#13-8 初めまして、じゃないかも
「はーい静かに静かに!よし。今日は朝礼の前に転校生の紹介だ!入ってくれ!」
ガラガラガラッ
入ってきたのは、少し小柄な男子生徒。校則に引っ掛かりそうな茶髪は、両サイドの横髪が外にぴょんとはねた不思議な髪型をしている。緊張しているわけではなさそうだ。こういう場になれているのかな?と思えるぐらいに落ち着いている。
「嵐巻優也です。地方の高校から転校してきました。今日赴任してきた嵐巻龍斗先生とは兄弟ですが、特に触れないでもらえると助かります」
「え!どこ?どの辺から来たの〜?」
「猫系男子だ……可愛い……」
「はい!好きな食べ物は!!」
「東北の方です。名前も知られないような村なので。好きなのはりんごです。」
「え〜かわいい〜」
「てか方言とかあるの?てかりんご好きってことは青森!?」
「私朝お兄さん見たけど超イケメンだったの!後で職員室見に行かない?」「科目何?科目何?」「生物って聞いた!」「きゃ〜!いいね!優也君もお兄さん会いに行く??」「え〜イケかわ兄弟じゃ〜ん最高〜」「はいはいはい!優也くんどこすわる?こっちおいでよ!」「おい女子ウルセェぞ!」「うっさいわねうちの高校の男みんなイマイチピンと来ないんだから!」「なんだと!?」
「おーい静かにしろー!!嵐巻……優也君が困ってるだろー!!」
教室は大盛り上がりだ。それとは対照的に、話の中心にいる嵐巻くんは心底うんざりしたような顔をしている。
……あれ、なんだか………
「じゃあ席は……学級委員の鮫島さんの隣で。色々教わってくれ。鮫島さんもいいね?」
「……」
「鮫島さん?」
「えぇあぁっ!は、はい。大丈夫です」
嵐巻薫は窓際の私の席の右に着席する。軽く一礼されたから、私もペコリと一礼した。丁寧な人だなぁ、年上の人みたい。
朝のHRが終わって、一限はこの教室で早速だけど数学の授業だ。それまで5分くらいあるから、嵐巻くんに軽く自己紹介しておかないと。
「あらまきく────」
「ねぇねぇ嵐巻くんって東北のどこ出身なの?」「お兄さんと一緒に来たの?」「なぁなぁ昼ごはん一緒に食おうぜ」「次数学だけど得意?」
ダダダーッと嘘みたいな音をたてて嵐巻くんにクラスメイトが群がっていく。
あぁ、転校生なんてもの珍しいから、たくさん聞きたくなるよね、うん。知りたい気持ちはわかるけどさぁ。
案の定、嵐巻くんは誰の質問にどう答えればいいのか困ってしまっている様子だ。ふぅ、とため息をついてから、少しだけ声を張った。
「みんなー!嵐巻くん困ってるから、ほどほどにね!」
「え」「あ」「そんでさぁ、昼飯一緒に……えなんで急に静かに……」
話を聞いていない数人を除いて、クラスメイトはごめんね、と口々に告げて少しずつ席に戻っていく。よかった、素直に聞いてくれて。まぁあんまりこういうのでもめたことないしね。鮫島ブランドのなせるワザだったりして。
周囲を囲う人が減って、安堵したのか嵐巻くんの表情もだいぶ落ち着いた。授業の準備をしながら、私に微笑みかける。
……あれ……?やっぱりこの顔、どこかで……
「ありがとう。助かりました」
「いやいやそんな、……そんな……」
「?」
「あいや、別になんでも!」
「そうですか。…………でも、なんだ。できるじゃないですか」
「はい?」
できるじゃないですか……って、何を?
返しに困っていると、少しだけ開けた窓から、ひゅう、と一際強く風が吹き込む。それがカーテンを攫って、私と嵐巻くんの間を遮るみたいにふわりと広がった。
その一瞬の隙間
「さっき言ってましたよね?『何ができるのかなぁ』って」
「え……」
「俺のこと簡単に助けてくれたじゃないですか。何もできないみたいな言い方してたからちょっと心配してたんですけど、よかったです」
柔らかく優しい視線。あたたかな声色。
それに茶色で柔らかくて、少し変わった髪型。
昔、どこかで。
「え……っと、」
「あぁ、その、すみません盗み聞きしちゃって。忘れてください」
「いや、あの、ちが、」
「鮫島さーん!窓閉めて!花粉入ってきちゃう!」
「えぇっ?……あぁ」
少しだけ開けていた窓を閉めると同時にキーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴る。数学担当の先生が教壇に立って、今日の内容を話し始めた。もちろん、授業中に話すことはできない。
教科書を開いて読むふりをしながら、前を向いて集中している様子の嵐巻くんの横顔をこっそりと盗み見る。
……さっきの独り言、聞こえてたんだ。
教室にいる人はおろか、私の前の席にいるみなほすら気が付いていなかったのに。どんな地獄耳?そういうもんかぁ。……でもそれ以上に気になるのは、この顔と雰囲気。
どこかで会ったような気がするんだけどな。
昔どこかで、絶対に会ったことある……はずだけど、
うぅん、でも嵐巻って苗字の知り合い、いたかなぁ。
首をかしげて数学の内容は頭に入らないままの私を置いて、授業は続いていった。




