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SCR -Specific mutant Cells organism Rangers-   作者: none
#11 Before the storm
142/209

#11-11 事の始まり


 2週間後──都内某病院にて



「…………?」


 目が覚めると、真っ白な天井が俺を覗き込んでいた。


 ぴ、ぴ、ぴ、と規則的な音。視線をずらせば初めましての機械がずらりと並べられている。口には半透明のよく見る酸素マスク。なんだこれ。ここ、病院か?


「起きたか」


「!」


 少しくぐもったスピーカーの音。驚いて体を起こせば天井につけられたスピーカーからだった。その下にはマイクも付いていて、スピーカーの向こうの人物と意思疎通が取れそうだ。


 カラカラになった喉を唾液で潤し、少し咳払いをする。


「あー、えっと。……どちら様?」


「嵐巻龍斗。22歳男性、特殊遺伝子細胞総合研究所の特別研修生だな」


「俺じゃん。アンタの話が聞きたいんですけど?」


「私はコトラ事件を追及し、特異生物に対抗するため発足された組織の長だ」


「コトラ事件?」


 初耳だ。コトラ?事件?何かあったのか?全く覚えはない。


「お前が特殊遺伝子細胞総合研究所にて巻き込まれた事件の通称だ。覚えは?」


「事件……」


 深く考えんだ瞬間、ズキッと頭に鋭い痛みが走る。


 鳴り止まないけたたましい警報音。どこまで逃げても目の前に現れる異形たち。引きちぎられ食い荒らされる自分の体。


 閉まるエレベーターの向こうの、貴女の最期の笑顔。


 次々にフラッシュバックしていく。


「ぅ、ぅううっ!!?」


 耐えられず、酸素マスクを外して床に嘔吐する。何も食べていなかったのか、びちゃびちゃとした水っぽい胃液だけが喉を焼いて出て行った。


 覚えてる。全部。


 酷く荒い息を吐きながら、これ以上は思い出してはならないとガンガンと警鐘を鳴らす頭を抱える。


「その様子だと忘れていなさそうだな」


「はーーっ!!はーーっ!?はっ、うぐ、うぅ、……!?」


「あの事件で現在もなお生き残っているのがお前ともう2人だけ。何があったのか、どう対応していくのか、参考となる証言が欲しい。特にお前は生き残った中でもまだまともに喋れそうだしな」


「はーっ、はーっ……だれ、が……」


「片方は事件のショックで声がでなくなり話ができない。もう片方は主犯の息子。父親を庇っているがまともに取り合う価値もない」


「違う……!ひかりは、光莉はっ……!?」


「ひかり?」


 スピーカーの向こうで紙の捲れる音が続く。痛い。頭が、痛い。収まらない吐き気も眩暈も現実を歪めて、ぐんにゃりと曲がった視界の中、スピーカーの向こうに救いを求めるように目を見開く。


「橘光莉。22歳女性、お前と同じ特殊遺伝子細胞総合研究所の特別研修生だな」


「どこにいる、今、どこに!」



 誰か嘘だって、全部夢だって言ってくれ!!



「残念ながら死亡している」



「っ……」


「死体は他の人間同様発見されていない。化け物にされた可能性が高いな。または誘拐されたか……だが、」


 一つため息をついた。


「あの状況で助かるとは思えない」


 視界が急にクリアになった。


 それは現実を拒絶し夢脳がようやく夢を諦め受け入れた証明なのか。それともようやく解放された清々しさからくる錯覚なのか。


 前のめりになっていた上半身をベッドの背につける。


 光莉は死んだ。嘘でも夢でもなんでもない。


 喉の奥の筋肉が痙攣している。何かを吐き出そうとしても何も出てこない。


 光莉は死んだ。


「……そのネックレス、そういうことか。お前の婚約者だな?」


「……?」


 視線を自分の胸元に落とす。そこには見覚えのないネックレスがかかっていて、モチーフは服の中に隠れて見えない。


 こんなネックレス、つけていたっけ?


 ネックレスの先を服の中から取り出す。


「あ…………」


 輝く群青。


「その指輪だけは、お前がどうしても離さないものだから。眠っているというのに」


 呆れまじりの面倒臭そうな声。


 ネックレスの先に繋げられたそれは、血溜まりに落ちたはずの汚れなど知らずにキラキラと輝いている。


 これを俺がずっと離さなかった?そんなことしたっけ。


 思い出そうとしても激痛の走る頭がそれを拒絶する。思い出せない。あの時、一階の総合案内のところで目が覚めて、階段を駆け降りて、地下3階で光莉の指輪を見つけたところまでは覚えてるけど……その、あとは?


 何も覚えていない。


 指輪に嵌め込まれた宝石は俺を見つめるばかりで、何も答えてはくれない。


「とにかく、あとはお前の証言頼りだ。何があったか証言してくれ」


 どんなにいっぱいの愛を注いでも、もう誰も笑ってはくれない。


「……」


「聞いているのか。おい」


 もう、全部どうでもいい。

 誰が死のうが俺の知った話じゃない。


「おい!」


「ねぇ、偉そうな女の人」


「……なんだ」


「俺のこと殺してくれない?それなら、証言してやるよ」


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