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SCR -Specific mutant Cells organism Rangers-   作者: none
#13 Before the spark
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#13-5 地獄の中でも思いだして

 


「あら、ここにいらっしゃったのですね」



 レースドレスは光を透かし、逆光ながらもその姿を鮮明に映し出す。



「会場は出ないように、と。お伝えしたはずなんですが」


「ひっ!?」「きゃあっ!!」


 葛花は愛海の髪を引っ掴み、扉の中へと放り投げた。抵抗する間もなく会場の真ん中へ転がり入り、周囲の化け物たちが血まみれになった愛海へ視線を注ぐ。


 コッ、コッと絨毯の上でヒールが少しくぐもった音を鳴らしながら、葛花は愛海を見下ろした。


「貴方達がメインディッシュです。本当は鮫島厳夫を殺した方がよりセンセーショナルなんですがね。まぁいいです。彼には騒ぎ立てる役割として生きていてもらいましょう」


「いやっ……いやあぁっ!!」


「ふふ、良い悲鳴をあげますねぇ。可愛がってあげなさい。私はやる事がありますから、失礼します」


 艶のある愛海の黒髪を愛おしげに撫で、ニコっと妖艶に微笑んで見せた。


「もし自然淘汰されずに生き残ったならば、またお会いしましょうね」


「助けて、助けて!!!」


「さて、優也くんはどこに行ったのでしょうねぇ……」


 鈍いヒールの音は遠ざかっていく。代わりに周囲の化け物が今か今かと愛海を狙っていた。立ちあがろうにもパニックで上手く立ち上がる事ができない。


 助けて、怖い、誰か、と叫ぶ声は会場に虚しく響くばかりだった。


 いよいよ化け物の手が愛海にのびる、その瞬間



「おねえちゃんを返してぇっ!!」



 ガコンバタンッッ!



「え……う、うみ……?」


 椅子が地面を軽く跳ねる。その衝撃に化け物の手が止まった。


 椅子が飛んできた方向を見やれば、そこには小さな子供が涙をいっぱいに溜めてプルプルと震える姿がある。


「おねえちゃんのこといじめないで!!私の、私だけのおねえちゃんなんだよ!!」


「っ!!」


「ゾンビでもなんでも、私のおねえちゃん困らせたら、お、怒っちゃうんだからね!!」


 時々ひっくり返る甲高い叫び声は化け物の呻き声の中でもはっきりと愛海に届く。




 そうだ。私は、私は────!




 視界が一気にクリアになる。脈を乱していた心臓がドクンと一つ強く跳ねて、体全体に血が巡る。震えていただけの体に力がみなぎってくる。


 履いていたヒールを投げ捨て、スカート部分は走りやすいように破って、海美の元へ走る。化け物達はゾンビのように動きがトロい。海美の元に辿り着くなんて簡単だった。


「海美!!」


「おねえちゃ、」


「逃げるよ!!絶対手を離さないでね!!」


 扉を飛び出して海美の手を引き走り始める。暗い廊下に恐ろしい赤いサイレンがグルグルと回っていた。


 でも恐怖はない。今はただ、ただ!


 先へ走れ、もっと早く!そう心臓が叫んでいる。もっと、足に力を!


 道標には足元にある緊急時の非常灯。赤いサイレンの光とは対照的に静かにいくべき先を照らしている。

 道順を進んで、先に化け物らしき何かがいれば少し道を逸らして。


「おねえちゃん、腕痛い!!」


「今だけ我慢!絶対、絶対守るんだから!!」


 痛みに泣く妹の声すら、走る心臓の前では届かずに。


 走った先にある緑の灯りが灯る出口。ここ、ここが出口!?

 扉に鍵はかかっていなかった。ぶち破るようにして中に入ると、そこは開けた空間。


「はぁっ、はぁっ、……さ、さむ、何、ここどこ……?」


 大きなドーム状になっているそこは、酷く冷えていた。ザァザァと水の流れる音。足を一本踏み入れればジャブ、と水音。どう見てもそこは到底外とは思えない。


「……何これ、プール……?」


 入って左手には底の見えない大きな大きな円柱状のプールがあった。愛海と海美がいるところはプールより高い位置にある通路のようで、プールの間には高いフェンスが邪魔をしていて近づくことはできない。


 通路の先にはまた扉があった。しかし、それが外へつながるものではなさそうなのは、扉の上の赤いハザードマークが示していた。


「こっちじゃないみたい。急いで来た道もどらないと」


「はぁっ、はぁっ、はぁっ、おね、ぇちゃん……もぅ無理ぃぃっ!」


 いよいよ海美はその場にへたり込み、泣き出してしまう。仕方ない、と思う反面、焦る気持ちで苛立ってしまう。なんとか良い方法はないか────


「……そうだ。ねぇ、海美」


「?」


 しゃがみ込んで海美と視線を合わせた。涙が溢れる大きな瞳に愛海の姿がいっぱいに映る。


「シャークガールになりたくない?」


「はぁっ、しゃ、シャークガール……」


「うん。強くて、かっこかわいくて、何があっても折れない。最強の女の子!いつも話してるでしょ?」


 わしゃわしゃと海美の髪を撫で回した。外向けじゃない、愛する者だけに見せる本心からの笑顔。


「海美ならなれるよ。シャークガール!」


「え……っ!!」


「おねえちゃんともう少し頑張れたらね。どう?一緒に頑張ってみない?」


 冷えゆく背中を撫でてやれば、ポカンとした表情はみるみる顔を綻ばせ、いつもよりも鮮やかな笑顔が咲く。


「うんっ!頑張る!シャークガールになる!」


「よーし、じゃあおねえちゃんも負けないぞぉ!勝負だ!」


「勝負!うみ勝負好き!!」


「負けないぞぉ!」


 2人手を取って、地獄の中で笑い合った。



 その時



「ヴーーーーー………」



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