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SCR -Specific mutant Cells organism Rangers-   作者: none
#12 あなたの居る場所
172/200

#12-18 事の顛末

 

「体は」


「もう絶対安静も解けて自由です。ご迷惑をおかけし申し訳ありません」



 1週間後───SCR本部、司令部前方にて



 頭から足の先まで怪我だらけ。右耳に大きなガーゼ、ぐるぐるに巻かれすぎて正直この包帯の圧の方が痛い左腕と右足。それに転々と貼られたガーゼやら絆創膏と未だに手放せない点滴杖には大きな輸液が吊り下がっている。服の下の簡易心電図検査器が見えていたら白夜長官の眉間の皺はさらに深かっただろう。


 自由ではあるけど大丈夫ではないよね、と白夜長官の隣に控える狛坂さんは苦笑いをする。


「流石は化け物といったところか。心臓までストームの爪が達していたのに何故生きている」


「達していたはいたのですが穴の直径が数mmのみで出血が少なくすみました」


「言っとくけど2.1 Lの出血は少なくないからね」


「……ザセルについて報告しろ」


「はい」


 あの日の事の顛末は報告書が上がっているはずだ。おそらく白夜長官が聞きたいのは繭の話だろう。


「結論を言うと、ザセルは死んでおらず、あのmortal evolutionを初めて使った日に俺の中に寄生していたようです」


「あの時か...…発見経緯は」


「龍斗さんと海美にネイチを任せた後、突然地面から生えた茎が繭を形成し閉じ込められました。どれだけ打撃を加えても熱をかけても壊れませんでした。次第に足元から血液が溜まってきて、それで繭の中が満たされました」


「血だと?」


「はい。おそらく以前の高校の事件で集めていたものではないかと。そこで心臓を掴まれるような痛みが生じ、何者かが自分に入り込むような感覚がしました。先日のアースダンゴームとの戦闘で『分解』の力を融合できていたので、一か八かで自分の体へ向けて分解をしたら、痛みが消え、代わりにザセルがそこへ姿を現しました」


「体内に寄生していたザセルがお前を乗っ取ろうとしたところを『分解』したわけか。現実とは思いたくない話だな」


「事実です」


 毅然とした態度でピシャリと返すと白夜長官の眉間の皺が深くなった。うぅんと困った狛坂さんが唸る。


「自覚症状はなし。デイリーメディカルチェックでも異常は見つからなかったし、今後の対応を考えないとですね」


「今は寄生されていないのか」


「分解しきったと思いますけど、絶対は……」


「それに寄生されていた間にこちらの情報が抜き取られた可能性があります。どう対処すべきかご判断を」


 白夜長官は顎に手を当てて数秒目を閉じる。


「幸い重要事項は特異生物どもに特秘事項として隠匿されている。それに移動中も細心の注意を払っている。コイツの記憶しか読まれていないのであば、漏れたのは組織構成とそれぞれのレベルか」


「概ねその解釈で問題ないかと。最も注意すべきは研究部ではないでしょうか」


「簡単にいえばこちらの手の内がバレたというわけだからな。ならば相手が対策を講じてくるのに対しさらに対策を練る。各プロジェクトのリーダーとサブリーダーへコードオレンジで通達。それと管理部の施設担当と管財部の氷室と……費用計画の島川も呼んでおけ」


「承知しました」


 つらつらと述べられていく理解できない細やかな指示を狛坂さんは手元のタブレットへものすごいスピードで打ち込んでいく。コードオレンジってなんだよ。10年いて初めて聞いたぞ。


「以上。他に報告は?」


「あ……あの、龍斗さんはどうなったんですか?」


 あの時街の監視カメラと俺のインカム越しに状況は全て伝わってしまっている。俺たち特異生物が無反をしたならミューシスの安全装置が作動して即時処刑の原則だ。事前にそんなことがあれば俺が、と約束を結んでおいたからよかったものの、無事に受け入れられるとは思えない。


 おずおずと尋ねると、白夜長官はフンと鼻を鳴らした。


「ストームは最低限の治療後、鎮静剤を打ち懲罰房にてレベル4の拘束を行った。事情聴取後しばらくそこに監禁している」


「……」


「今朝の会議で任務を除いて半永久的に外出を禁じ、お前達特異生物の進入可能エリアの縮小となった。後で範囲を確認しておけ」


「了解」


 思った通りの重さだ。処分されていないだけマシとも思える。……懲罰房か。後で見舞いでも行くか。レベル4の拘束なんて動けないだろうし。あれ?視覚はあるんだっけ?聴覚だっけ、あるの。制限条件覚えてねぇ。


 持っていく差し入れをうんうんと考えていると、普段よりは少し小さくけど芯を持った声で白夜長官からおい、と声をかけられた。


「フレイム」


「はい」


「お前、………何故避けなかった」


 何故ヨケナカッタ?あ、何故避けなかった?か。


 何を?


 今の話の中でそんなのあったか?あ、繭の話か?繭を避けなかったのは単純に死角から一瞬で形成されたからなんだけど、それって絶対言い訳がましいよな。……視界が狭いのは物理的に許して欲しい節はあるけど、この人にとっちゃそんなの関係ないしなんて言うべきか。


 言葉に詰まる俺を見かねたように白夜長官がため息をつく。


「勘違いするな。お前の心臓の話だ」


「え………あ、そっちか」


「報告によるとあと数mmでも深かった場合心臓が裂け即死していたそうだ。あの時のストームは完全にお前を殺そうとしていた。それをお前もわかって戦っていたはずだ。何故避けなかった」


「…………」


「信じていたから、なんて甘い答えは聞いていない。あぁ尤もそれが答えなら聞くまでもないが」


「それはまた別の話です」


 それとこれとはまた別の話だ。そういうことじゃなくて。ただ、


「では何故?」


「俺が10歳の頃、優しくしてくれる龍斗さんに酷い言葉で突き返したことがあります。それだけじゃない。熱せん妄で暴れたり、上手く素直になれなくなってぶつかったり、この10年で俺は何度も龍斗さんに当たった。物理的にも精神的にも。でも、」


 妙にシン、とした司令部。そこにいる司令部の人たちに聞き耳をたてられているような気もするが、それでもいいと続ける。


「でも、その度ちゃんと受け止めてくれた。怪我するぐらいぶつかってでも受け止めてくれたんです。だから俺もそうした。それだけです」


「死ぬことになっても?」


「死ぬ気はありませんでしたよ。受け止める気でしたから」


「……案外、お前も気狂いなアホか」


「どうぞご勝手に。そういえば、俺からも一つ」


 人差し指を立てる。それに白夜長官が眉を寄せた。


「何でその時緊急安全装置を使わなかったんですか?約束したとはいえ、その時は使われてもおかしくないかもって思うんですけど」


「お前は私が約束を破る人間とでも?」


「いや、だって死ぬかもって時に使われるものでしょ?お前が仕留め損ねたらってそういうことかと。龍斗さんが俺のこと殺さないって信じてたからですか?」


 すると突然高らかに白夜長官は笑う。でもそれは一瞬にして収まり、ありえないというように真顔へ戻った。


「あの戦闘を見ていてそんなことを思うバカがどこにいる」


「じゃあ……なんで?」


「総合的に判断したまで。お前なら死なない、と」


「俺なら?」


「他に報告は?ないな。ないなら解散だ」


「えっちょ、えぇ!?」


 ガタンと高級そうな椅子に乱暴に座り後ろを向かれてしまった。何だよもう。この人都合悪くなったらすぐに会話ぶったぎるのマジで良くないだろ!


 動く気配のない椅子の背もたれに沈黙を感じてため息が小さく出た。これ以上ここにいても意味ないな。海美に声かけて龍斗さんのところにでもいこう。


 クルッと振り返り中央通路を歩き出す。すり鉢状の構造を下から上に向かう。


「そうだ、優也くん!」


「狛坂さん?」


「龍斗さんの拘留、会議で今日の夜から解除になったんだよ!だから会いにいくなら別のところかも!」


「え?そうなんですか?」


「そうそう!白夜長官がみんなを説得して納得させてくれたんだよ!」


「え!?」


 再び未だ振り返らない椅子の背もたれを凝視する。あの人が!?1番《反抗する特異生物なんてずっと拘束しとけばいい》とか言ってそうなのに!?みんなを説得して納得させる!?


 何がしたいのか、聞こうとしても沈黙は続く。無駄な会話は嫌いなんだろう。それに聞いたって合理的な理由と皮肉が返ってきそうだし、俺がすべきは一つ。


「ありがとうございます」


「…………」


「じゃあ俺、龍斗さんのとこ行きます」


「…………さっさと行け」


 やっと返ってきた返事に深く一礼をし、司令部を出た。



 *****



「余計な真似を」


「事実を述べたまでですよ」


「フン」


「お前なら死なないと信じてる。って率直に言えば伝わるんじゃないですか、色々」


「必要ない」


「ふふふ、でも緊急安全装置を起動するかしないかのご英断、さすがです」


「10年」


「はい?」


「10年だ。私もフレイムを……孤虎優也を伊達に見てきたわけではない」


「……そうでしたね」



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