#11-15 大人は子供を
『子供は笑顔が一番だよ』
「────っ」
貴女の声が聞こえた。聞こえるはずもないのに。
体が勝手に、動いた。理由はわからないけれど。
後頭部で固定されている目隠しを外した。すると随分と泣いていたのか、目の周りが赤くはれている。それ以上に圧迫されて擦れた部分の傷が痛ましい。
次に四肢につけられた枷を掴み、強く掴む。するとバギンッと音を立てて壊れ、子供の四肢は自由を得た。これで大丈夫。
次にこのヘッドホンみたいなやつを、
「何をしている」
「っ!!」
後ろから声がかかる。事件後直後に俺に色々話してきたキツそうな女の声だ、でも少し違うのは、
「……あぁ、初めまして。スピーカー越し以来だな」
「……」
背の高い高圧的な女性が独りと、その後ろに数人が立っている。長い切れ目が鋭く俺を睨みつけた。うわぁ、こんな感じでいつも話してたわけね。
「何をしている」
「そっちこそ、子供相手に何してんだよ」
「適切な拘束を行ったまでだ。質問に答えろ。何をしている」
「どう見ても適切には見えない拘束を適切に戻してるとこかな」
「今すぐその拘束を戻せ。こいつは特別対処が必要だ」
「なんで?俺はこんな自由に動いているのに」
「こいつは特別耳が効くらしい。そのヘッドホンでその聴覚を遮断しているのだ。それにまだこいつはわかっていないことも多い。そのため視界も封じた。何か問題でも?」
「問題、ねぇ」
ちら、と子供を見れば目を開いてぼーっとこちらを見つめている。話が聞こえないのか困惑した表情だ。
少し近づいてヘッドホンを良く見る。着脱は簡単そうだな。数か所の留め具を外せば、簡単に外れた。ま、簡単だけど、目が見えないんじゃ外せないような奴だ。意地の悪い。
「おい」
「何?」
「指示を聞けないというならお前も同程度の拘束が必要になるぞ」
「どーぞお構いなく。俺はいつ死んだっていいしね。それに、俺が動かないで困るのはそっちじゃない?」
「……」
「さ、もう大丈夫だ。な?」
子供に笑いかけると、やっと耳が解放された驚きのせいかわからないが、声がまともに出ていなかった。
いや、違うな。唇が乾燥しきってる。それにこんなに痩せ細って、ご飯も水もちゃんともらえてないのか。それで声が枯れて、まともに声が出せないんじゃないか?
ふつふつと、熱い何かが胸の奥に込み上げる。
「お前、そいつに同情しているのか?そいつはバイオテロの主犯の息子だぞ」
「……」
「お前の婚約者が死んだのもそいつのせいだ。それなのに、なぜ同情する。ハッ、同じ化け物のよしみか?」
「……」
同情、ね。
同情なんかしねぇよ。でも、
「孤虎教授が犯人だっていう決定的な証拠、まだないんだよね?」
「状況から見てほぼ確実だ」
「でも絶対じゃない。証拠不十分なくせに、その息子までこんなことするのか?もし違ったらどうすんだよ」
「そもそもこれは特異生物対策のためだ。子供だろうが間違いだろうが関係ない」
「たとえ特異生物でも、子供のこんな姿を見て何も思わないお前らの方が化け物だと俺は思うね」
子供はゆっくりと体を起こした。背中を軽く支えて、頭を撫でてやる。辛かったな、と笑って見せた。まぁびっくりしちゃうよな。何も反応を見せないって感じではなくて、ただ呆然としてるみたいだ。
続けて頭を撫でる。うわ、風呂とか入れてもらってないのか。髪の指通りが悪いな。
「ハッ、その姿に絆されたか。どうせ子供だからと情が湧いたのだろう。馬鹿が。そいつは何万もの命を奪った化け物だぞ!」
「……はぁ?」
ブチン、と何かが切れる。
「おい、今何つった」
「何度でも言ってやる。子供の姿をしていようが、そいつは何万もの命をうばっ──」
「勘違いしてんじゃねぇぞ!!!!」
「──っ!!」
ビリビリと空間が痺れる。
「例え父親がテロの実行犯だとしてもこの子に罪なんかないだろ!!この子が迷惑かけたか?誰か殺したのか!?この子だって被害者だろ!?」
「だがそいつは特異生物で、」
「特異生物だから?特別な力があるから?なら何で同じ特別な力を持つ俺は拘束しない。なんでこの子にばっかこんな拘束を強いる。この目隠しはなんだ。千里眼でもあるってか?カーテンじゃダメなのか?それもこんな跡が残るぐらいやらなきゃいけないことなのか!?おい答えろ!!」
「それは……」
俺を睨みつけるばかりでなにも返さない。いや、返せないんだろ?顔に書いてあるよ。その真っ黒な胸の内!
「孤虎の息子だから、主犯の息子だから、やるせなさとかイライラの吐口にしたいんだろ?ははっ、だって楽だもんなぁ?明確に当たれる悪者がいたら、そいつに全部苛立ちをぶつけちまえばいいもんなぁ!でもこの子は無関係だろ。というか、万一親がテロリストだったからなんだよ。何もしてない無実の子供にこんな事!!」
前に踏み出す。子供を背に庇うように。
「大人が子供にあたってどうすんだよ。大人は子供を守るもんだろうが!!そんな事もわからねぇのか!!」
「っ、」
「大人たちが寄ってたかって、子供絶望させてんじゃねぇよ!!」




