#11-2 運命のすれ違い
タッタッタッ
「どけ!!」
「うわっ!?」「きゃっ!?」
突然後ろから足にタックルを受けてその場によろける。な、なんだ!?
同じくよろけた光莉を支えると、確認する間もなくそれは横を通り抜けてかけていく。
子供?小さい子供だ。
あれって、もしかして────
「優也!待ちなさい、危ないから!」
「ぅえっ!?」「うそ!?」
こ、孤虎教授!?
子供を追いかけて後ろから飛び出してきたのは孤虎──孤虎利人──教授。今やこの研究所の時の人で、正真正銘今日のパーティの主役。それがなんでこんなところに!?
孤虎教授は子供を追ってきたようだ。俺たちがバランスを崩したところで足を止める。
「孤虎先生!?」
「あぁ!橘さん、嵐巻くん。すみません息子がぶつかってしまって。お怪我はありませんか」
「あ、いえいえ、全然それは。どうされたんですか?」
「いや、息子と少し揉めてしまいまして。すみません、早く止めないと危ないことに」
「え、手伝いましょうか?」
「いえ、これは親子の問題なので。ありがとう」
丁寧に礼をし、だいぶ離れてしまった子供を追うため走り出した。今日はどこの部屋もロックかけてあるし、危惧してるような危険はないだろうけど。
あの子供、聞いてはいたけど本当にいたんだ。孤虎教授が自分の息子を連れてきていることはこの研究所じゃ有名な話だけど、初めて見るなぁ。
「大変だなぁ」
「今の優也くんだったよね。あんなに怒ってるのも、暴れてるのも、初めて見るかも」
「あぁ、よく遊んでるんだっけ」
「うん。隣の研究室だし、孤虎教授が暇な時に遊んでやってほしいって言ってたから、たまに遊びに行ってるんだよね」
孤虎教授は奥さんが事故に遭って亡くなってしまって、子供を1人家に置いておくのが嫌だからと教授室の隣の資材室の一部を改造して子供が過ごせるスペースを作っている。この研究所じゃ有名な話。そこで勉強したり、あるいはラボの人と遊んだりしているらしい。それに孤虎研の人たちだけじゃない。近隣の仲の良い研究室の人たちも巻き込んで、子供の世話をしているそうな。
エレベーターへ向けて歩を進める。
「優也くんっていくつだっけ」
「9歳……あいや、最近誕生日で10歳になったんだっけ」
「10かぁ。可愛い時期か、クソガキか」
「可愛い方だと思うよ。おとなしい子だし。会ったことない?」
「ないなー。階違うし。でもそんな小さい子供連れて研究してって、すごいな、孤虎教授」
「良い子だよ〜今度会ってみなよ。それに、」
話しているうちにエレベーター前に到着。下へ向かうボタンを押して少しするとチカチカとランプが光った。肩からずり落ちた鞄の紐を背負い直しながら乗る。
「私もいつもやる気もらってるもん。疲れちゃった時とか。こういう子のために、私の研究はあるんだし」
「あ〜先天性小児疾患の研究だもんな」
「うん。夢が叶うまでは、必死こいてたいの」
「夢?」
聞き返すと、足に重みを感じ扉が開いた。うわ、暗いな。誰だ廊下の電気消した人。
廊下の壁を探ると電気のスイッチがあった。パチ、と押せば奥まで光が灯る。地下だから当然だけど、窓のない日の光の入らないとこってちょっと不気味だよな。
「で、なんだっけ。夢?」
「そういえば話したことなかったね。私の研究でさ、笑顔になる子供が増えればって思うんだ。まーみんながみんな助けられるわけじゃないけどさ、ちょっとでも希望になれたらって思うのよ。子供は笑顔が一番だし!」
「……」
「子供が何も気にせず笑っていられる世界。それに少しでも近くのが私の夢!」
夢、かぁ。
ちらりと光莉の方を見る。楽し気に弧を描くその目は、昔惚れたあの瞬間と同じだった。
光莉に一目ぼれをしたあの瞬間────あの笑顔。
それは大学2年生の時にやったグループワークみたいなもの。その自己紹介で将来の夢の話になった。俺はそれとない、誰にでも話せるようなモノ。
だけど光莉は違った。将来、絶対に子供を救う研究に携わりたいと願っていた。それに実験や研究も好きだと笑って、その場で輝いているように見えて。
その夢を追う瞳に、恋をした。
それは今までの人生で見たことの無い輝き。自分には持つことのできないその強さ。
あこがれだった。ずっと、その夢を追う瞳の光が。
「龍斗?何してんの?ぼーっとして」
「あぁいや、なんでもない。ごめん」
「しっかりしてよ、もう」
しばらく廊下を進んで、資材置き場に到着する。先輩から借りているカードを電子錠にかざせば、ぴ、という軽快な音声と共に鍵が開いた音がする。
重いドアを押すと、中は目的の場所だ。
「えーと、えーと、A1って多分端っこだよな……」
棚の上部につけられているラベルをトドって目的のブツを探す。えーと、D、C、B……あった。A1。
先輩からの言伝を頼りに棚に収められている小さな箱を見つけて取り出す。片手で難なく持てるくらいの小さな箱だ。この中に頼まれていたモノが入っているらしい。具体的な使い方とかは知らないけど。今度教えてもらおうかな。
「あった?」
「あった」
「よーしじゃあ帰ろう。ここなんか寒いし」
「寒い?」
「なんかひんやりしてない?気のせい?」
「ううん……あ、下がフリーザー入れてる部屋だから空調の関係で冷えるのかな」
「早く出よ」
「おっけ」
部屋を出る。廊下は寒くないから、着替えている間は廊下で待ってもらってもいい?と聞くとわかった。お手洗いに行ってるね。とその場で別れた。更衣室はそう遠くない。
光莉と別れて男性更衣室に向かう。研修員証を入り口にかざすと扉が開いた。中に入り、奥のほうにある自分のロッカーに向かう。
「……?」
あれ?
視界の端に違和感。いつもの道を少しそれて、仮眠室のある方に向かう。
仮眠室、鍵がかかってる?
なんでだろ。この時間俺たちみたいな学生以外はみんなパーティに出席しているはずなのに。誰か徹夜でもして体調崩しているのか?
ぽた、ぽた。
「……水?」
水……?水の落ちる音だ。中……からじゃないな。どこだ?雨漏り?いやここ地下だけど?
音のする方向へ向かって足を進める。壁沿いに、こっちかな。
ぽた、ぽた。
「あ、」
広い更衣室の部屋の隅。その天井からぽたぽたと水が垂れている。うわ、もしかして漏水天井を見上げると、シミになっているとこから垂れてきているようだった。配管から漏れて、それが落ちてきてるのかな。
とりあえず報連相。ポケットから携帯を取り出し先輩にかける。……繋がらない。てか、かかりもしない。
画面を見ると圏外の文字。え、なんで?いつもは全然使えるのに。ここ都心から離れているとはいえ都内だぞ。
とりあえず着替えて、パーティ会場にいる先輩に報告だな。来た道を戻って自分のロッカーを開けた。




