#17-19 怒り
「2人はここにいてください」
「……え、ここ?ここって、ここ?」
「…………」
俺にできることって、これぐらいしかないから。
「そう。もうすぐここに救援部隊も入る。ここが簡易拠点になるはずだ。それなりにダイバー大橋からも距離がある。大丈夫。ここまでザセルもアスカロイも来させやしない」
龍斗さんが機転をきかせて、俺の髪色が変わったのを見たと同時に爆発を起こし煙をあげて、それに乗じて俺たちをここまで吹っ飛ばしてくれた話は聞いた。ダイバー大橋からもかなり距離がある。避難所にするにはもってこいだ。
というか、救援部隊が到着したら2人は一度撤退させてもいいだろう。俺1人でも、mortal evolutionを使えばネイチもアスカロイもザセルもなんとかできる……まぁ、全部を全部焼却できるかは怪しいけど。
「え、いや、待って待って優也。別に私たち大丈夫だよ?スーパーセルヒールだって使ってるし」
「別に2人のその傷を心配してるんじゃない。さっきまでの戦闘の怪我も疲れもあるだろ。俺は別に、何度か爆撃喰らったぐらいだし」
「いや結構大事だよ!?」
「大したことねぇ。とにかく2人はここで待機してろ。俺1人で充分だ」
「ちょっ、ちょっと優也!!それは───」
ゴンッッ!!
「っ!!?」
頬に強い痛みが走り急に視界が回転する。咄嗟に手を地面について、なんとか顔面をぶつけずに済んだ。
唇が切れたのか血の味がする。親指で擦って拭いて、指先に熱を集中させて出血部位を焼く。
ジンジンと頬が痛みと熱を発する。視線の先には驚く海美と、ゆらり幽霊のように立ち上がった大人気のない大人だ。
「ちょっと龍斗さん!?」
「何言ってんだお前、なぁ」
「……2人はここで待ってろって言ったんです。俺が全部蹴りをつける。次は上手くやります」
ヒュン、と風が通る。見える、けど。
避けるには遅すぎた。
「ガッ……!?」
鳩尾へ綺麗にボディーブローを叩き込まれる。
その衝撃で床をゴロゴロと転がっていき、壁に背中からぶつかってやっと止まった。
「ちょっ……!?ちょっと龍斗さん落ち着いて!!」
「お前、本気で言ってんのか?お前の勝手な単独行動のおかげで、こちとら大迷惑なんだよ」
ゲホゲホッッ!と咳き込む。怒りを込めた冷たい声が地下駐車場によく響く。
怒ってる。
そんな龍斗さんを止めようにも止めれず、後ろでただワタワタと混乱している海美が視界に入っていた。
ゲホ、と一つ大きく咳をして、なんとか前を向いた。
「あの時お前が無闇につっこんだせいで、海美ちゃんと俺がどんな危険な目にあったか、忘れたとは言わせねぇからな」
「ゲホゲホッ、それは……!!あの時はそうするしかなかったから!!」
床に転がって上を見上げながら叫ぶ。ちょうど蛍光灯の光が逆光になって表情は窺えたなかったが、怒りに満ちた絶対零度の目が俺を見つめていることだけは、背筋の凍る感覚で感じとれた。
それに怯んでいると、龍斗さんは俺に近づき胸ぐらを掴んで無理やり立たされる。
抗議の意味を含めて強く睨みつけても、表情がないその顔には全く効いていないようだった。
「そうするしかなかった?3人で戦えば良かった話じゃないのか?お前1人だけで突っ込んで戦おうとするからあんなことになったんじゃねぇのかよ」
「……あの状況で動けたのは俺だけです」
「あの時ザセルはお前を狙っていたこともわかっていたはずだ」
「海美をあの状態で放置しろと?」
「3人で動けばより最善の行動が取れただろうが。お前の焦りが、俺たちを殺しかけたんだよ」
「っ、」
「なぁ、何を焦ってんだ。また俺たちを殺すつもりか?」
「………」
「はっ、お得意のダンマリか」
俺が沈黙を破らない間、ちょっと、えっと、と横で海美は狼狽えているだけだ。
ぎり、と掴まれている隊服が握り込まれて悲鳴をあげる。
「そういや結局代償を隠してた理由も聞いていなかったなぁ。いい加減話したらどうだ。お前は何故ずっと代償のことを黙ってた。どうしていつも1人で行こうとする。俺たちが心配ってだけじゃねぇんだろ、どうせ」
「……!」
「何がそこまでお前を焦らせる。何がお前をそうまでさせる!!優也!!答えろ!!!」
「〜〜っ、俺……は」
「あぁ!?聞こえねぇよ!!」
「俺は!!俺が傍にいるって言ったから、守り抜きたかっただけだ!!」
「はぁ!?俺たちがいつ守ってくれなんて頼んだんだよ!!俺たちは仲間だ、守り守られる関係より、互いを助け合う関係なんじゃねぇのかよ!!テメェから見たらそんなに俺たちはよわっちいってか!?」
「違う!」
怒りのまま突き飛ばす。
「俺は、ゲホッゲホッ……俺は!!」
怒りのまま叫ぶ。
「ただ、……ただ!!もう独りぼっちが嫌なだけなんだよ!!」
「!……」
殴られた鳩尾も顔をジンジン痛む。本気で殴りやがって、人が必死に隠してること乱暴に引き摺り出そうとしやがって!!
腹を抑えながら叫ぶ。喉の奥に押し込めていたこと、全部。こうなったら全部吐き出して、とことん嫌われてやるよ!!
「お前らなんかただの同じ部隊ってだけだった。でもだんだん大事になって、どんどん目が離せなくなって、気がついたらかけがえのない大切な人になっちまった」
「……」
「変身したら、変異の代償がアンタ達の体を蝕む。代償を自覚したら、アンタ達はきっと戦うのが怖くなる。そうしたらもしかしたら、」
握りしめた手が隊服を掴んでブルブルと震える
「俺は、1人で戦うことになる」
「……」
「アンタ達のこと信じたかった。きっと代償のことを知っても戦ってくれるって。でも……でも、でも……怖くて……!!言ったら1人に、独りぼっちになるかもしれないって!!」
「優也……」
涙を含んだ海美の声に、龍斗さんは俯いて何かぼやいている。
「なんだよそれ……」
「もう1人は嫌だ。あの日と同じ絶望なんて、もうっ、もう!!耐えられねぇんだよ!!」
「なぁ、」
「代償も敵からも、俺が絶対に守るから!アンタ達の未来も全部守るから!!だから、だから!!」
息を吸い込んだ。詰まっていたものが抜けた今、呼吸は楽だった。
「2人には、安全なところで……っ!ずっと笑っててほしかったんだよ!!」




