#14-2 爆弾相談
「お見合いの話が来てるの」
「ングゴホッッ!?」
「ゆっ、え!?」
2月某日──SCR本部内、ブレイクアウトスペースにて
夕方過ぎ。出勤時間が過ぎて3分ぐらいたったころ。海美ちゃんの爆弾発言と優也がお茶を吹き出したのはほぼ同時だった。
眼帯の紐を弄る手を止め変なところに飲んでいたお茶が入ったのか酷くむせこむ優也の背中を叩き、椅子に座ってテーブルに頬杖をつきながらお悩み相談と銘打って驚愕の事実をさらりと流す海美ちゃんに口をぱくぱくと動かして何とか言葉を紡いだ。
「う、う、海美ちゃん?今なんて?」
「え?だからお見合い。お婿さん候補と会うの」
「ゲホゲホゲホゲホ」
「優也、優也落ち着け」
動揺しているのか優也の咳き込みがさらに酷くなる。少し経ってやっとむせこみは落ち着いたが、本人のダメージ(特にメンタル)が大きいようで表情は険しい。
海美ちゃんはそんな優也を気にすることなく話を進めていく。いや、あの、ちょっとは気にしたげて?
「困ってるんだよね。まだそういうこと考えられないし、そういう状況でもないのに」
「それは……そうね」
未だザセルとネイチは行方不明だ。それに前回優也に寄生していたことが判明して色々と本部は緊張状態にあるし、いつ出動があるかわからない。そんな中で見合いだ結婚だなんて考えていられないだろう。
優也が気を取り直したように給茶機でお茶を再度淹れ始める。よかった、メンタルもちょっとは落ち着いたか───
「でもお父さんが今度のパーティーに連れてくるから挨拶だけでもっていうんだ」
ガチャンッガタタンッッ!
「優也!?」
何してんの!?
手に持っていたカップを滑らせたようでそれが給茶機にぶつかり、さらにそれに焦った優也自身も給茶機へぶつかったはずみで給茶のボタンが押され、流れでる熱々のお茶が跳ねて優也の手にかかった。
流石に焦ったように海美ちゃんが立ち上がりティッシュを手渡す。
「優也大丈夫!?火傷してない?」
「誰に聞いてんだ。そっちは?」
「あ、そっか。私はちょっと跳ねただけで大丈夫」
「悪い。これ使え」
「ありがとう」
……うん普通に会話しないで?
海美ちゃんにティッシュを手渡し、自分はまるで何もなかったように誤魔化す優也だけど服の袖が茶で濡れて汚れてしまっている。いや何もなくないからね?何?なんかさっきからあまりに動揺しすぎじゃない?怖いんだけど。
それをさらに普通に返す海美ちゃんも何?これがこの2人の普通なの??俺の知らないところで何かあったの?
止まることを知らずに話は俺を置いていく。
「そうそう困ってるって話。お父さんから強く言われて断りきれなくてさ〜どうしようかなって」
「あ〜なかなか難しいよねそういうの………ん?」
「いっそもう相手がいるんですって言っちゃおうかなとも思うんだけど龍斗さんどう思う?」
「………どうだろう!?ち、ちょっと待ってね!?」
今茶葉を無心でふりかけのようにカップの中に注ぐ優也を止めてるところだから!
海美ちゃんが話している間、汚れた袖を拭うこともせずノソノソと珍しく緩慢な動きで紅茶のティーパックや緑茶のお茶っ葉が置かれているワゴンへと近づき、何をするかと思えば奇行に走り始めた。それは茶漉しを使うやつで直接コップに入れるものじゃないの!わかってるでしょ!?
俺の努力も虚しく、優也はコップの底にたんまり溜まった茶葉を見て満足したようにお茶っ葉の入った袋を戻し、次に給茶機でお湯を注いでいる。あーあーもうダメだこいつ。
「龍斗さん聞いてる?」
「え、あ、ごめんなんだっけ?」
「お見合いで挨拶だけしてちゃちゃっと帰るか、いっそのこと好きな人いるから勘弁して!って言いつけるか。どっちがいいかな」
とりあえず隣で茶葉マシマシ緑茶を啜る手遅れの男を置いておこう。えぇとそうだな。後者は父親に大ダメージを喰らわせることになるだろうから前者かな。だって海美ちゃんの親って鮫島 厳夫でしょ?サメジマ財閥のトップじゃん。トップが娘の彼氏にショック受けるなんて見たくな……いや、ギリギリ見たいかも。
するとゴン、と低い音が後ろで鳴る。陶器のコップを強めに置いた音だ。嫌な予感がして見れば茶葉までしっかり飲み干した優也が普段は戦闘中ですら見たことのないほど怖い目つきで話に入ってくる。
「誰だ。その見合いの男」
「私も顔しか知らないよ」
「どんな奴なんだ」
「え、いや、だから顔しか知らないって」
「俺より強いのか?」
「優也?優也くん?」
「優也より強いってどんな人間なの……」
ドン引きする海美ちゃんにいささか乗り切れない俺を気にせず、優也は目を閉じ険しい表情でぶつぶつと悩み始めた。
「俺より弱い?そんな奴に海美を守れるのかよ」
「なんの心配?」
「旦那なら海美を守れて当然でしょう」
「話聞いてた?」
「私別に旦那さんに守られる気ないから!」
「そこじゃないね海美ちゃん」
「とにかく、そんな適当な奴に海美は渡せない」
いや何でコイツこんな親面してんの?親ってか兄貴面か?どちらにせよ面の皮が厚過ぎる。あれ、俺もしかして夢でも見てんのかな。優也の様子がアホみたいにおかしくなる夢。
額を抑え眉間を少しつねって、なんだか馬鹿に思えるその動作に自分で嫌になった。あれ?俺の相棒ってこんなヤバいやつなんだっけ?でも現実だよなぁ。うん。あれ、なんか視界がぼやけて……
「海美はそのパーティー出るのか?」
「長官の許可も出てるし行くよ」
「なら俺も連れてけ」
「え」
「海美の旦那がどんなやつか、いざと言うとき守れるのか見定めて──」
「ちょーーっと待った!!優也流石にストップ。家族内々のパーティかなんかじゃないの?邪魔になるだろ」
コツンと額を小突くとハッとし、確かに……と悔しそうに下を向いた。うん。いや、あのさ。何でそんな悔しそうなんですかね?
視線を横にスライドさせると、とても不思議そうな顔をして、頭をコテンと傾けている海美ちゃん。そして、
「あれ?2人とも聞いてないの?2人にも招待状来てるよ?いつもお世話になってる特殊戦闘部の2人にも是非来て欲しい挨拶したいって。それに家族だけのパーティじゃないし、色んな人が来るから別に気にならないと思うよ」
そうあっけらかんと言ってみせる。
部屋の空気は密度をそのままにパッキリと固まったような感じがして、いよいよ本当に置いていかれる俺に何か覚悟を決めたような優也を止める術はなかった。




