#12-5 姉弟そろってポン
「俺から紹介するよ」
すると突然、龍斗さんが優也の肩をガシッと掴む
「この子が嵐巻光莉。俺の婚約者だ。言ってなかったけどもう橘から苗字変わったんだよ」
「……は?」
時間が止まったように誰も喋らないし動かない。ただ1人、龍斗さんに向かって目を見開き呆然とした言葉が溢れた優也を除いて。
「まだ正式に籍は入れてないけど、俺が嵐巻名乗って欲しいっていったんだ。光莉は恥ずかしがり屋だから吃っちゃったけど、正真正銘、嵐巻光莉だ」
「ちょっ!?龍斗さ──」
その瞬間、早送りかと思うくらい速く龍斗さんが優也の肩を引き顔を肩口に押さえつけ、抱きしめるような形で優也の口を無理やり塞いだ。
「そうだよな!な!?ゆぅ…………光莉!?」
「〜〜!?」
トントト、トンと龍斗さんが優也の肩を変なリズムで叩いてる。あ、あれモールス信号だ。私よくわからないけど多分話合わせろみたいなこと言ってそう。優也がかろうじて目で抗議しているのがチラッと見える。それに対してさらに龍斗さんが何かをモールスで伝える。あぁもう!モールス信号なんてちゃんと覚えてないよ!何話しているかわかんない!
2人が無言の会話に夢中になっていると、瑠璃華さんが黙って2人に近づきカツッと一際大きくヒールの音が鳴って──
バシッ!!
「いっっっっだ!?」
大きくスイングした長く細い脚が振りかぶって龍斗さんの脛へと吸い込まれた。龍斗さんは小さく飛び上がって優也から手を離しその場にしゃがんで脛を抑える。うわ、いたそ……そりゃあんなわかりやすい嘘、バカにしてんのかって思われちゃうよ。
カツッとさらに強いヒールの音が鳴り、突然龍斗さんを一撃で倒したことに顔を引き攣らせる優也を瑠璃華さんがジッと見下ろす。
「貴方………」
「は、はい!?」
「……貴方が、」
いきなり優也の右手をとってぎゅっと両手で握った。
「貴方が光莉さんね!」
「──はぁ!?」「え!?」
「急にお邪魔してごめんなさい!龍斗が本当にお世話になってます。本当にごめんなさいね、お仕事中。それも姉なんて!気まずくて名乗りにくくかったわね。ごめんなさい」
「えっと、ちょ、あの……?」
え、ええぇぇぇえええ!?
ブンブンと握られた手を思いっきり上下に振られながら困り果てる優也。龍斗さんを簡単に蹴飛ばしたと思ったら自分に向けて天使のスマイル。全然なにも状況が掴めていない様子だ。
ていうか、龍斗さんの咄嗟の嘘がバレていない……?え?なんで!?
「そうだ、これから時間ある?ちょっとお茶会さない?海美ちゃんも一緒に!」
「いや、俺はその」
「おいやめろ光莉が困ってるだr」
「アンタは黙ってなさい!!」
「ヴッ!?」「ヒェッ!?」
見事鳩尾に入るワンパン。脛の次はお腹を抑え黙って蹲る龍斗さんを見てまた優也が情けない声をあげた。さっきの戦闘訓練で自分をボコボコにした相手が、ただの一般人のワンパンで沈められたその光景に目を白黒とさせている。私もそうだけど現実に追いつけない。何!?何が起こってるの!?
「さっ、面倒な野郎は無視無視!狛坂さん。ここの部屋借りてもいいかしら」
「……小休憩室ですか、どうぞ」
「2人も入って!お茶でも飲みましょ!」
「え、ちょ、ちょっと!?」
そう半ば強制的に背中を押されて私と優也はいつもの小休憩室へと押し込まれる。その後ろから
「龍斗さん……お気持ちお察しします……」
「うぅ……………」
背中を摩る狛坂さんと小さく唸る龍斗さんの声が聞こえてきてしまって、そんな龍斗さんの珍しい小さな背中に少しクスリと笑ってしまった。




