#12-13 俺はお前ほど優しくない
「ストーム、そこをどいてください」
意味はないとわかって呼びかける。いわゆるそれは最終通告で、変身シリンジを手に優也は龍斗を脅す。けれど意に介さないように龍斗はいつものふざけた調子でヒラヒラと降参するように手を振った。
「やめよーぜ。俺は優也と戦いたくないんだけど?」
「俺だって嫌です」
「じゃあお互いせーので退こう。どう?」
「龍斗さんからどうぞ」
「話聞けよ」
ま、無理だよな。そう龍斗はヘラヘラ笑った。
「優也が俺に勝てたことあったっけ?」
「変身して戦ったことはないですよね」
「まーね。訓練程度で燃やされちゃたまんないし」
「燃やされたくなければどいてください」
「遠慮させてもらおうかな〜俺熱いの苦手だし?」
「ストーム!そこをどけ!!」
いつまでもふざける龍斗に痺れを切らした優也が叫ぶ。優也のシリンジを握る手が震えているのを見て、龍斗は真顔で優也を見据えながら、変身シリンジを取り出した。
「どかない」
「なんでそんなに!」
「なんでそんなに、ねぇ。わかんねぇよ優也には」
「はぁ!?」
「誰かを愛したこともない奴に、俺の気持ちはわかんねーよ」
「最愛の人を守るためなら誰を傷つけてもいいのかよ!?」
「あいにく俺はお前ほど優しくないんでね」
Storm!Ready for injection!
「心臓が動き続けるまでは自分勝手にさせてもらうよ」
龍斗のその言葉に優也は大きく顔を歪めた。あーあ、ひどい顔。させているのは俺だけど。そう心の中で自傷する龍斗に、優也は一瞬堪えたように顔を伏せた後、意を決した表情で顔を上げて強く睨み返す。
Flame!Ready for injection!
「命令に従わないっていうなら力尽くでも従わせるまでです」
「おぉ、そりゃ怖い」
軽い口調とは正反対の絶対零度の視線。普段の戦闘訓練の比にならないそれに身震いしながらも優也は龍斗を睨み返す。負けない。絶対に。
両者とも今日で2回目の変身。かなり体に負担がかかることを承知で優也は左腕を上から下へ回し、後ろから振りかぶって左腕を突き出す。対して龍斗は左手を静かに胸まで上げ、
「change my feature!!!」
「change my feature」
Genes are promoted!
2人が宣言する。炎の海と暴風の後、2体の怪物が姿を現した。
「フレイム、変身完了。ストームを止めザセルを焼却します」
「光莉は下がってて、危ないから」
2体は睨み合う。昼下がりの穏やか空気などどこにもなく、2人の間には重い空気が鎮座している。
ふぅー、と肺まで押し潰されないよう優也が大きく息を吐き出し、左へ一歩、もう一歩と龍斗を中心とした円の上を龍斗に体を向けたまま回り始めた。龍斗は視線だけでそれを追う。
刹那、優也が石畳みを踏み締め跳躍し龍斗に蹴りかかった。それを見切った龍斗は腕でガードするが、さらにそれを予測した優也がその腕を踏み台に上へ飛び、さらに2撃目を喰らわせる。
身を捻り避け、バランスを崩したところに落ちる優也の拳を転がって避ける。その回転で風を起こしふわりと上空へ飛んで優也を吹っ飛ばした。
「っ、逃げてばっかですか!?」
「俺は別に光莉さえ逃がせればそれでいいし」
「ただの時間稼ぎかよ、ダッセェな!」
「!」
川沿いに建てられた柵を壊してそれを龍斗に向ってぶん投げる。簡単に避けられてしまうだろうがそれでいい。一瞬の目隠しになりさえすれば。
「言ってくれるじゃ、っ!?」
「っし!」
案の定柵は簡単に風で横に飛ばされ避けられる。だけどその一瞬、風も起こす暇なんてないその一瞬でナイフを投擲し、龍斗の左目あたりを掠っていく。龍斗はたまらず風に乗っていられないまま大きく体勢を崩し、フラフラと地面に着地する。その隙を逃さず優也は拳に熱を溜めて一気に放つ!
「やってくれるな!お返しだ!」
避けられた直後にパチンっと何かが弾ける音
「〜〜っ!?」
耳に激痛が走る。鼓膜が破られた!?
右耳にキーンと強い耳鳴りと出血。風圧か火薬弾か何かを耳に直打されて鼓膜が破れたのか。幸い左耳は問題ない。
転がって一度距離を離し再び対峙する。龍斗は左目を、優也は右耳を抑え止血しながら隙を窺っていた。
「あーあ、いってぇな。一旦おあいこか?」
「無駄な抵抗はやめて下さい。死にますよ」
「無駄、ねぇ。俺は光莉を守れて本望だけど?」
「いい加減わかってんだろ!?アレは──」
突如龍斗が風を起こし優也が耐えられず空へ吹き飛ばされる。身動きの取れない体に龍斗が一瞬で近づき腹をけって地面へ叩きつけ、息が上がるところへさらに太い尻尾を叩きつけた。優也はガハッと息の代わりに血を吐きだしてしまう。
「なんだって?聞こえない」
「このっ……わからずや!!」
優也が尻尾を掴み熱をかけるとブチンと尻尾が切られる。トカゲが尻尾を切り捨て逃げるように龍斗も優也の熱から逃げ、代わりに巻き起こした風に瓦礫を乗せて優也になだれ込ませた。
それを察知した優也が横に飛び、風に巻き込まれないよう瓦礫の雪崩を回避する。しかし続けざまにパンパンパンッと優也を狙った火薬弾が飛び散らかり、それを動体視力の高い眼で見切り避け続けながら叫んだ。
「アレは光莉さんじゃないって言ってんだよ!!あんただってわかってんだろ!?」
「光莉じゃないわけない。あの体はどう証明すんだよ」
「10年前が何よりの証明だろ!?あんだけの血を一度に抜かれれば人は死ぬ!あの時人間としての光莉さんは死んだんだ!!!」
「……あれは偽装かもしれないだろ」
「じゃあなんで、なんで!!」
遠目に優也と龍斗の瞳がぴたりと合う。
「なんでそんな顔してんだよ!!」
「っ!!」
「もうわかってんだろ!?目ぇ逸らすなよ!!夢ばっか見てないで、現実を見ろ!!!」
石畳みを跳躍し、龍斗が風に乗せていた瓦礫を足場に空に浮かぶ龍斗に近づいて頬へ渾身の一撃を放つ。動揺していた龍斗は防御することもなくモロにうけ、そのまま優也と共に地面へと落ちていった。
「ぅ……」
「はぁ、はぁっ、……目ぇ覚めましたか」
地面に転がり顔を抑える龍斗に側に着地した優也が声をかける。次はザセルだ。どこへ消えた?と周囲を見渡していると痛みに呻き声をあげたあと静かだった龍斗が口を開いた。
「わかってるよ。あぁ、そうだよ」
「………」
「あれはただのザセルだ。光莉の意思なんかどこにもない。ただ体だけを利用されてるだけだって、……俺を騙してるだけだって」
「なら」
「でも!!!」
龍斗は顔を両手で覆う。
「じゃあどうしろって言うんだ。意思はなくとも体は光莉なんだよ。それだけは確かだ。嫌になるぐらいわかってんだよ」
「……」
「それを殺せ?バカ言うなよ。できるわけないだろ。できるわけ……」
「……アレを放っておけば他の人を傷つける。光莉さんの体で誰かを傷つけさせるんですか」
優也の言葉に龍斗はピクリと頬が動く。
「そんなことさせたくないでしょう。なら──」
「どうでもいい」
「──っ」
「どうでもいい、そんなの」
優也が視線を龍斗に落とす。相変わらず両手で顔を覆い地面に仰向けになって転がったままだ。どう動こうと流石に俺の方が速い。問題ない……はずだ。
それよりザセルの捜索だ。おそらく狛華さんが透明化したザセルを解析してくれているはず。どこに逃げようが必ず捕まえて焼却する。
「周りがどうなろうと興味ないね。俺は、」
「メイン2、解析結果を」
『こちら狛華。現在周辺を解せ』
「光莉が笑っているならそれがいい!!」




