#14-10 美しき姉妹の対面
同時刻───グランドホテル《Sea Dream》63階、イベントホール《鯱の間》にて
1人の女性が周りが驚き囁く声を全身に浴びながら堂々と大広間の中心を突っ切っていく。豪華なシャンデリアが照らし出すのは可憐な花に包まれているかのような明るいオレンジのノースリーブドレス。花がふわりと咲くように広がるスカートをわがままに揺らして、胸元のネックレスがキラリと小さく輝く。
「こんな盛大なパーティーなのに、鮫島である私を呼ばないってどういうこと?」
そばにあった机のワインを手に取り一口つける。気に入ったようにグラスを揺らしてクルクルと回るワインを満足気に眺めていた。
まさか、どうして、実は生きていたのか。そんな声が彼女を囲う。けれど気安く触れてはならないような気高い美しさに誰もが一歩引き、見惚れるばかりだった。
ただ、1人を除いて。
「お姉ちゃん……!?」
「ん?…………あ!海美じゃない。元気だった?」
「なんで……どうして」
「感動の再会じゃ〜ん!そんな顔しないでもっと喜んで?」
青く細いラインの海美とは対照的なオレンジの膨らむレースが愛海の手の振りに合わせて可憐に揺れる。紛れもない姉の姿に海美は顔を大きく歪めた。
「あの時死んだんじゃ……」
「えぇ!?死んで欲しかったの!?や〜ん悲しい〜!!」
「ち、違う!そんなわけない!!」
「私が丸焦げになって死んだとでも?ざんね〜ん!あの時命からがら近くの海へ飛び込んで助かったのよ。鯱の変異に助けられたわ〜!あぁごめんね海美からしたら死んで欲しかっただろうけど。お姉ちゃんしぶといんだ〜」
「あんたはお姉ちゃんなんかじゃないって知ってるんだから!お姉ちゃんの姿で嘘言わないでよ!!」
悲痛な叫びとは対照的に煽るような余裕を孕んだ愛海の声がホールに響く。周囲の人間は海美の言葉にどよめき動揺している様子だった。
「嘘?私は本当のことしか言ってないわよ。鮫島愛海はサメジマ財閥を恨んでいた。サメジマの血を継いだアンタばかり贔屓する父親も、面倒もろくに見ず消えた母親も、何も知らずに笑ってるアンタも!!何もかも全部嫌いだって!!」
「そんなの……知らない。ていうか証拠なんてないでしょ!そんな、そんなお姉ちゃんが恨んでたなんて、そんなわけない!!」
「相変わらずな〜〜〜んにも知らないのね!そんなだから」
愛海は親指を口元に当てた。
「全部無くすのよ」
当てた親指を噛みぷつりと簡単に皮膚が裂けて血が溢れる。その親指で口角を釣り上げるように持ち上げ、妖艶に笑い、
「変身」
そう宣言してその姿を変貌させていく。鯱のような頭部と体に茶色の熊のような毛覆われた四肢の先にはギラリと鋭く輝く爪。腰あたりから伸びる二つに割れたクジラのような尾鰭がゆっくりと揺れている。
野次馬のように囲っていた群衆が恐怖に声をあげて出口から慌てて逃げていく。恐怖は瞬く間に伝染していき会場はパニック状態となって慌てふためく人間たちが次々と始めの1人に続いて逃げていった。
そんな中海美は1人、化け物に向かい合う。
「こんなところで……何が目的?」
「わからない?わからないかぁ!!あはは!!決まってるでしょう?復讐よ」
「復讐…」
「鮫島愛海の生前の願いを叶えてあげるのよ。私は案外、優しいからね」
「何をするつもり?」
「そうねぇ、まずは鮫島財閥直下のこの豪華なホテルをめちゃくちゃにしてやる。そうだ!このホテルにいる全ての人間を殺しまわってやろう!!きっとお偉いさんも多いんでしょうサメジマを失墜させるには最高の大事件だ!!」
「〜っ!!そんなこと絶対にさせない!!」
ドレスの袖部分を破れば隠れていたミューシスが姿を現し、同時にシリンジを手にとる。流れるような動作でソケット部分へそれを滑り込ませる。会場にはもう誰もいない。変身しても大丈夫だ。
Spark!Ready for injection!
「change my feature!!」
Genes are promoted!
まばゆい光の中から1体の鮫の化け物が現れる。フィッシュテールスカートのような鱗をはためかせ、愛海──ネピアへ鋭い視線を向けた。
「お姉ちゃんの体で酷いことなんてさせない!」
「あははっ!じゃあ止めてみなよ。止められるものならね」
尾鰭を翻し海美とは反対の出口へと走っていく。当然自分とここで戦うと感じていた海美は突然自分とは反対方向へ逃げ始めたネピアに驚き数テンポ遅れて追い始める。
本当にこのホテルにいる人間を殺し回るつもりなのか。確かに自分と戦って時間を消費してしまうと優也と龍斗さんが来てしまって劣勢になるだけだ。それに今回の目的が復讐だというなら尚更自分と戦う必要がない。だから逃げた。このまま逃せば……!
絶対に止める。お姉ちゃんの体で勝手にさせるもんか!
「待てぇぇぇぇええええええ!!!」
「ほらほらこっち!手の鳴る方へ〜!」




