#12-12 潜伏場所と制限時間
時は少し遡り、突然自分を覆うようにオルガーで形成された繭に閉じ込められた優也は焦る。どれだけ殴ってもナイフを突き立ててもびくともしない。次第に壁から分泌された赤い液体で中は満たされていく。これは血だ。でもこんな量どこから?
そういえば以前ザセルが謎に血を集めていた事件があった。あの高校への潜入任務でヒルワームが大量に血を集めていた。あれか!
そうこうしている間に繭の中は血で満たされ、呼吸を止めていた優也も流石に息が持たずに血を飲み込んでしまう。その独特な味と匂いに吐きそうになるも入り込んでくる血がそれを阻む。
すると途端に朦朧としていく意識を引き上げるかのように全身が痛み始める。何かが自分の体を乗っ取ろうとしている。内側から何かが弾けて自分を取り込もうとしている。心臓に誰かが手を伸ばしている。
何かわからないが、とにかくそんなことさせるわけにはいかない。そう信じ、以前融合した力の『Alter』を自分の胸に手を当てて発動した。
すると痛みは胸から四肢へと移動し、体から抜けて目の前に像をつくる。次第にそれが小柄な女性だとわかったとき、優也の脳に電流が走った。
ザセルだ。
ザセルは自分の中にいたのだ。
目の前の女性が目を開く。緑の瞳が優也を睨むように光ったと同時に
ザバッッ
「ゲホゲホ、ぅ、オェぇっ、!?」
繭が弾けた。優也はその場に放り出され地面に転がりながら飲み込んだ血を吐く。体は人間の体に戻ってしまい、久方ぶりに取り込む空気でなんとか途切れそうな意識を保つ。ギンギンと耳は耳鳴りを起こし全く音が聞こえない。かろうじて女性の声が聞こえ始めたのはしばらく経ってからだった。
「これからは一緒だって、約束してよ。ね?」
「〜っ約束する!絶対そばにいるから!!」
『ストーム応答しろ!!そいつはザセルだ!!!』
インカムの向こうから白夜長官の怒号が響く。そうだ。あれはザセルだ。さっきの繭の中、あの姿で俺のことを強く睨んできた。光莉さんなわけがない。龍斗さんわかっていないのか?いや、そうだ、そうだった。俺が伝えていないから気づいていないのか!
2人の話し声とパキンと何かが割られた音。以前長官はストームに応答を求めているが全く反応がない。何してんだよ、
「龍斗さん!!!」
吐いたことで焼けた喉で叫ぶ。肩をピクリと振るわせこちらを見る龍斗は、夢に囚われたようにどこか虚な目をしている。
「龍斗さん!!!違う、その人は光莉さんじゃない!!」
「優也、何言ってんだよ。光莉だよ。あぁそうだ初めましてだっけ?」
「〜〜っちゃんと聞けよ!!クソっ!!」
全く通じていない。最愛の人との再会で現実が受け入れられていないのか?都合が悪いことは全部無視か!!倒れて動けない優也を放っておいて、2人は会話を続ける。
「私ね、ザセルなの」
「……え?」
「あの事件の時、ザセルに体を取り込まれてしまったの。それ以来ずっとザセルに体を使われていて」
「そんな、」
「だから彼は私のこと殺したがってる。私は……何もしていないのに」
嘘だ。嘘だ。アイツは演技している。俺から抜き取った記憶で光莉さんのフリをして龍斗さんを騙そうとしてる!!優也はそう確信した。
「黙れ!龍斗さん!!目ぇ覚ませよ!!!」
「でも私、死にたくない。龍斗と一緒に生きていたいの」
「光莉……」
「ねぇお願い龍斗。私を助けて。世界より私を選んで?」
そう光莉は龍斗にキスをする。龍斗は黙ってその肩を抱いた。
まずい。まずいまずいまずい!ダメだ!肘をついて膝を地面に立て、ゆっくりと立ち上がり、近くの壁に寄りかかりながらも叫ぶ。
「そいつはザセルだ!光莉さんの意思じゃない!ただ光莉さんの体を使ってるだけだ!!」
「……そうだ。光莉は、ただ、被害者だ」
「騙されんなよそれは光莉さんの言葉じゃない!アンタを騙そうと──」
「光莉がそんなことするわけないだろ!!」
「っ、……!?」
「光莉は俺が守る。世界なんて知るもんか」
そうして顔を上げた龍斗は、まさに修羅のような表情だった。退く気はないと強い瞳が物語る。優也は狼狽えた。そんな、戦うしかないのか。けれど迷いは一瞬で覚悟を決めた表情で龍斗に対峙する。
「司令部、スパークは」
『川で溺れて流された。バイタルに大きな問題はないが意識がない。現在救助中』
ため息混じりの報告に救援は望めないと理解した。同時に、
『フレイム。覚えているな、例の件』
「はい」
『お前が仕留め損ねる前に緊急安全装置を作動する。時間はやるが、同情はないと思え』
「了解」
残された時間もないと、理解した。
「ストーム、そこをどいてください」




