#17-14 世界が死ねというのなら
『ストーム』
『へぁ?』
『お前、何を企んでいる』
『俺ですか、いや別に』
『こんなところで隠しても意味はない。話せ』
……おーおー怖いこと。流石はSCRの長官様だ。人を見る目だけは確かなもんで。
ポケットに手を突っ込む。別に寒いわけじゃないけど、なんだかそうしたくなって。
『まぁ、ありますよ。次の手』
『え?』
『何々!?知りたい!!』
でも言いたくないのは、この子のこの笑顔があるから。
ちょっとした抵抗にあーとか、うーとか唸っていると、何かを察したのか白夜長官はあきれたようにため息をついた。
『お前の考えていることは大体わかった。だが、多分こいつは嫌と言うぞ』
『……ですよねぇ』
『何が何が?』
『あぁ、ううん、その……』
『……?』
狛坂も狛華ちゃんも何かを察したのか、どこかくらい表情でうつむきかけている。
『……もしかして、痛いこと?』
『痛い、ねぇ』
『~~っもう!!』
『わっぷ!?』
パチン、という音が司令部に響いた。
作業していた司令部員が手を止め、一斉にこっちを凝視している。
俺はといえば、両頬を両手で挟まれて、タコみたいな口をして驚き固まったところだ。
『う、うみひゃん?』
『私のこと、舐めすぎ!!私だって覚悟ぐらい決めてるよ。だって、だってさ』
誰も何も言わない。シンとした空間の中で、静かに、けれど確固たる意志を持った声色。
『優也の優しいあの笑顔、ほんっっっとに大好きなんだよ。それをあんな……あんな!!あんな顔にしやがって!!私はすごく怒ってるの!!』
声量は熱を持っていく。
『約束だってしたんだきっと全部大丈夫って!なら私が大丈夫にしてみせる。私が優也のこと、またあの大好きな笑顔で笑わせてやるんだ!!!!』
決意を秘めた瞳が、何にも邪魔されずに輝いている。
『絶対に退かない。絶対に助ける!だから私もつれて行って!!』
『!!……』
ビリビリと、感電したように指先が震える。それは空気を伝って、司令部全体に伝播する。
そっか。そうだよね。そうだよ。俺だってそうだ。
俺もずっとずっとずっと、怒ってるんだ。大切な相棒に何てひどいことをってさ。同じだよね。
『龍斗さん!!』
『……いわゆる特攻だよ』
『!』
『一度進めば戻れない。やって後悔しても無駄だよ』
『……』
『それでも、やるの?』
『……ねぇ』
ふっ、と海美ちゃんは笑った。それが狂っているのかどうかは、すでにとち狂った俺にはわからなかった。
『私を誰だと思ってるの?』
『……これは失礼しました。シャーク・ガール』
恭しく礼をすればニコっといつものように笑って両頬から手が離れる。耳に着けたインカムで例の人物につなげて、そのまま耳から外し、スピーカーモードに切り替える。
『的戸。例のは間に合いそう?』
『僕ちんに不可能はなーーい!というか合法?的に?フレイム君の耐熱実験もできるわけ!?それもフレイムの変身態で!?やった~~!!いやぁいつもいつも人間態での耐熱実験ばっかりだったからさぁつまんないなーマンネリだなーってところは実はあったんだよね。いや別にいつも成長しているからすごいなぁとは思ってるよ?けどやっぱり変身態でのじっ』
ガタガタガタ……
『あっ、煌湊です~~!準備は完了しています。ぶちあげますよ!』
『了解。じゃあ明日までに持ってきてくれ』
『はーい』
ピ、と音声を切る。狂人はいつも通りで助かるな。
『今のは……』
『的戸にフレイムの体温を強制的に上げさせる薬を作らせた。これを直接フレイムにぶち込む』
『なるほど。外因的ではなく内因的に温度を……でもそれは、その……狙撃で薬を入れるってことじゃないんですよね。熊の麻酔銃みたいな』
『あぁ。作ってもらったのがシリンジの薬だから、目に見えない速度で動き回るフレイムに狙撃で、それもピンポイントに刺さりそうな首とかを狙うにも無理があるでしょ。熱さえ与えればいいロケットランチャーとはちがってさ』
『つまり、お前達2体が自爆覚悟でフレイムにそれを刺す、というわけだ』
『それに刺した後、瀉血されたり、或いは突き立てたシリンジをすぐに抜かれたりしないようにある程度行動を制限する必要がある。そこで俺たちがフレイムに飛びついてでも止めれば、万事解決ってわけ』
『とび……それじゃ、』
狛華ちゃんが顔を青くする。
『その熱でお二人は』
『死ぬかもね』
なるべく軽く言って見せた。けれど司令部全体の空気が重くなったのは確かだろう。
白夜長官はすべてがわかっていたように何も言わない。てか、多分わかってたんだろうな、全部。俺の言いたいことなんて、全てお見通しってわけだ。
優しい狛華ちゃんは数秒考えて話を切り出す。あぁ、ごめんね。
『刺した後すぐに離れれば、まだ!』
『残念だけど、次の三の矢のためにすぐに離れるってことはできない』
もし的戸の作った薬が上手く効かなかったら?その後の三の矢を考えておかないといけない。
高温にしてもダメなら、残りは一つ。
『次に打つシリンジがあるからね』
『次……?』
『毒だよ。心臓を止めちゃう毒。しかも人に打つ奴の100倍の濃さでね』
『……っ!』
その毒を打ち込めば流石に死ぬはずだ。特異生物の一番であり唯一の弱点、≪心臓が止まれば死ぬ≫。これを突くしかない。
『心臓を止めるなら、ザセルでもごたごたうるさい世界でも、司令部でもない。』
世界が死ねというなら、幕引きは俺たちが。
『俺と海美ちゃんがアイツの心臓を止める。最後は譲らない。誰にも』
……そんなに怖い顔してたかな。俺。笑ったはずなのに、みんな怯えたような顔してるけど。
唯一笑い返してくれた海美ちゃんが俺の肩に手を乗せる。
『私たちやるよ。でもダイジョーブ!別に死にに行くとは思ってないし、できる限り生きて帰るよ』
『もちろん第一の矢で済んでくれれば万々歳。よーく配置と作戦練りましょうや』
舞台となる周辺地域の地図を広げながら、あっけらかんに笑って見せた。




