に迷惑かけたのに。アンタ達に一生残るような傷だってつけたのに。
どうして、
呆気に取られる。もう嫌われると思った。もう見捨てられるって。それでもいいって、思って。
でもなんで、アンタ泣いてんだよ。
龍斗さんの後ろにいた海美が駆け寄ってくる。
「そうだよ……!!私達は、一緒なんだよ!」
「一緒……?」
「一緒なの。大切に想う気持ちは一緒なの!同じなんだよ馬鹿!!何1人でカッコつけようとしちゃってんの!?馬鹿じゃないの!?!」
ぐす、と大きな瞳から涙が溢れていく。
「私たちだって優也のこと守りたい!……ううん、守るとか守られるとかじゃない!!私たちは優也の隣で最後まで一緒に戦いたいんだよ!!独りぼっちになんて、絶対にさせないんだから!!」
「海美……」
「だから優也が進んで独りぼっちになろうとしないでよ、隣に立たせてよ一緒に笑ってよ一緒に戦ってよ一緒に生きてよ!!!なんでそうやって置いこうとするの酷いずるいヤダ!!そんな辛い顔しながらなんてもっっっとヤダ!!!」
溜まった涙は海美が首を振るたびボロボロとこぼれていく。
目の奥が熱くなる。
「そういう自己犠牲がいっちばん嫌!!死ぬ気でいるなら、一緒に死んで!!」
パチン、と音が鳴るほどの勢いで両頬を挟まれた。ぐす、ぐす、と鼻を啜ったままの海美の瞳には揺らがない決意が見える。
あぁ、なんで、
なんでお前らが泣くんだよ。
泣きたいのはこっちなんだよ。
「……だって、」




