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SCR -Specific mutant Cells organism Rangers-   作者: none
#11 Before the storm
144/200

#11-13 楽にはさせない

 

「お疲れ様です」



 数日後───都内某所病室にて



 数時間にわたる詳細な取り調べが終わって、ようやく息をついた。薄暗く小さな部屋の中、ガラス越しにこうやって聞かれるとなんか悪いことした人の面談みたいだな。悪いことしたっていうか、悪いことされた側なんだけど。


 数日たっても事件の詳細はおろか、事件の概要のはしくれも伝えられず、ただひたすら俺の見たものを証言させられている。話を聞く感じ、誰がこの事件の主犯なのかを追求したいみたいだな。こんだけ聞かれたってことは、まだ誰が犯人が確定してないってとこだろ。大変だな。


「嵐巻さん」


「ん?あぁ、すんません。すぐに出るんで」


「すみません。よろしくお願いします」


 部屋に着けられたスピーカーから慣れた女性の声が聞こえてくる。多分俺の監視役的な人だろう。俺って感染源の塊だろうし、怖いだろうに、それでもいつも物腰柔らかな人だ。……俺の管理をしやすくするため、かもだけど。


 狭い部屋を出ればこれまた狭い廊下に出る。特異生物の隔離のために緊急で作られたであろう廊下は至るところがブルーシートに覆われている。空気を含んだ部分を踏めばザク、と音を鳴らした。別にこんな隔離しなくたって、感染経路は噛みつかれることによる接触曝露って話なんだろ?ここまで過剰防衛しなくとも……まぁ怖いのはわかるけどさ。


 廊下を進む。この先に用意された自室に戻って、今日はもう何もないらしい。ここ数日同じ話を何度か繰り返して、身体を隅々まで調べるような検査もして、やっと一通り落ち着いたかな。あー部屋に帰ったら寝────



「黙れ!!」



「……っ!?」


 静かな廊下に突然響きわたる男の怒号。え、何。誰の声?ここ隔離廊下でしょ?


「い゛っ……!?」


「また痛がるフリか?バケモンのくせに!!」


 声のする方へ歩みを進める。多分遠くない。近いはずだ。


 少し先を歩いて、角を曲がろうとしたところで足を止める。ちら、と気づかれないように頭だけを覗き込んだ。


 そこにいるのは、一人の小さな男の子と、防護服を身にまとった数人の大人だ。床に倒れ伏している男の子を囲んで見下ろすような形で大人たちは立っている。


「そもそも、あいつがあんな細胞さえ作らなきゃ、こんなことにはなってねぇんだよ!!」


「ちが、父さんは、父さんは」


「そうよ!お前の父親のせいで、たくさんの人が大事な人を失った。直接的な被害を受けていない人も、こんなバイオハザードが起きた日本にいるってだけで差別されるようになって、お前のせいでどれだけの人が苦しめられてると思ってるのよ!!」


「俺はなにも」


「聞いた!?この化け物、自分のせいじゃないって!」


「お前のせいだろ、全部全部お前の──」


 男が息を深く吸い込む



「────孤虎のせいだろ!」



「こ……と、ら?」


「ちがう、父さんは、大切なもののために研究してるって。大切な人を救うための研究なんだって。それを悪いことに使ったやつが悪いんじゃないの!?」


「全部孤虎利人がやったんだろ。警察から聞いてんだよ」


 全部孤虎利人がやった?

 コトラ事件って、孤虎事件なのか?


 つまりそれって、孤虎教授が犯人ってことか?


「あのパーティを計画したのも、被害をより広げるためだって話だよ。そうでもなきゃ自分の受賞記念パーティなんてやらないもんなぁ」


「それで人を集めて、ご自慢の細胞に感染させて、バケモン作って日本中に広めようとしたんだよ。ま、簡単に死んじまうバケモンみたいで?自分もバケモンになっちまったとかなんとか。それで自分の息子までバケモンになっちまうとはな」


「いや、計画通りなんじゃないか?だってこうして、息子だけは生き残ってるもんな!俺たちの大切な人は死んだってのに!!」


 孤虎教授があの事件を計画して、実行したってことか?


 そんなまさか。あの人が?


 信じられない。脳が理解を拒絶する。でもあの人達が言うには孤虎教授がやったって話だ。いや、でも、何も証拠もないのに。


「パーティの途中であいつが抜け出した途端にバイオハザードが起こったって話じゃねぇか。こんなにわかりやすい犯人がいるか?」


「それは、俺が」


「お前を理由に会場を出て、バイオハザード起こしに行ったんだろうが。あの時会場を出たのは孤虎利人だけだった。あの日研究所の警備は厳重警戒だった。これであいつ以外に誰が犯人だっていうんだよ!」


「……」


 孤虎教授しか状況的にはあり得ない。

 孤虎教授しか、あのバイオハザードを起こすことはできなかった?


 孤虎教授が、光莉を殺したのか。


「……」


「ちがう。父さんがそんなことするわけない。俺が、俺と一緒にいたんだ。音がブーってなったときは、俺と」


「父親のことかばう息子の話なんて聞けたもんじゃないわ。ほら、大人しく部屋に戻りなさい!」


「お願いきいて、だれか」


「いい加減にしろ!」


 ドンッ

「~~っあ!?」



 ブルーシートがぐしゃっと潰れ引きずられる音に何かが転げ落ちていく音が重なる。下がっていた視線を上げて、角の先を思わず見た。そこには子供の姿はない。


「ふん、いい気味」


「うわ見てよ。こんな高いとこから転げ落ちたのに無傷だよ!?」


「化け物様様だな。じゃ、自分でも帰れるだろ」


 嘲笑交じりの会話をしながら、ひらひらと手を振って防護服たちは去っていく。しばらく複数の足音が続いて、遠くで扉が開き、閉まる音がした。


「……」


 何も言えなかった。何もできなかった。……いや、何もしなかった。


 ずずっ、と鼻をすする音が聞こえてくる。小さい嗚咽は静かな廊下に良く響いた。


 多分会話からして、孤虎教授の息子なんだろう。てか、あの子も化け物呼ばわりされていなかったか?まさかあの子も被害にあったのか。それで、俺と同じように体を化け物にされた。


 唯一俺と違う点は、犯人と疑われている孤虎教授の家族だってこと。


 そもそも孤虎教授が犯人なのかも良くわかってないけど、状況証拠的にもし本当に孤虎教授の仕業だとしたら、あの子は生かされたのかもしれない。それこそ、孤虎教授の計画通り。


 光莉は死んだのに。


「……」


 心の奥底にどす黒い何かがうごめく。


「……」


 なんで光莉は死んだのに、犯人の息子は生きているんだ?


「……」


 なんでこいつが。


 ブルーシートを踏みつけて、角を曲がる。さっきのところからは見えなかったけど、あいつが倒れ伏していた場所の少し奥に下り階段があったらしい。見下ろせば、かなり急な勾配のその下に、体を丸めて泣いている子供がいた。ブルーシートを踏みしめる音に気が付いたのか、ゆっくりと顔を上げて俺を見上げている。


 泣きはらしたその顔に、今は苛立ちしかわかなかった。


「だ、れ……?」


 なんでこいつが生き残って、光莉が死んだ?


「……?」


 孤虎教授がやったんだろ。状況証拠しかなくたって、こいつが生きてること自体が証拠にならねぇのかな。父親に生かされたってことで。


 あぁそうか。さっきの防護服の人間たちの気持ちがよくよくわかるよ。


「あの……」


 責任の所在が分かれば、誰が悪いかがわかれば、そいつを責めればいいもんな。すっきりする。ホッとする。楽になる。行き場のなかった怒りの矛先が決まって、あぁこいつを懲らしめればいいんだって。そうすれば全部返ってくるかもって。


 それでいい。それでいいよもう。


「返せよ」


「え」


「返してくれよ、なぁ」


 ギチ、握りこんだこぶしが音を鳴らした。頭に血が上って熱くなっていく。


 返せ。

 返せ。

 返せ。

 全部。全部全部、失くしてしまったもの全部。



 俺の大切なもの、全部────!!




『子供が何も気にせず笑っていられる世界。それが私の夢!』




 ────返せ、と叫びが喉の奥から飛び出しかけたところで、ぐっと詰まる。


 フラッシュバックする貴女の声。頭の中でよく響いた。声が詰まった。何も言えなくなった。


 違う。違う。違うよ光莉。


 だってこいつは笑顔になっちゃダメだろ。だってこいつのせいもしれないんだぞ。光莉が死んだのは。こいつは俺と同じ化け物で、こいつが、こいつが!


 頭を抱える。フラリと、足は天地を忘れたようだった。


「ぁ……」


 こいつのせいなんだ。こいつのせいのはずなんだ。なのに、


「……」



『私の研究でさ、笑顔になる子供が増えればって思うんだ。まーみんながみんな助けられるわけじゃないけどさ、ちょっとでも希望になれたらって思うんだ。子供は笑顔が一番だし!』



 なのに、どうして。


 どうして笑うんだ。


 やめてくれよ。なぁ、やめてくれ。俺に叫ばせてくれよ。コイツのせいだって。コイツのせいで全部めちゃくちゃなんだって。全部こいつのせいにさせてくれれば、俺は少しは楽になれるのに。


 なんで。


「あ…………の、?」


 不思議そうに顔を上げる子供に、無意識に足が一歩後ろに下がった。視界から子供が消える。


 最悪な気分だった。吐き出してしまいたかった。でもそれを許さない。最愛の君が許してくれない。


 踵を返してその場を後にする。子供が追ってくる様子はなかった。そのままいつもの部屋に戻って、いつもより強く扉を閉めた。


 なんで、どうして。


「〜〜っぁぁああああああああああああああああっ!!!」


 壁に手をつき咆哮する。そのまま力が抜けてズルズルと壁に縋りつくような姿勢のまま膝をついた。


 どうして。

 どうしてこんな憎いのに。

 もう早くアイツのせいにして楽になりたいのに。


 なんで、どうして。



 どうして、君の笑顔が脳裏によぎっては何もできなくなるんだ。



 


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