#12-14 俺はお前みたいに優しくなれない
「光莉が笑っているならそれがいい!!」
「い゛っ!?!?」
突然腕に走る激痛に数歩後ずさる。なんだ?左腕を見ると上腕に深く大きな斬撃が入っている。ナイフ?いやそんなの比にならない。もっと大きな刃が俺の肉を抉った。一体何が!?
優也が痛みと動揺で動きが鈍ったところに素早く立ち上がった龍斗が追い討ちのように腕を振るう。混乱の中で後ろに宙返りし避けながら自身に向かってくる『何か』を理解した。
「風の斬撃……!?」
「うぉらっ!!」
「!!」
ブンッと顔を掠めたそれは壁にぶつかり大きな跡を残す。風はその姿がない。避けるには予備動作を見切り瞬発的に判断しなければならない。
よく見ると龍斗の腕の内側に鎌状の長く硬い爪がとびでている。アレを使って今の風の斬撃を作り出したのか。いやなんだよ風の斬撃って。風だけで相手を殺傷できるの意味わからないんだけど!?
乱撃の中を優也は走り転がってたまに跳んでなんとか避け続ける。受けた時のダメージ、眼で判断するには不鮮明、そしてこの連続性、全てが厄介な攻撃だ。打開策を何か講じないとこのままじゃジリ貧だぞ!?
「大切な人に笑っててほしい!!それがそんなに悪いことかよ!!俺は間違ってんのか!?なぁ!?」
「あ゛っ!?」
避けきれなかった斬撃で左足が大きく切れる。しゃがんですぐに自分の熱で熱し傷を塞いで出血を止めた。慣れたことだ。痛みよりも足を残しておくのが優先。
龍斗も疲れが出たのか一度息を整えている。壁を伝って立ち上がり、めいいっぱいに叫んだ。
「それが……それが!光莉さんからしたらどんな地獄かわかってんのかよ!!」
「っ!?」
「自分の体はたくさんの人を手にかけて!アンタはそんな自分を守るためって戦って傷ついて!これでどうやって笑えんだよ!!」
「それは……っ、」
「俺だって大切な人には笑っててほしい。けどそれは!本人が望んですることであってアンタがさせることじゃない!!」
青い瞳が大きく揺らぐ。それを赤い瞳が見逃さない。隠していた2本目の熱した細長いナイフを投げ、龍斗の右腕に命中した。
龍斗は黙ってナイフを抜きその場へ捨てた。風の斬撃を起こすのに必要な爪の根本の深くまで刺さったその傷で、もし大きな風を起こせば爪は皮膚ごとその風で剥ぎ取られてしまう。龍斗は結果的に右腕で風の斬撃を使うことができなくなった。
龍斗が小さく絞り出したような声で優也に問いかける。
「……お前だったら」
「何?」
「お前が俺の立場だったらどうする。父親が体を奪われそれが敵の組織の親玉で、もう殺すしかないって言われたら、殺すか?」
「……………」
「10年。もう死んだと思っていたら再会して、これから一緒にいられるって喜んだ後殺せるのか、なぁ」
「…………」
「お前はまだ教授を助けられるチャンスがある。ザセルさえ倒せばまだな。でも俺には、光莉には残っていない。もう殺すしかない。それが本人のためでも、俺のためでもある。頭じゃわかってる……でも、でも!!」
強く固く細められた青い瞳から一筋の光が溢れ、優也はそれに目を見開き大きく息をのんだ。
ゆっくりと一歩を優也に向かって踏み出し、2歩、3歩、とスピードを上げて走って近づく。
「光莉の居る場所がやっとわかったのに、それが、それだけが俺の居場所なのに!!」
「龍斗さ、」
「そんな簡単に手放せるわけないだろ!!世界がどうとか周りがどうとか、本人のためとか!!そんな────そんなこと!!」
龍が吼える
「俺はお前みたいに優しくなれない!!」
右手の大きな鉤爪が優也の胸を狙って鈍く光る。何者にも遮られることもなく、それはまっすぐと吸い込まれるように伸び、
「…ぅ、ぐ、ゲボッ」
「え?」
「あ、ぅ゛………」




