#17-17 二度と君とご飯を食べられないんじゃないかって
視界はぼやけている。数度瞬きを繰り返して、ようやくはっきりとしてきた。
視界が明瞭になった途端、ズキ、と頭が痛む。少し呻いて体を起こそうとすると体にも痛みが走った。全身をぶっ叩かれたような感じ。全身打撲でもしたのか。それとも高いところから落ちた?状況はどうなっている。俺は今、何を……
「ぅ……う?」
ゆっくりと上体を起こす。ここはどこかの地下か?地下駐車場のような場所だ。白い蛍光灯が静かに俺を照らしている。外の様子はわからない。
こんなところに、どうやって来たんだっけ。最後の記憶は……
「ゔっ!?」
ズキ、とひときわ強い痛みが頭を刺す。うまく思いだせない。何が起きている。服装が任務用の隊服ってことは多分、任務で出てきたんだろうけど……インカムもない。というか、任務で来ているなら龍斗さんと海美はどこに行ったんだろう。一緒にいるはずだ。
周囲を見回す。普通の地下駐車場だ。ここにどうやって───
「───え、」
後ろを振り返ると、そこには
「龍斗さん……!?海美!?」
床に伏せている二人がいる。一目みればわかる、瀕死状態───
「あ゛っ!!?」
ズキン、ズキン、ズキン。
頭が割れるように痛い。なんだ。何が起きている。わからない。痛い、痛い痛い痛い……!?
頭を抑えてその場に膝をつく。痛い。痛い。痛い……!!
『っだぁ!!!この、めんどくさいことしやがって!!』
『クソ、クソクソ……!!なんでこいつら振りほどけねぇ!!どうして、こんな雑魚ごときに!!』
自分の知らない声が聞こえてくる。濁流のように流れ込んでくる映像はどれもむごいものだった。
全てを思い出していく。すべてを理解していく。全部。全部。そうだ、
俺が二人を殺したんだ。
ヒュ、と息が詰まる。
頭痛が収まって、ようやくまともに上半身を起こす。そこには倒れて動かない二人がいた。二人は全身ひどいやけどをしていて、特に龍斗さんは腹部が、海美は顔が赤黒い血に染まっている。それが、致命傷だってことぐらい、誰でも、
「りゅ、ヒュッ、ヒューッ、ゲホッうみ、」
瀕死じゃない。
「ひゅっ、は、ぁっ、龍斗さ、海美」
死んだんだ。
「う、ぅぅううううゔゔゔ!!!!」
俺が殺した。
ぐしゃぐしゃと頭を掻きまわした。胃の底から何かが這い上がってくる。視界が定まらない。ぐらぐらぐら揺れて、回って。過呼吸になった息は冷静さを欠いたまま戻らない。苦しい。
信じたくない。けど、全部俺がやったことだ。俺が、俺が、俺が!!!
「ヒュっ、あぁ、ひっ、ご、めんな、ヒューッ、ごめん、ひゅ、ごめんなさ───」
「──勝手に」
こつん、と頭に拳が当たる。
「殺すな!」
「───あっ、ひゅっ、ぇ?」
顔を上げる。
「よ。やっと起きたな、寝坊助」
「ふふ、あぁ、よかったぁ」
視界が歪む。
「大丈夫。俺たちは生きてるから」
「当然。私たちが優也のことおいて逝くわけないでしょ?」
「ま、結構やばかったけど。的戸がいつのまに作ったスーパーセルヒールがなきゃ、ここまで持ってない」
「そうだね。帰ったらお礼言わないと」
喉が震える。
「りゅ、ひゅっ、ひっ、とさん。ひゅっ、ひゅっ、うみ」
「おぉおぉ、落ち着け。な、もう大丈夫だから。見た目酷いけど中は元気だよ」
「確かに服は血まみれだね。でも大丈夫大丈夫。ね、ほら、大丈夫の約束、まだ破ってないでしょ?」
「うぅ、うぅぅぅぅうううううっ!!」
二人に飛びついた。もう、無我夢中に抱きしめた。
勢いが良かったのか、二人も俺もそのまま床に倒れこむ。
「うわっ」「わっ!」
「うぅわあああああああああっっ!!!」
力いっぱいに抱きしめて叫ぶ。喉が枯れそうなぐらい、遠く遠く吼えるみたいに。ほとんど悲鳴に近かったかもしれない。それも耳元で。きっとうるさいだろうに。
それでも二人は、もう仕方ないなぁとか、こんな優也珍しいなぁとかふざけて笑って、背中をやさしくなでながら待ってくれていた。ただ、片時も離れることなく、ずっと傍にいてくれた。
「ごめん、ごめんなさい、俺、俺は二人に、酷いこと、」
「あぁ、結構いったなぁ~?」
「ねぇ~?これはしばらく優也が朝夜ごはん作らないとだよね~?」
「ついでに夜食も作ってもらおうかな~?一緒にドラマ見る時のおつまみも!」
「3時のおやつもほしいかも!」
ポカンと口を開けた。え、いや、そんな呑気に返す話じゃないだろ。
「ちょ、ちょっとは、ひゅっ、まじめに」
「いやいや、何言ってんの。大真面目な話だろ?」
「そうだよ!あージャンル何がいいかな〜和食とか食べてみたい〜」
「あぁ和食、いいなぁ。煮付けとか食べたいかも」
「おいちょっとは人の話を」
「ははは、楽しみだ。優也のご飯」
「ね。本当に。優也の作る美味しいご飯、もう二度と、」
ぽろ、と突然海美の大きな瞳から涙がこぼれた。
「食べられないかと思って……」
ぽろ、ぽろとガラス玉のような涙が頬を伝っていく。なんとも言えない表情で、慰めるように龍斗さんが頭を撫でた。
「……そうだね。ほんと怖かった」
「もう優也のおいしいごはん食べられないのかなとか、もうくだらない話で笑うこともないのかなって思ったら、ひっく、なんか、すごく怖くなって」
「ひゅっ、ひっ、……う、み……」
「ばか。ばか。もう」
海美が俺を抱きしめる。その上からさらに龍斗さんが海美ごと抱きしめる。
冷え切った体に二人の体温が移る。二人の体だって別に冷たいのに、三人寄り添えばなんだか暖かい気がした。
胸に突き刺さったままの罪悪感は、氷解してはくれないけれど。




