#12-17 勝手に殺すな
「優也、優也はどこだ」
弾かれたように走り出す。走る、といっても体は限界で小走りにも満たない速度で、先ほどまで激闘があった場所へと戻る。血の匂いがする。それもすごく濃く。自分の血かそれとも優也の血かまではわからないが、龍斗の脳裏には最悪の光景が浮かんでいた。
突然動き出す龍斗に海美は目を丸くし、数テンポ遅れて反応した。
「えっ、優也?優也は……いや、ちょっ、ちょっと待って龍斗さん!?」
「優也!どこだ優也!!」
「龍斗さんってば!話聞いて!!」
脇目も振らず海美に気づかないまま優也と話した場所へと辿り着く。そこには
「あ………」
時間が経ったからか、少し黒を孕んだそれは大きな大きな血溜まりとなっている。血飛沫が近くの壁に飛散し、その川沿いのランニングコースを赤黒く染め上げていた。
そこに優也はいない。その代わりに空になったburn up solutionが静かに血を被ってそこにいた。
どすん、と何かが肺に腰掛けたように一気に呼吸が苦しくなり、それに驚いたように心臓が跳ねて気持ち悪い。視界が真っ暗になりそうで、だけど空は雲ひとつない晴天で、真上に上がった太陽が罪を暴くように燦々と龍斗を照らし視界は嫌になるぐらい良好だった。
その目の前の情景は
「、ぅや」
あの日と全く一緒で
「俺のせいで」
夢見た未来が赤黒く染まっていく
「俺が、生きてたせいで」
やっぱりあの時死んでいればよかった?
生きていちゃダメだったんじゃないか?
優也に光莉と同じような最期を辿らせた。
頭を抱えてしゃがみ込む。急激な吐き気に襲われ口を抑え動けなくなった。違う。違う、違う。でも誰のせい?胸に、心臓に爪を突き立てたのは誰だ?一度に流してはならない量の血がそこにあるじゃないか。あの日と、あの時と全く一緒だ。
優也はここで失血死した。光莉と同じように。
体もきっとどこかに連れて行かれたんだ。またザセルに利用されるかもしれない。あんなに優しい彼の体で身勝手に罪を重ねさせるのか?俺は、また、間違えた?
視界が歪む。吐き気がする。吐き出したい。誰か許して、殺して、俺のことを。これ以上大切な誰かを失いたくない。誰か、誰か……もう殺してくれ。生きていたくなんてない。こんな、こんなことになるのなら!!
「俺のせいだ。また、俺のせいで!!」
頭を掻きむしり絶望感に目を瞑った、その時
「勝手に殺すな!」
コン、と頭に柔く何かがぶつかった。その声に驚いて視線をあげると、そこには胸を抑え真っ青な顔ながら、何やってんだと笑う男がいる。声を数秒失って、ゆっくり息をすって、吐いた。
「夢じゃないよな」
「現実です」
「幽霊?」
「足はあります」
「俺の幻覚だったりして」
「何寝ぼけてんですか。もう忘れたんですか?」
彼は──優也は照れながら、けれど優しく笑う
「ずっとアンタの隣にいてやるって言ったでしょ」
「……そうだった」
つられて龍斗も眉を下げて笑った。いつのまにかぐるぐると喉元まで迫っていた吐き気は止まり、重く潰れていた肺は息を取り戻していた。
「ちょっとちょっと!優也やばいって!?輸血中でしょ動いちゃだめ!」
「別にこれくらい……ぅ、」
「ほらぁ!!?無理しないの!!」
「つめて……」
優也は顔を真っ青にし倒れかかって海美に支えられる。川で溺れていた海美の体が冷たかったのか、顔をムッと顰めた。
「海美ちゃんも体調悪そうじゃん。大丈夫?てかどこにいたの?」
「え………と。それはーその、あの……ですね」
「………」
「?」
しどろもどろに目が泳ぐ海美。それを怪訝そうな顔で見つめる優也。状況がわからず困惑する龍斗。そして、
「ゴルゥゥラァァアアアアアアア!!優也ァ!!治療中に患者が逃げるとはどういう領分だコラァアアアアアアアアア!?!?」
ブチギレる老年の女医師が、1人。
「なぁぁに勝手に輸血止めてんだぁ!?死にてぇのかテメェ!!」
「すみません……」
「その皮一枚繋がった心臓私が破り散らかしてやる!!来い!!!!」
「医者のセリフじゃねぇ……」
「ほら優也、いくよ!」
「うぅ……」
海美に半分支えられ半分引っ張られ渋々柏木医師の元へと歩いていく。その少し情けない姿にその場でクスッと笑っていると
「龍斗アンタもだよこのアホんだら!!まとめて乗りな!!」
「……俺も乗っていいんですか?」
「諸々の説教はあとだ。アンタだってどんだけ大怪我してると思ってんだい!ごちゃごちゃ言わずにさっさと乗れこの大アホ!!!」
「ひー……あーい」
予想外に呼ばれた自分の名に戦々恐々としつつ、どんな命も見捨てない彼女にちょっとの嬉しさを噛み締めて、先に乗り込んだ2人を追うように医療用キャラバンへと乗り込んだ。




