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SCR -Specific mutant Cells organism Rangers-   作者: none
#14 Bravery in my heart
204/231

#14-9 愛娘

 

「そんなもの?」



 ビクッと肩が跳ねる。手先が痺れ冷や汗が吹き出す。本能的な危機感。


 一言。コイツが言ったのはたったの一言なのに、ただそれだけで場の空気が固まって息ができないような錯覚に陥る。声色こそ変わったけど顔は穏やかなままなのに、どうしてこんなに怖いんだ。


『優也落ち着け。大丈夫だ』


「………っ、」


「そんなもの、と言ったかな。私達鮫島が1番に大事にしているものなんだが、まぁ部外者の君にはそう見えてしまうかもしれないな。けれどその力の凄さは君が1番知っているはずだろう?」


「俺が?」


「あぁ。君は娘と随分仲がいいそうじゃないか。さっきも部屋まで行って仲良さげに話していたね。普段から君の部屋に泊まっているのかい?」


「泊まらせてないですアイツが勝手に入り浸ってるだけです」


「でもかなり親密じゃないか。たった半年ほどの付き合いでまさかそこまで親密になれるとは思えない。君は私の娘の術中にハマっているのだよ。サメジマの血という才覚にね」


『確かに、スーパー人見知りの優也が仲良くなるにしては早いなとは思った。けど……』


 龍斗さんの言わんとすることはわかる。俺もそう思うから。だけど違う。そんな血の力とかがあったから俺たちは仲良くなったんじゃない。アイツの元々の人柄と影でしている弛まない努力に惹かれたんだ。


「俺が海美を良く思うのはアンタの言う血だとか力だとかそんなんじゃないです。海美は海美だ。彼女の言葉と行動で俺は海美を信じるし、仲間として大事に思っています。そんな才覚があるからじゃない」


「ハッハッハッ!定型句だな。まぁ鮫島家の人間が努力していないとは言わないが……君が血の力を信じたくない気持ちもわかる」


「俺が?」


「血の力を信じると言うことは、親からの遺伝を信じると言うことだ。まさか自分の体にマッドサイエンティストの穢れた血が流れているなんて信じたくないんだろう?なぁ、」


 にや、といやらしく笑った。


「孤虎優也くん」


『!……コイツ、知ってるのか……!?』


「………」


 鮫島厳夫の顔が楽しそうに歪む。


「あぁ!すまない。穢れた血ではなく穢れた細胞かな?ははは、君も災難だっただろう。身勝手で最悪な父親が起こした事件に巻き込まれ、醜い化け物の体になってしまったなんて、なんて可哀想な!父親が憎くて仕方ないだろう。しかもそんな最悪な父親の血が流れているなんて鳥肌ものだな。私ならすぐに自決する」


「………」


「なんてかわいそうで哀れな親子だ。結局どちらも化け物として生き、死ぬとはね」


『もういい。優也、部屋を出ろ』


 極低音の龍斗さんの声。怒っているし、俺のことを心配している。でも違う。ここで怒ったり部屋を出たり、感情的になれば相手の思う壺だ。コイツは俺を怒らせ反論してくるのを待っている。その反論ごと叩き潰して俺を従わせるつもりだろう。こんな大企業の社長様に口喧嘩で勝てるとは思っていないし、相手の土俵に乗るつもりもない。


「俺の父の話は別でしょう。俺は今、海美の話をしているんです」


「はて?」


「話がだいぶ逸れましたね。とにかく特異生物は子を成せないというルールがあるんです。アンタみたいなとんでもないお偉いさん相手でもSCRとしてそこは譲れない。海美を無理やり結婚させても無駄ですよ」


「子を成せない?成せるだろう」


「どんな危険があるかわからない上に、産まれてくる子供に何があるかわかったものじゃない」


「娘の役割はこの財閥を継ぎ後継を産んで繋ぐことだ。1人目の出来損ないとは違って、海美にはその役割を果たせる力を持った人間なのだよ」


「血だの力だの役割だの、海美のことをなんだと思ってんだお前!!」


 ダンっと机を叩き椅子から立ち上がる。落ち着かないと。そう頭ではわかっていても怒りがどうにも治らない。コイツは実の父親のくせに海美を、娘を子供を産む機械とでも思っているのか?


 フーッフーッと息を荒くする俺とは対照的に、鮫島厳夫は穏やかな笑みを崩さない。


「もちろん愛しい娘だよ。サメジマの血をきちんと継承した、最愛の娘だ」


「父親ってのは子供の幸せを願い優しく見守るもんだろ!お前の言う愛はただの支配と利用だ!!」 


「まぁまぁ落ち着きなさい。ほら、茶でも飲んで」


「……この……っ!」


「そうだ!君なら娘も警戒せず結婚してくれるんじゃないか?あぁでも君は孤虎の血が混じっているか。ならもう1人の本当の嵐巻くんならいいだろう。彼は独身だったね?」


『コイツ狂ってる……!!』


 話が全く通じない。コイツが口を開くたびに話の歯車の噛み合いが無理やりずらされて気持ち悪いのに、それでも違和感がないように回っていくから嫌悪感がすごい。というか俺がコイツに嫌悪感をこんなにも抱いている時点でサメジマの血の力とか関係ないだろ。海美は海美の人柄をみんなが好きになったんだ。サメジマの力なんて関係ない!


「ハッキリわかりましたよ。アンタのいう力なんてただのでまかせだって」


「ふむ?」


「俺がアンタに対してこんなに嫌な思いしてんだ。何が愛顧の才覚だよくだらない!そんなもののために海美を縛んな!!」


「君のような化け物にもここまで好いてもらえるとは流石は我がサメジマの娘だ。私よりも強い力を持っているとは、なんと素晴らしいことか。……しかし、君はどうやら本気で娘のことが好きなようだね。孤虎の血など高潔な我々の血に混ざる?冗談じゃないな」


「いい加減に……!!」


 突然耳が変わった音を捉える。扉の外。こっちに向けて1人分の走る足音がコンコンコンッと床に敷かれたカーペットの少しくぐもった音となって耳に届く。誰だ?


 足音は扉の前で止まって躊躇うように一呼吸おいたあと、コンコンコンと焦ったように音を鳴らした。それまで俺を面白がるように笑っていた鮫島厳夫の眉間に皺が寄る。


「なんだ」


「お話中失礼します。社長、会場に…………その」


「客人を待たせている早く言いなさい」


「到底信じていただけないかもしれないのですが、会場に」


 それまで迷ったように視線を床へ這わせていた側近か何かの女性は意を決したように顔色の悪い顔を上げる。



「お姉様が、愛海様がいらっしゃいました!」




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