#11-12 貴女に会いたい
「俺のこと殺してくれない?それなら、証言してやるよ」
「!」
君のいない真っ暗な世界で、生きていたくなんかない。
静寂だけが返ってくる。あれ?引かれちゃったかな。ま、無理かぁ。いやいっそのことあの事件の証言を全部俺が悪いようにでっち上げて……いや、ダメか。姉貴に迷惑がかかる。でも、いいか。もうちゃちゃっと殺してくれよ。なぁ、
音を発さない攻防戦。意外にも早く白旗を上げたのは、スピーカーの向こう側だった。
「お前、死にたいのか」
「あぁ。そうなんだよね。どう?条件呑める?」
「………お前の死にたがりに付き合うつもりはない。だが、その条件は呑める」
「というと?」
「お前はすでに特異生物と見なされている。処分対象、というわけだ。だから、お前が証言をしようがしまいが、お前は結局死ぬことになる」
トクイセイブツ?……特異生物か?
聞き馴染みのない単語だ。何かの専門用語だろうか。生物の一種なんだろうけど……
その名前に合点の行かない俺を見かねて、女性が説明してくれるようだ。
「特異生物。事件をきっかけに発生した、ある突然変異細胞をもつ怪物どものことだ。お前も事件の時に見たんじゃないか?」
「怪物どもあれの総称ってわけね。……え?待て、え、俺が……?」
「お前の体にも特異生物と同じ突然変異細胞か埋め込まれている。お前も特異生物、というわけだ」
「埋め込まれて……!?」
咄嗟に胸に手を当て体を見る。2本の腕。2本の足。上半身に下半身。鏡はないけど多分頭も顔も変わっていない。えっと、埋め込まれたってどういう?
「俺別になんとも」
「見た目の話ではない。特異細胞がお前の体細胞の中に組み込まれているのだ。検査の結果、遺伝子の並びの中にも変異が見つかっている」
「なるほ……ど?」
俺が特異生物?あの化け物達と同じ?
いやいや、まさか、ねぇ。
現実味のない話に頭が追いつかないまま、口から適当な言葉が漏れ出ていく。うぅん、とかあー、とか唸っては咀嚼しきれずにいた。
そんな様子の俺に呆れたのか、スピーカーの向こうの女性はため息を一つつく。
「お前、拳を壁に強く叩きつけてみろ」
「へ?」
「いいから」
頭に疑問符を浮かべつつ、言われるがまま拳を握ってベッドの後ろの壁を強めに────
ドゴッッ!!
「うわっ!?」
強めに叩いた、だけなのに。
壁からパラパラと細かくなった砂利がクレーターの隙間から転がってくる。それが証明だった。
「なんだよこれ……!?」
「これでようやく納得したか?」
「俺の体に……何が……!?」
「……我々が聞きたいのはまさにその点だ。お前、なぜ生きてる?」
ふぅふぅと呼気を荒げて聞いても返ってくる返事は斜め上から。何をしたって聞いてんのに、質問を質問で返されちゃどうしようもない。
落ち着け。今までの流れから多分この女は俺の体をいじったやつじゃない。むしろその詳細を知りたがっている。人間側……って言えば良いのか。
斜め上のスピーカーを軽く睨んでも、淡々とした言葉が返ってくるだけだった。
「あの事件で特異細胞に感染し、特異生物の体に作り替えられてしまった人間は感染からたった数時間で死亡した。しかしお前はどうだ。あの研究所で感染し、数日経った今、バイタルに全く問題がない。それどころか、人間離れした筋力や拡張された機能不明の臓器まで。お前、何をされた」
「それを知りたいのはこっちだっつーの……」
「お互い様だな。とにかく、原因究明と事件の解決、さらには被害救済のためにも少しでもいいから情報が欲しい。その証言を絞り出したあと、お前は特異生物として処分されるさ」
「処分?」
「焼却処分だ。お前は何故か他人を襲い感染を拡大させるようなことはなさそうだがな」
「感染って、飛沫とか接触とか?」
「いや、怪物どもは人を襲い喰らいつき、そこから直接細胞を流し込むようだ」
はぁ、と言葉が漏れた。それならまぁ、大丈夫でしょ。俺にカニバリズムの癖はないし。そういう問題じゃないんだろうけど。
でもま、確実に殺してくれるってわけだ。感染させる力がなくとも、感染源の塊みたいなもんだしね。存在されてるだけでも相当困っちゃうよな。人の形をしてるバケモンみたいなもんだし。
「いいよ。証言、してやる」
「!」
「その代わり、終わったらすぐに殺してよ?」
「……」
「早く会いに行かないといけない人がいるからさ」
首から下げたネックレス。かけられた婚約指輪。
右手で包み込んで、丁寧に優しく握りしめた。大丈夫。もう離れないよ。すぐにそっちに行くから少しだけ待ってて。ごめん。




