#14-11 シャークガールの弱点
「司令部、状況は!」
『現在ネピアが当該ホテル最上階にて人間を襲っている模様。スパークが対応にあたって死者はいませんが負傷者あり!時間差変異も踏まえホテルは出入りを制限し地下へと避難させています。龍斗さんはあと16分で到着!』
ここは49階だから最上階の60階までは11階分。エレベーターなんて呑気に待っていられる時間はない。非常階段をみつけ体当たりで扉を開き階段を駆け上がっていく。聞こえる、2体分の異形の足音に水が不規則に跳ねる音。それと2体の会話も聞こえてくる。
「あれれ〜?来ないの?私を捕まえる絶好のチャンスなのに〜」
「うっ……」
「あははは!やっぱり予想通り!なんて無様姿でしょう!きっと愛海も喜ぶわ!!」
何をしているのか会話だけじゃ推測できない。でも足音がほとんどしないってことは拘束でもされているのか?無様ってそういうことか。
服の中に隠していたシリンジを片手に階段を駆け上がっていく。本当は変身したいけどこの外階段は外から丸見えだ。一体どこから一般人に目撃されるかわかったものじゃない。変身は最上階、屋上テラスに出た後だ。
螺旋状の階段の最後一段を踏み締め屋上テラスに飛び込む。そこは広々としたリゾートのようで、間接照明のぼやけた光がムーディな雰囲気を演出しており、大きなプールやちょっとしたスライダーなんかもある。端にはかなり大きなインフィニティプールが都内の夜景をその水面に輝かせていた。
そのインフィニティプールの中に、ヒグマとシャチをめちゃくちゃにくっつけたような異形なる生物が1体。
「ネピア!」
「ザセル様のお気にくんじゃない!ひっさしぶり〜そうそう、あの日丸焦げにされた以来ね!」
「あの時焼き損ねたか。逃げ足の速い奴だ」
「いやんこわーい!また焼かれちゃ困っちゃうし、やることもやったし帰ろうかな〜……ね!海美!」
「スパーク?」
ネピアの顔が向く方に視線をずらすと視界の斜め下に膝をつくスパークがいる。駆け寄って見れば特に拘束されているわけでもなく動けなくなるほどの怪我をしているわけでもない。なんだ?どうした?
「スパーク、状況は」
「っ、……ネピアと5分前から交戦。負傷者7名いずれも軽傷で感染リスクなし。現在逃げ場のない上階に追い詰めたところ」
「了解。自身について」
「負傷なし。だけど……」
「だ〜け〜ど〜!?!?あはははははは!ほら早く言いなさいよ!!」
高らかに笑うネピアを悔しそうに睨みつける海美。よく見ると暗いが足が震えているようにも見える。
「スパーク、どうした」
「水場が……水場が怖くて、動けなくなった」
「こらー!ちょっとかっこつけてんじゃないわよ!!筋金入りのカナヅチでビビっちゃったって素直に言いなさーーい!!」
「なっ……」
か、カナヅチ!?
「そいつはこんなプールでもビビっちゃうくらいカナヅチなのよ!愛海の記憶を辿ったらそいつが溺れているところが見えてね、まさかとは思ったけどここまでなんて!あははは!まさかあのサメジマの後継者がねぇ!あははは!無様〜!!」
「別に怖くなんか……!!」
「じゃあそんなとこで尻込んでないで私のこと倒してみなさいよ。当然よね?怖くないんだから!」
「……ぅう……!!」
「いい。俺が仕留める」
Burst Flame!Ready for injection!
くびれ部分でシリンジを半分に折り片方をミューシスに滑り込ませ、もう片方を左腕に刺す。足元がグツグツとマグマのように煮立ち、あとはプランジャーさえ押せば変身完了だ。けれど以前丸焦げにされたと言うのに何故かザセルは余裕の笑みだ。何か……何かあるな。
「ふふふ、アンタなんかこの場所なら怖くないわ」
「プールの中なら俺の熱が効かないと?試してみるか?」
「ノンノン、プールじゃなくて、この場所」
ネピアが腕を上げ、パチンと指を鳴らす
「これに耐えられるかしら!?」
「っ!?!?」
その瞬間周りにあった機械から一斉に水が俺に向けて強く噴射され思わず体勢を崩す。水勢は留まることを知らず俺の体へ痛いほど強く打ちつけられその場に転倒した。な、なんだ、なんだよこれ!?
「面白いでしょ?それ、本当はショーとかで使うやつなの。上空に噴き上げる口を横へ向けといたのよ。あとはポチッとリモコン操作!」
「優也!」
ジュワッと俺の熱で大量の水が一気に蒸発しあたりは途端に視界が悪くなる。クソ、何も見えない!代わりにザバっとネピアの方から水の跳ねる音がする。プールから出たのか!?
「はい計算済み〜!いい加減ザセル様に呆れられそうだったし、ちょっとは頭脳派なところも見せないとね」
「逃げるつもりか!?」
「まぁね。私の今日の狙いは海美がどれだけポンコツで、アンタの熱でどれくらいの水が蒸発するのかってところだけだし。あとは……ふふ、来週楽しみにしてなさい。最高の殺戮ショーを見せてあげる!」
「待て!!」
「やーだねっと!じゃあね〜!!」
タタタッと屋上の端へと向かって走りタンッと一際大きな音の後、静寂が続く。おそらくインフィニティプールの方へと向かって走りそのまま飛び越えこのビルから脱出を図ったんだろう。この最上階から飛び降りどうやって着地するのかわからないが、多分アイツ自体にそんな能力はないから応援を呼んでいるか何かがあるんだろう。考えなしに飛び降りてくれていたなら万々歳だが。
やがて水蒸気が晴れていく。左に突き刺したシリンジを抜き水を適度に浴びて体温を低下させた。諦めてスパークも変身を解いたようだった。
「海美、無事か?」
「うん。……ごめん」
「司令部、追跡は」
『ダメです。完全に後足を消されました』
「でしょうね。今回はかなり計画立ててきていたようですから。とりあえず本部戻ります。現状負傷者あり、ただし感染リスクはないそうです。……事故か?」
「そう。避けようとして転んじゃったりとかしてる人が多いかな。高齢の人も多いし」
「だそうです。通常対応お願いします」
『了解。輸送車を5分ほどで手配するので1階ロビーに降りてお待ちください』
「了解」
ピピっという音で音声が切れる。中から降りるのもあれだし、外階段で地上まで降りるか。60階分、なかなか疲れそうだけど中から行くと面倒だろ。特に海美は。
乱れた髪に汚れところどころほつれ破れた美しい青いドレス。しゃがみ込んだ海美の悔しそうな顔に気の利いた言葉一つも出ないまま、ポンと少しだけ頭を撫でた。




