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SCR -Specific mutant Cells organism Rangers-   作者: none
#13 Before the spark
188/200

#13-6 沈む

 


「ヴーーーーー………」



「っ!」「ひゃっ!?」


 来た方向の扉から、何かが姿を現す。


 それは、所謂魚人と形容される異形なるモノ。

 低く唸りながらその歩みを2人の元へ進めてくる。


「さ、魚っ……!?何、何で魚なのに足が生えてるの……!?」


「まずい、あっちに戻らないといけないのに!」


 ビタンッ!


「えっ、今、反対から……!?」


 突如した物音に反対方向を振り返ると、赤いハザードマークのついた扉に、暗闇の中から魚のヒレのようなモノが押し当てられている。


 一つのヒレが開けろと言わんばかりに扉を叩き始めれば、暗闇の中からさらにヒレがビタンビタンと続けて扉を叩く。頑丈に作られているのか、扉自体は開く気配はないものの、安全でないことだけはわかる。


 戻れば魚人、先の扉に安全はない。


「どうしよう……どうしよどうしよどうしよ……!」


「おねえちゃん!!プール!!」


「!!」


 パッと顔を上げる。フェンスの向こうのプールのさらに向こう。あっち側にも通路がある。もしかしたら、もしかしたら!


 海美を肩の上まで抱え上げる。フェンスは高い。高いけどこうやって抱え上げれば届くし、フェスの網目を掴めばいけるかも!


「海美!フェンス掴んで!!」


「う、うん!!おねえちゃんは!?」


「私も行くから大丈夫、それより早く!」


 海美はフェンスを掴み体を乗り上げて、そのまま反対側に落ちる。着地は足から落ちてジンジンと痛んだが、それよりも姉への心配が勝った。


 海美が振り返ると、そこには網目を掴んで登る愛海がいる。が、しかし、


「ひっ!?はっ、放して!!」


 逃すまいと一気に近づいてきた魚人に体当たりを受け、そのままグイグイとフェンスに押し付けられてしまう。身動きが上手く取れず、突き返そうにも足元がおぼつかない。


「おねえちゃん!!」


「放してっ……〜〜っ!?」


 ゴリッ、と愛海の体から嫌な音がした。頑丈に設置されたフェンスと異常な力で押し付ける魚人の間に挟まれ、限界を迎えた骨が折れる音だった。


 激痛に愛海の視界が揺れる。押しつぶされて声にならない悲鳴を海美の耳がとらえてしまう。


 しかし、魚人は体当たりを止めることはない。ギョロリとした光を返さない漆黒の丸い瞳が愛海をとらえている。姉の体が弄ばれることに海美は息を飲み込み、叫んだ。


「やめて!!やめてよ!!おねえちゃんのこと放して!!」


「ゔっ、ぅ、……ぁあ……」


「やだ、やめて、やめて!!やめてよぉおおおお!!」


「ヴーーーーー………」


「…………う、み……」


 ペタペタ、と湿っぽい足音が来た扉から複数聞こえる。見れば、そこにはさらに多くの魚人が集まっていた。みな一様に上半身が魚になりながら、目の位置がチグハグだ。にも関わらず、愛海へ近づき更に圧迫していく。


 ギシ、とフェンスが歪んだ音がした。


 愛海が海美を潰れた声で呼びかけると、泣き叫びながらガシャンガシャンとフェンスを殴りつける海美は一度手を止め、姉を見上げる。


「うみ、ねぇ、聞いて」


「何!?どうしたのおねえちゃん!?」


「勝負しよう。どっちが先にシャークガールになれるのかって」


 複雑に折れた骨が内臓を貫いて、口から血が溢れた。

 それでも、愛海は海美に優しく微笑みかける。


「しょうぶ、って、今そんなの」


「ガハッ……ぅ……お願い、海美。あのプールの向こうに渡って、なんとか外に出て、おねえちゃん助けに来てよ。シャークガールになるための、試練」


「え……」


「できるでしょ?海美なら、さ」


 ギシギシ、とフェンスが悲鳴を上げる。


「おねえちゃん……」


「!!……海美、下がって!!」


 バキンッと一際大きな音がドームに鳴り響き、荷重に耐えかねたフェンスが崩壊して、魚人と愛海はプール側へと雪崩れ込んだ。間一髪海美はそれを避けるものの、魚人が立ち上がって襲いかかるまで、そう時間を要さない。


 しかし、至る所の骨が折れ、あまつさえ魚人下敷きになってしまった愛海が簡単に立ち上がれないことなど、2人ともわかっていた。


 魚人たちはゾンビのように


「海美逃げて早く!!」


「でもおねえちゃんが」


「行っていいから早く逃げて!!私のことは諦めてよ!!」


「やだっ、やだぁあああっ!!」


「いいから言うこと聞いてよ!!なん、で……!!」


「おねえちゃんと一緒に逃げるのぉっ!!」


「〜〜っ!!この、このわがまま馬鹿!!」



 動けないはずだった。

 死に際の馬鹿力か、あるいは。



「ひゃっ……!?」



 雪崩れる魚人を押しのけ立ち上がる。海美の腕を引いて、プールの縁へ。



 ドンッ



「おねえちゃ、」



 その背中を両手で力一杯に押し出す。

 小さな足は簡単に宙を浮いて、



 ザブンッ



 冷えた体に追い打ちをかける温度へ包まれる。耳を押す独特と圧迫感と低いボゴボゴという音。掴む場所もなく、浮かび上がることもできないままただ重力に従って落ちていく体。


 水面に反射する光の向こうの姉の顔は波に歪み溶かされて見えなかった。笑っているのか、泣いているのか、怒っているのか。



 それさえも、何も知らないまま。



 深い深いプールの底へ体が沈んでいく。突然体に激痛が走った。それは四肢から体の中心へ向けて、神経を無理やり剥がされるような感覚。視界の青に赤黒い何かが入り込んで、徐々に広がっていく。


 何が起きているのかわからない。


 痛い。怖い。助けて、誰か!


 伸ばした手は水をかいただけ。誰にもつかまれることはない。


 恐怖の感情に侵されながら、海美の意識は次第に黒く染まっていった。




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