#17-6 世界の声
『特集!!人に化ける特異生物!?』
なんだよ、これ
『はいなんと今回はね~~~超すごいタレコミ、来ちゃいました』
『あのーこれって本当なんですか?これマジならヤバイですって!』
『マジなんですかね?……マジ?へ~結構マジらしいですね!ってことはやばすぎる特ダネですわ!!』
画面にでかでかと書かれた文字は引っ込み、別の映像に切り替えられる。
画面から流れているのは夕方から始まるラジオ。特別なライブ配信のようで、ラジオと言いつつ公開収録の形をとっているらしい。二人の芸能人がしゃべっている映像に視聴者のコメントが右から左流れている。視聴者数は3万人越え。しゃべっている芸能人がかなり有名な二人だ。だから視聴者数が多いのか、それとも話題が人を呼んでいるのか。
何が起きている。情報統制部はどうした。
『なんとこの特ダネ、今日のお昼に送られてきたそうなんですよ~とれたてほやほやの最高のネタ、見たくないですか?』
『視聴者の皆さんも聞きたいですよね!でもこれガチなんですか?』
『そうなんですよ。匿名のタレコミがありまして、曰く、ちゃんと信頼できる情報だそうです。音声はないんですけど、決定的瞬間を録画した映像だそうですよ。なんでも、特異生物が人間に化ける瞬間をとらえたって!』
『人に化ける特異生物なんて本当にいるのか。そういえばそんな都市伝説がありますよね。あーーなんて言ったかな』
『SCRってやつですか?特異生物が特異生物を殺すおっそろしい組織があるんじゃないかとか!』
『あはは、テレビの見過ぎですよ。そんな都市伝説が本当だったら、この世の終わりだぁ!』
『あはは』
「狛坂。対応は」
「法務と情統が動いていますが……」
画面の向こうはこんなに賑やかで明るいというのに、俺たちの顔色は最悪だった。
海美ちゃんもあっけにとられているのか、涙は止まったようだ。
俺たちの視線は画面に釘付けになる。
『では早速見ていきましょう!ラジオでおかしいけど、VTRどうぞ!』
『公開収録なんでねぇ、こういう時しかできないですわ!』
画面に映像が流れる。
「あぁ……」
そこにいるのは、青と黒の炎に包まれている特異生物。
やめろ。
足元をふらつかせながら数歩動くと、足先から人間の体に戻っていく。
やめてくれよ、なぁ。
『えぇ……!?』
『これ……マジなんですか……?』
画面の中央で佇む男の黒髪を橋の上を吹き抜ける風がなでる。痛む頭を押さえている男の手は赤黒く染まっている。見覚えがある、あの姿。
どうして
「これ、なんで、誰がこんなの」
髪が風にさらわれてあらわになった顔。物珍しい真っ赤な瞳は大きくゆがめられて、苦痛の表情を浮かべていた。意識はもうろうとしているようで、ふらふらとしている。
優也だ。
覚束ない足取りで数歩歩いた後、その場で頽れたところで映像は途切れる。
『うわ……これガチなんですよね?』
『え、AIとかの映像とかじゃなくて?』
『こんな精巧に作れるもんなの……?え、えぇ?』
先ほどまで目で追えていたコメント欄は加速し、ほとんど読めなくなってしまう。でも映像を面白がったり、あるいはこれガチなの……?と困惑するコメントが多くを占めていた。
こんな映像、あの現場でとることができるのは一人、いや、一体だけだ。
『あれっ』
『どうした?』
『これ……これ!この男の人が来てる服の、腕のところ!』
『ん??なんか、赤いタグのところに小さく書いて……あぁぁぁあああああっ!!』
『SCR………SCRって書いてある!!』
「チッ」
「まずい……まずいです。SNSでの拡散が停まりません。情報統制部でも対応しきれない!」
「主要放送局は」
「現在報道はありませんが、このままおとなしく報道協定を守るとは思えません。ラジオにここまでのネタを取られるなんて」
「時間の問題か」
「そう、としか……」
『都市伝説と思われていたSCR、実は存在する!?』
『匿名のタレコミをしてくれた人からコメントもついてきています。「一見恐ろしいこの特異生物は、実は人類を守ってくれているかもしれません。皆さんは、どう思いますか?」だそうです』
『人類を守る特異生物!?そんなのいるわけないでしょ!』
『そうですよねぇ。特異生物なんて人間の敵。殺せ殺せー!』
画面にテロップが貼られる。コメントは大盛り上がりだ。
人に化ける特異生物がいるなんて、この青年は誰なんだ、これは本当なのか。そして、タレコミをした人のコメントに返すように、特異生物は敵だ。悪だ。ただの化け物だ。人間に害しかなさない迷惑な存在だ。
そんなこと、昔っからわかってるのに。
『特異生物はすべて、死んでしまえ!!』
胸を貫いた言葉は耳にこびりついて。
「おそらくザセルだろう。なるほどな。これでSCRとして大きく動くのが難しくなった。避難誘導にも従わない人間も多く出てくることになるだろう。対応を練るぞ」
「っ、あ、はい!」
震えている。
白夜長官の握りこんだこぶしが、わなわなと。
後ろを向いてしまったその表情を伺うことはできないが、それでも簡単に想像できる。狛坂も眉間にしわを寄せたままその後をついていった。すみません、とタブレットを回収されてしまう。
「……優也は、化け物」




