#12-16 もう逃げない
「俺を───未来を信じろ!!!」
「〜〜っ!!」
手から脇にかけて右腕がゴウゴウと燃える。それを見届けたあとシリンジを抜き、優也は力が抜けたようにその場に倒れ込んだ。ただ、龍斗の意識は優也にはなく優也の熱によって燃え盛る腕にあった。
腕が激しく燃えているというのに痛みは何故か感じない。何故かはわからない。けれど、今心臓が早く打つのは、心が強く打たれたのは、目の前の熱が教えてくれたものは。
ドクンドクンと跳ねる心臓がうるさい。
君の隣で見る未来は、どんな夢のようだろう。
「龍斗」
「!」
「よく倒せたね。さぁ、一緒に逃げよう」
10 mほど後ろから光莉の声がする。
「ずっと一緒にいてくれるんでしょ?」
……あぁ、嫌だ。もう最悪だ。姿を見ずに声だけ聞いたらなおそれっぽい。現実から目を逸らして夢の中でうつらうつらしていたい。だって一瞬、本当に本当に、今度こそずっと一緒だって思ってだからこそ辛くて
けど───
龍斗が小さなシリンジを取り出し右腕に刺す。
Blow away the mutation !
背中から大きな翼が生え、あたりに突風を巻き起こし巻き上げ風の主となる。その腕の炎は風を受けさらに大きくなっていく。
────けど、どうしても目が離せない。今ここに生きる君が見せてくれた未来の夢が今、俺の心臓を動かしてくれる。
過去の夢想に囚われ迷い叫んだ俺を正面から受け止めてくれた。居場所を無くして自暴自棄になった俺に、いつまでも隣にいると宣言してくれた。なら、
俺がここで返すことは、1つ。
「俺は」
「わぁ!一緒に飛んで逃げるなんてロマンチックな──」
「俺は、もう逃げない!!!」
腕に絡みつく風と炎が混ざり合う。龍斗が後ろを振り返りその拳を放つと、風と炎が渦を巻いて一体の龍となって、光莉──ザセルへと喰いかかりバクリとその体を丸ごと飲み込んだ。そのまま空へと登っていき次第に龍の頭部が大きく膨れ、大爆発を起こす!
「ぎゃぁぁぁああああああああっ!? うそ、なぜっ!?
龍斗!!私よ、光莉!!」
「お前は光莉じゃない。知ってるか?光莉は超がつくほど恥ずかしがりで」
上空から落ちるザセルに翼をはためかせ空の青へと飛び込んでいく。
「人前でキスなんて絶対にしねぇんだよ!!!」
Blow away the mutation!
「なっ!?そんなことで、」
「────ファイナルドラゴンブレス!!」
肺いっぱいに溜め込んだ空気を放出し、さらに風の斬撃の嵐がザセルの体を切り刻んで透明な液体を撒き散らしながら大きく乱切りされた肉塊へとその姿を変えていく。
「あ゛あ゛あ゛ァァアアアアアっ!?!?」
ザセルの絶叫が空へ響く。それに反応したのか、地上から何かがものすごいスピードで飛び上がってザセルの肉塊が散る中へ飛び込んだ。
「ザセル。一度ここは退きましょう」
「ネイチ……!!元はと言えばお前が!!」
「細胞を透化させてください。音を消して戻ります」
昼時の真上に登った太陽の逆光で影の姿しか見えないが、その大きな体躯と頭部の角でネイチだと理解できる。しかし龍斗の体は優也との戦闘とburn up、blow awayを使って限界を迎え人間の姿へ戻りつつあった。このまま、こんな簡単に逃すわけにはいかないのに!
自分より上空にいる2体に焼き焦げて激痛が走る腕を伸ばす。鷹のような鉤爪でもなければ風の斬撃を起こせる腕でもない。でも、まだ少し風を起こすだけの力はある!ほんの少しでもいい。少しでもいいからあいつの足止めを!何かできないのか!?
その時、風に煽られ胸から視界へ飛び出た小さな青が乱反射する。
「そうだ」
首元のネックレスを引きちぎり、小さなそれをまだ動く左手の指でしっかりと掴んで、
「これでも───くらえ!!!!」
ザセルに向かって投擲されたそれは、再生中だったザセルの目に直撃し貫通する!
「ギャァアッ!?痛い!!!何!?
ゆ、指輪!?なん……アタシの、アタシの目がァァァアアア!?!?」
「暴れないでください!早く透明化を!!」
「ウ、ウゥゥウウ!!!覚えていろ!嵐巻龍斗ォォオオオオオオオオオオ!!」
次第に姿が太陽の光に眩んで空の青に溶けていく。変身はもうできない。解析を、と頼もうとしてもインカムはない。もう打つ手はないその状況で、ザセルが恨みがましく龍斗へ向かって茎を触手のように伸ばし──
「──ファイナルシャークスパーキングアロー!!!」
「海美ちゃん!?」
海美の声に視線を迷わせると、先ほどまで優也と龍斗が戦闘していたあたりに小さく一体の影がある。そこから太陽よりも眩しい光を放つ電撃が鮫の形をなして消えかかるネイチとザセルへと真っ直ぐに突撃していった。
光が眩んで結末は見えない。ただ重力に従って落ちていく体を今思い出したかのように慌てて風で浮かし、ゆっくりと着地した。すぐにセルヒール注をひどい熱傷を負った右腕前腕に打ち込み、最も痛みのひどい左目の出血を左手で抑える。
ある程度出血が治ってきたころ、龍斗の元へ駆け寄る少女がいた。
「海美ちゃん」
「龍斗さん平気!?ごめん弓外しちゃってザセルが!!」
「ううん、大丈夫。追い払ってくれてありがとうね」
「……よかった。いつもの龍斗さんだ」
緊迫した表情がふわっと柔らかくなり、その場にしゃがみ込んで大きく息を吐いている。心から心配してくれていたんだろうな、悪いことをしてしまった。ごめんね、もう大丈夫。と肩に手を置いた。
というかあれ?この子はどこにいたんだろうか。それこそそう、優也と戦ってる時───
「──ゆうや、」
「え?」
「優也、優也はどこだ」




