#11-4 サイレンと極彩色
ヴーーーーーッ!!
ヴーーーーーッ!!
ヴーーーーーッ!!!
「うわっ!?」「ひゃっ!?」
心臓が飛び跳ねた。なんだ、なんだよ!?
突然鳴り響いたのは聞いたことのないサイレン。廊下の天井にあるスピーカー。そこからだ。突如として爆音で鳴り始めたそれは静かな廊下によく響く。
これハザードか?多分バイオハザードを知らせるサイレンだ。なんだ、何があった!?
訓練とは思えないその長さに比例して心臓がドクドクドクと早くなる。隣の光莉は口を抑え目を見開き、怯えているのか肩が力んでいる。
『バイオハザード発生。バイオハザード発生。レベル不明。至急施設から脱出してください。バイオハザード発生、バイオハザード発生、──』
「バイオハザード……!?え、なんで、どこが、」
「落ち着いて。とにかく地上に出て逃げないと」
落ち着け。こういう時こそ落ち着け。
細かく震える光莉の手をとり、エレベーターの方へ走る。
コの字状になっているこの施設はその2つのL字角、東と西にそれぞれエレベーターと階段がある。今はその中間地点。来た道を戻って乗ってきた東エレベーターの隣にある階段から地上に出れば良い。
焦りと緊張で呼吸が跳ねる。そういえば上にいるみんなはどうなるんだ。ていうかどこの研究室がバイオハザードを起こした?それによっては逃げ道を変えないとまずいんじゃないか。あぁでも入り口なら発生源にはなり得ない。でもみんなは、違う違う違う、今は自分と光莉のことを考えないと!
頭は冷えているのに思考はまとまらない。落ち着かないと、と胸に念じる声はけたたましいサイレンの音でかき消されていく。そしてそれは、
「ひっ、ひっ」
手を引く光莉の短い悲鳴すら、かき消してしまっていた。
逃げなきゃ
「まって、」
ヴーーーーッ、ヴーーーーッ!!
「りゅうと」
逃げなきゃ、逃げなきゃ!
「っあ!」
「っ!」
腕を強く引かれ足が絡まりその場にコケる。跳ねる呼吸と心臓が突然のブレーキに驚き、胸をぶち破ってきそうなぐらいにズキンと痛んだ。腹がぐるぐると気持ち悪い。心臓ごと全て吐き出してしまいそうだ。
数秒呼吸を整えて、ようやくまともな思考が帰ってくる。
そうだ。しまった。焦りで光莉のこと、気にかけてやれなかった。
後ろを振り返ると肩で息をしながらその場にへたり込んでいる光莉がいる。
「光莉、ごめん、怪我は」
「ごめ、ごめん、龍斗。パニクっちゃって足絡まって」
「落ち着いて。ごめん、俺が冷静じゃなかった。階段までもう少し。歩ける?」
「う……っ!痛……やば、足首やっちゃったかも……」
光莉が立ちあがろうとして右足を押さえる。靴も普段と違ってパーティー用にヒールのある靴だ。こんな靴でさっきまで無理やり走らせてたなんて。
後悔は後。今は今だ。
「わかった。……ほっ、と!」
「わぁっ!?ちょ、龍斗!?」
「ちゃんと捕まってろよ?」
光莉を抱え上げて階段へと走る。後もう少しだ。この東エレベーターのある突き当たりを曲がればすぐ隣に階段が──!
ボドン
「──え?」
なんだ?
ボドン、ボドン、
なんだ、この音。
例えるなら、水気を充分に含んだ重い本を重力のほしいいままに床に落としたような、そんな音。
前へ前へと進めていた足がスピードを落とす。角を曲がった先。音の発生源。
そこにいるのは。
「きっ、きゃぁぁあああああああっ!?!?」
「っ、……!?」
なんだ、これ。
何の生き物だ?てかこれ、“生き物"なのか?
目の前に現れたそれは、形こそ人間だった。だって、ほら。直立二足歩行なんて、人間しかしないし。白衣だってきてる。
けど、その頭が、頭が。
「ひっ、なに、これ、植物……!?」
頭が、花になっている。
毒々しいほどの極彩色。本来人間の頭部があるべきそこには眩暈がするほどに鮮やかな花々が咲き誇っていた。首は茎になっているのか暗い深緑で、ドクンドクンと怒張した血管のように見える。
血管?いやいや、植物だろ?あれ、人間か?
腕は人間と同じそれだ。ただ一点、紫色の触手のようなものが巻き付いていること以外。
けれど足こそ異常だった。単子葉類植物のヒゲ根のように広がったいくつもの茶色の足。その合間合間からタコのような見た目の太い触手が伸びている。その先端は何か粘液で濡れているのか、ぐちゃぐちゃと音を鳴らした。
なんだ、なんだよ、これ!
そいつが東階段の前を陣取っている。無理だ。逃げようにもこんな状況じゃ、どれだけ勇敢だろうと隙間だって縫っていけない。
ボドン、ボドン。
「び!?こっ、こっち来ないで!!」
「〜〜っ!!」
ゆっくりと動き始めたそれに背を向けて反対方向へと走り出す。もう一個の階段だ。反対方向への突き当たりにも同じように西エレベーターがある。そっちから逃げないと!
ていうかなんだ、あれがバイオハザード?あんなの、どこの研究室がやってるって言うんだよ!流石に聞いたことねぇぞタコと植物が混ざったようなキメラ生物なんて!
恐怖で振り返ることもなく全力疾走で距離を開ける。幸い体重いのかあの足だから動きにくいのか、追ってくるスピードはかなり遅い。これなら反対側から逃げられる。
走って、走って走って走って。
やっと辿り着いた反対側のL字角。西エレベーターは地下3階にいる。呼んでいる暇はない。すぐ近くにある扉を開けばそこは階段だった。これを上に行けば、
ボドンッ!




