#12-1 悪い夢
いつになく騒がしいと思ったんだ
「出動命令がもう出てる……?」
「貴様どこにいたんだ!!早く出動しろ!!」
朝。メディカルチェック終えたいつもの集合時間。いつものメンバーがそこにいるはずが、優也と海美ちゃんはいない。それどころか俺を迎えたのは長官の怒号と慌ただしい司令室。狛坂は目を充血させながらどこかへ司令をとばし、狛華ちゃんはボロボロ泣きながら高速でキーを叩いている。
「っ……了解!」
唯ならぬ雰囲気に押され、嫌な予感に足を取られながら走る。場所はそう遠くない。四肢が痺れていく感覚。頭に回る酸素が足りないのか視界はぼやけてはっきりしない。何があったんだ。俺が寝ている間に何が?もし、
もし、優也と海美ちゃんの身に何か起きていたら?
ただ足を前へ前へと伸ばして、転びそうになりながら本部を出て目的地の大きな倉庫へ向かう。息が苦しい。角を曲がった先。体が熱いのに冷たい。その先に目的地。心臓がうるさくて何も聞こえない。曲がり角を曲がる。
「ストームとうちゃく……」
嫌な予感は俺の跳ねる心臓を貫いた。
目の前の建物は火事になっているのか、炎が視界いっぱいに広がっていた。さらに追い討ちをかけるように小規模ながら爆発をおこし、思わず腕をクロスしてかばう。熱い。熱い。けれど火傷した俺の手先はなぜか冷え切っている。
どうして?
「ゆうや、うみちゃん」
その炎の海の中に2人はいた。
優也は体の右半分が焼き爛れ、腹部に空いた大きな穴は向こうまで見通せてしまう。表情は何かとてつもない恐ろしいものを見たかのような怯えた表情で、その凄惨な最期を物語っている。
海美ちゃんは頭が頭だと認識できないほど損壊しており、かろうじて服で判断できる。小さな身体中に大型生物に噛みつかれたような痕が残り、辺りの火が燃え移ったのか足先はゴウゴウと燃えてしまっている。
「う、あぁ、あああ」
なんで?
「ぁあぁああああああっ!!」
なんでなんでどうしてこんなことに?
どうして2人がこんな目にあってるんだ。どうしてなんで、どうして!?2人が何かしたのか。誰がやったんだ。誰が2人を殺したんだ。
絶望に膝をついた俺に誰かが後ろから肩を叩く。
振り返るとそこには光莉が立っていた。
青のトップスに白のスキニー、その上に白衣を着ている。あの日、最期の日の姿の光莉。
「何人殺せば気が済むの?」
「違う!俺が殺したんじゃない!!」
「龍斗が関わったせいでみんな死ぬの。そんなの龍斗が殺しているようなものじゃない」
「ちが、う、俺のせいじゃ、」
「ねぇなんで貴方だけ生きてるの?私たちは苦しんで死んだのに、どうしてのうのうと生きてられるの?」
「俺も、俺だって苦しんで!」
「生きている価値なんてないくせに。お前なんて、」
光莉の体がじわりじわりと赤に染められていく。光莉の手が俺の首にかかる。同時に嗅覚を支配する鉄っぽい匂い。
赤は少しずつその鮮度を落として暗くなって、あの時、あの時見た、あの、黒っぽく乾いた、
「お前なんて、早く死んでしまえ!!」
「うわああああああっっ!?」
「うわっ」「わわっ!?」
ガバッと勢いつけて飛び起きる。ボケた視界をゴシゴシと擦れば、優也の部屋だ。海美ちゃんと優也がいた。時間は夜の9時。
そうか。優也の部屋で三人でごはん食べて、その後、海美ちゃんは優也に勉強を聞いていた。横で頷きながら聞いていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。
心配してくれている海美ちゃんと呆れた顔をしている優也に怪我の一つもない。
あたりまえだ。さっきのは夢だ。ただの悪い夢。
落ち着け。深くゆっくり息を吸って吐く。
「だ、大丈夫?龍斗さん」
「あ、ああ。2人は無事?」
「何寝ぼけたこと言ってるんですか。龍斗さんが勝手にベッドで寝始めただけでしょう。無事もクソもないです」
「ああうんいやっそう、そうだな」
いつのまにか出た冷や汗を拭う
「変な夢でも見たの?」
「うーん……いやぁ、優也がまさかのマグロになって板前に切られて刺身になるところでさぁ、焦ったわ……」
「しょうもな」
へへへ、いつもの調子で笑い飛ばせばさっきまで続いていたであろう空気が戻ってくる。あのお菓子取って。食い過ぎだ、太るぞ。はぁ?その減らず口なんとかなんないの!?事実だろ。いつもの2人のやりとり、そんな中で。
俺はと言えば情けなく震える手の居場所もなく、まるで隠すように後ろ手にして強く握りしめていた。
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#12 あなたの居る場所
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