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SCR -Specific mutant Cells organism Rangers-   作者: none
#11 Before the storm
139/200

#11-8 水族館デートと迷子

「すごーい、入り口からもう広いんだ!」



 事件から半年前───神奈川県アクアワールド・マリアにて



「天井高いなー。SNSでも見たけど、こういう幻想的な雰囲気いいな」


「ね。早く行こ」


「あぁ」


 手を繋いで入り口のゲートを抜ける。水族館らしく薄暗い館内の照明、まず目に入ってくるのは、壁に埋め込まれた水槽のなかのカラフルなお魚たち。揺れる水草の合間を赤や黄色、青の鮮やかな小魚たちが泳いでいく。


「ね、見てみて!これチンアナゴじゃない?」


「あー知ってる。ニシキアナゴ?」


「そうともいう!」


 水槽をじっと覗き込んで、水流に身を任せるそれを見てはかわいい〜と笑っている。どうやら随分とお気に召したようだ。


 俺はと言えば水槽の中の明かりが光莉の顔を照らしだして、その美しさにチンアナゴよりも夢中になっている。


 巻かれた長い髪。清楚な白のトップスに、青のロングスカート。耳には青い宝石。そのどれもが光莉の笑顔を際立てる。


 綺麗だ。


 慣れない緊張に静かに息を飲んだ。こんな美しい人に今日は、今日は、絶対。


「龍斗?」


「へぇあ!?」


「わ、何どうしたの。挙動不審だよ」


「いや、別になんでも」


「?……まぁいっか。次はアザラシ?セイウチ?がいるみたいだよ。行こ行こ!」


 軽く手を引かれて先に向かう。入り口からの光もなくなり館内はさらに薄暗くなっていく。先にはアザラシが広々と泳いでいる。セイウチはその大きな前足?で波をたててガラスに打ちつけた。すごい、こんな大きいのかこれ!


「すごい、大迫力!」


「あぁ。こんなでかいんだな」


「写真で見るより全然かっこいいね。牙とか鋭い……餌とか何食べるんだろう」


「確かに。でも攻撃用かも?」


「あー、同族との争いとかね」


 そんな会話をしていると、突然ぐいっと服の裾を下に引っ張られる。


「あぇ?」「ん?」


 引っ張られた先を見ると、そこには1人の女の子。目にいっぱいの涙を溜めて、プルプルと薄暗くともはっきりわかるほどに細かく震えながら、俺たちを見上げている。


「おとーさん、おかーさん、」


「え……」


「っあ!ち、ちが、……うぅ……どこ……どこ……」


 振り向いた俺たちの顔を認識すると慌てた様子で手を離し、そのまま服をぐしゃっと掴んだ。堪えていたダムがいよいよ決壊し、ボロボロと大きな涙が溢れていく。迷子か?


 周りを見渡すが親らしい人は見当たらない。入り口に近いとはいえかなり薄暗い中、こんな小さな子が1人でいるなんてさぞかし不安で仕方ないだろう。


 光莉がしゃがんで目線を合わせて話しかける。


「どうしたの?お母さんとお父さんいない?」


「ふっ……ぅ、ぅう!」


「そかそか。1人でこわいね。じゃあさ」


 そっ、と。光莉はゆっくりと震える小さな背中をなでる。


「私とここでお母さん待たない?」


「ぅ……?」


「知らない人についていくのも嫌でしょ。なら、ここで一緒に待とう?こっちのお兄さんがお父さんとお母さん、探して来てくれるから」


 ね、と俺を指差して笑う。了解の意味を込めて小さく頷いた。


「え、ぁ……おかーさん、どこ……」


「うんうん。お母さん、どんな人?」


「……優しくて、ちょっと怖くて……でも、好き。すずのこと、すごく好き」


「うん」


「すずのこと、大好きだから。ぐすっ心配してるはず、だからぁ!ひっく、ひっく。置いて行ったりしないもん。」


「うん」


「お母さん迷子になってるだけもん!!すずのこときっと心配してるもん!!わぁぁあん!!」


「そうだね。きっと心配してる。でも泣いてたらもっと心配しちゃうな」


「ふぇ……」


 ニコニコと笑顔を絶やさないまま、肩を優しくポンポンと叩く。


「1人で怖かったね。よく頑張った!お母さんに会ったら褒めてもらおうね」


「グス……ひっく、おかーさん……すずのこと、おいてったりしないよね?」


 不安に揺れる瞳が光莉を見つめる。そっか。置いて行かれたと思ってるのか。


 スローモーションみたいにゆっくり、怖がらせないように光莉が女の子の頭を撫でる。



「大丈夫。一緒にお母さんのこと待とう?」



「…………うん……」


 2人は手を繋いで近くにあった休憩用のベンチに座る。ちょっとは落ち着いたな。また不安になる前に見つけてあげないと。


 ここは入り口近くの水槽だ。で、あの女の子が置いてかれたと思ったってことは先に行ってしまった可能性が高いか?……いや、待てよ。確かこの近くに……


 来た順路を少し戻るとお手洗いがある。照明が少しだけ明るくなったそこで、慌てたように周りを見渡している男性と赤ちゃんを抱える女性がいた。


「鈴ちゃんー!?ここにいてねって言ったのに」


「ごめん僕が遅くなったせいで……鈴、鈴!!」


「個室には入ってないよね……?まさか出られなくなったとかじゃ」


「あのー」


 2人は振り返る。あー、なんかちょっと顔が似てるような気もする。


「誰か探してますか?」


「え、あ、はい!8歳の女の子で、トイレに入るまで一緒にいたんですけど見当たらなくて」


「すずちゃん、ですかね?」


「そうです!ど、どこにいますか!?」


「こっちです」


 少し駆け足で光莉と女の子のところに戻る。俺たちがやって来たのを見るやいなや、女の子は足をぶらつかせていたベンチを飛び降り両親の元へ走って行った。


 やっぱりそうか。こんな入り口近くで迷子になるなんておかしいと思ったんだ。施設の中にしか基本お手洗いはないし、きっとかの施設の中に入って早速はトイレに行ったんだろう。そこで逸れたんだ。


「おかーさん!!うわぁああん!!」


「こら鈴!!勝手にどっか行かないって約束したでしょ!!」


「ごめんなさいいい!!でもお魚見たがっだ!!」


 ギャンギャンと母親泣きつく女の子にふふっと笑いが溢れる。ははは、お魚見たかったかぁ。でもよかったな。もう逸れんなよ。


「すみません、本当に本当になんとお礼を言えばいいのか……!」


「いや、俺は別になにも」


「そちらの方も、あやしてくれていたんですよね。すみません、ありがとうございます……!!」


「いえいえ。お気になさらず」


 ぺこぺこと何度も頭を下げられる。いや、まじでそんな何もしてないのに。でもきっと両親もさぞかし不安だったんだろう。大切なお子さんがいなくなって、それはもう。


 親ってのは、きっとこういう生き物なんだろうな。ふと、心配性の母さんの顔が浮かんだ。


「おねーちゃん」


「ん?なーに?」


 すると女の子が光莉の服の裾を掴む。


「……ありがとう。一緒に待ってくれて」


「こら!ありがとうございます、でしょ!すみません……」


「いえいえ。すずちゃん。もう逸れちゃダメだよ?」


「うん。お礼に、これあげる!」


 そう言って差し出された小さな手のひらの上には、折り紙でおられた青色の魚がいた。


「わぁ!すごい、お魚!?」


「うん!すず、さっき折ったの!」


「あぁ、子供向けのイベントがあって、それで……」


「あげる!」


 ずい、とさらに詰めて差し出される。それを笑って受け取って、


「ありがとう。大切にするね」


「うん!」


 怖がらせないようにゆっくりと、優しくまた頭を撫でた。……いいな、子供と光莉が話してるところ。周りの雰囲気も相まって宗教的な美しさを感じる。


 もし、もし今日、例のアレにOKをもらえたら。家族になれたなら。そしてもし子供を持ったなら、こんな美しい景色が毎日見られるってことか?


 てか、子供って。

 いや、気が早いって。

 でも光莉に似たらどうしよう。男の子でも女の子でも絶対かわいいじゃん。どこの誰にもやれないぞ。


「龍斗?」


 いやいや待てって。そもそも今日のやつだってまだ──


「龍斗!」


「うわっ!?」


「ちょっと、何ぼやっとしてるの。疲れてる?」


 気づけば目の前には光莉の顔が迫っていた。逸れてしまった家族はいつの間にかいなくなっている。や、やべ。変なこと考えてた。


「もしかして調子悪い?」


「いや全然。全然!」


「?……あ、次ペンギンだ!行こう?早く見たいよ!」


 次は光莉の楽しみにしていたペンギン達の住む山と海……を模した水槽。それに夢中になって足の進むテンポが少し早くなっている。危ねぇ……気が逸せてよかった。


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