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SCR -Specific mutant Cells organism Rangers-   作者: none
#14 Bravery in my heart
198/205

#14-3 腹の底


「貴方の勝手には流石に呆れました」


 静かな部屋の中でぽた、と身体から血が垂れる音を耳が捉える。しかし膝をつき頭を垂れる私の視界には映らなかった。どこから垂れたかもわからない。この女の怒りが収まるまで知ることもないだろう。


 広くはないとある暗い部屋の中央、足が床に草木で縫い止められている。どれだけ抗っても動くことはできない。


「優也くんを我が手に納めるのはあくまで地球のため。貴方もそうでしたよね?」


 ギチギチと体に縛りつく植物が音を立て、苦痛に思わず顔が歪む。近くに植物が生えて絡みついているわけではない。体から植物が生えているのだ。おそらく埋め込まれているザセルの細胞から生え、外はもちろん体の中──心臓、肺、脳を集中的に──を強い力で締め上げられている。


 擦れた部分をさらに擦るように絡みつくそれは目の前の女の性格を表しているようだ。体を奪われた若き女性研究者をかわいそうに思う。孤虎利人の記憶にいる彼女はとても優秀で気品がありながら愛らしく、誠実な女性だった。それがこんな【性悪女】に体を奪われてしまって。


「聞いていますか?」


「ぐ、ぅ」


「……優也くんを捕えるのにもってこいの体だと貴方を作りましたが、貴方を見るとイライラしてたまらないのです。全く、弊害と言わざるを得ませんね。それを助長させるように私の計画を妨害とは」


「妨害など考えゔッ!?」


「黙りなさい。貴方が提案したのでしょう?『優也が融合進化を正確に理解するよりも前、初めてその力を使うタイミングで体内に潜伏し、時が来たら力も体も完全に融合すればいい』と」


 確かに言った。すべてはこいつを陥れるために。


 優也の《融合進化》の力。孤虎利人の記憶と経験から辿ると、あの力の発動条件はおそらく彼の体の温度が一定以上よりも高まることだ。一定以上の温度で攻撃すれば相手の体と接触した瞬間、熱の移動と同時に細胞と融合し、能力を奪う。それに彼が気付けば熱を加減して融合を操作できるようになるだろう。


 融合は優也を主として行われる。優也が融合する時、相手は融合されるだけなのだ。意思も体も彼のもの。つまり、融合進化の力を得るためには、優也と友好的な関係が作れない今、体内へ潜伏するか何かでゆっくり体を奪っていくしかない。


 そこで融合の力を逆手に取り彼が無意識に融合する瞬間、体が繋がったその一瞬で体内へ入り込んで潜伏する。そして彼が次々に融合進化の力を使うたびに少しずつ、彼の体へ無理なく融合していく。そうすれば彼の体も拒絶なく、ゆっくりゆっくり体の支配権を奪うことができる。そう提案したのだ。


 だが


「時が来たときに貴方がSCRの皆さんの前に現れる。だから私はあの時優也くんの体を乗っ取ろうとした」


「ゔぐ、ぁ……」


「けれど、優也くんは『分解』の力で私を分離した。それは元々アースダンゴームさんの力で、彼がそれを融合していたから。さて、アースダンゴームを人間とを仲介し協力させ、SCRの皆さんを襲わせていたのは誰でしたか?」


「ぅ、あ゛」


「私が知り得ないとでも思いましたか?私の細胞で様々な細胞が糊付け、支配されることを忘れたわけではないでしょう」


「ああああああ゛っ!」


「わざわざアースダンゴームさんを優也くんにけしかけた。それは『分解』の力を優也くんに融合させるため。それは何故か?私が乗っ取ろうとするタイミングで分解させるため!これのどこが妨害でないと言うのですか?」


「申し訳…………ございません」


 体の自由が効かないなか、なんとか頭を床に擦り付ける。


 融合を提案したのはザセルを殺すためだった。融合される瞬間、体が繋がるその一瞬で体内へ潜伏などできるわけがないと推測しながらあの提案をした。簡単に私の提案を受け入れたザセルはその時が来たと嬉々として優也の攻撃を受けたのだ。想定では体内への潜伏ができずそこで死ぬはずだった。


 しかし、ザセルはそれをやってのけた。優也の体の中にザセルの細胞が入り込み、成長していく。あの時離れた場所で気配を消しながら私はそう確信したのだった。


 だからアースダンゴームをけしかけた。優也ならあの『分解』の力を手に入れることができる。そうなればもしザセルが体を乗っ取ろうとしても無駄だ。分解されるだけだ。そう信じて。


 そう。全てはザセルを殺し、優也に、孤虎利人とって最善の世界にするために。優也に危険なく生きてもらうために。


 この体は───孤虎利人の体は持たないだろう。ザセルを倒せばザセルの細胞も死んで終わりだ。しかし、孤虎利人は自分を犠牲にしてでも優也を守る。



『優也に手を出すな!!!私でいいだろう。私の体なら好きにすれば良い!!だから優也を、私の息子を離せ!!』



 あの事件の夜、下手をすれば今すぐにでも命を落とすあの状況でそんなことを叫んだ。そういう父親なのだ。


 しかしどうする。この女、大樹のように強く雑草のようにしぶとい。優也がどれだけやっても倒せるか怪しい。


 負けた先にあるのはザセルが優也の体と力を奪う未来。そうなれば当然優也は死ぬ。だが優也が死ぬことだけは避けなければならない。ならどんな形になってでも……ザセルに屈伏し飼い殺しの世界となってでも、優也が生きていることが大事なら、優也を捕えて言うことを聞かせ、体を奪わせることなくザセルの支配下に置く方がより安牌だろうか?


「貴方には今後、提案はもらいません。生かしてもらっているだけ感謝し私の手足となって動きなさい」


「はい」


 計画変更だ。今まで通りザセルに付き従い従順なフリをしながら策を弄して間接的にザセルを殺すより、どうにか優也を攫ってザセルの支配下でも生きてもらうのが先決だ。


「その頭脳を使えば参考になることもあるでしょうが……もういいです。次は彼女の作戦を使います。彼女の狙いは優也くんじゃなさそうですが、まぁ中々良い案ですから」


「彼女?」


「彼女は腹の底で何を企むということもありませんから。貴方と違ってね」


「…………」


 この性悪女、【この姿になる前】から孤虎利人に楯突いている。自分で良い計画を立てることもできず、誰かに依存しているだけの研究者であることまで昔から変わらないらしい。あの事件を起こしたのも孤虎利人を悪者に仕立て上げる工夫まで施していた。研究者どころか人間としても風上にもおけない、まさに性悪女だ。


「あの案ならSCRを分断させることができる。そうなれば、私の目をこんなにしたあの憎き龍を殺して、優也くんも手に入れられるでしょう」


「……………」


「ふふふ、あははは、待っていてくださいね、優也くん」



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