#10-13 夜明けの中のシャークガール
「優也から離れろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「ギャアッ!?」
「っっ、はっ」
突然解放され、喉を通る空気にゲホゲホと咳き込んだ。その咳でさらに身体中の折れた骨が悲鳴を上げる。なんだ、何が起こった?アースダンゴームはよろけて俺から離れ、それを心配するかのように下っ端がわらわらと集まった。
耳鳴りのするぼやけた聴覚でもわかる。あれ、あの声は
「海美……?」
「優也!!」
バタバタという足音と共に視界に心配そうな海美の顔が映る。何でここにいるんだ。危ないから、早く離さないと。いや、mortal solutionだけでも拾ってもらうか。それとも
「ギィィイイイイイイ!!この小娘がァ!!」
「優也に意地悪するな!!このオカマダンゴムシ!!」
「……ハッハッハッいいわいいわよ、アンタ達まとめてチリにしてやるわアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
その叫び声に呼応して下っ端5体が同時に海美に襲いかかる。ダメだ。右足折れてる上に右腕も使い物にならない。立ち上がれない!
「海美逃げろ!!」
「逃げるわけないでしょ!!」
次々に襲いかかる下っ端のうちの一体を殴りつけ、それを踏み台に跳び他4体に電撃を加えて麻痺させる。動きが鈍ったところで左右に2体ずついる下っ端を俺から離すように殴り、または蹴り飛ばす。こ、こんなに動けたのか、海美って。
「ハァ!!」
「っあ!?」
その隙を狙うようにボスのアースダンゴームが噛みつきに飛びかかる。まずい、海美、海美が!!
「はいちょーっと待った!!」
「うぎゃっ!?」
「あ、あ、り、龍斗さん!」
突然俺と海美を覆う影が視界を覆う。音と声から察するに龍斗さんがアースダンゴームを吹き飛ばして距離をとったみたいだ。よっと、と言う声で着地する龍斗さんの足を見ると大きな切り傷から血が滴っている。さっきの爆発のやつか。大丈夫か?
「龍斗さん」
「優也、チクッとするぞ」
「っ、」
右腕に注射が刺される。セルヒールか。
「ありがとうございます」
「うっし。じゃあ優也が回復するまで時間稼ぎといこうかな。海美ちゃん、いける?」
「うん!」
「え、いや、やめ」
地面に仰向けで動けない俺を庇うように立つ2人に情けなく声を上げる。すると2人が首だけ振り返って俺を見下ろしながら笑った。
「怪我人は回復に専念。だーいじょうぶ。俺がいるからね。怪我も大したことないし」
Storm!Ready for injection!
うそつけ。一時的とはいえ動けなくなるほどの傷なんだろ?またこの人に迷惑かけたくないのに。それに、まだ、
「海美は」
変身するのが怖いんだろ?
海美が途切れた俺の言葉の先を察したように不敵に笑う。
「私を誰だと思ってるの?」
「……え?」
「確かに怖い。辛いのも痛いのも、化け物になるのも。でもさ」
クルッとしゃがみ、海美の大きな瞳に困った顔をした俺が映った。
「何もしないで優也を失う方がもっと怖い。それに何も知らないまま死ぬのも嫌。私は知りたいの。なんで優しいお姉ちゃんがあんなことしたのか、私とお姉ちゃんに起きたことも……だから!!」
海美が立ち上がる。夜の向こう側から太陽がのぼり、スポットライトのように注がれる朝日の光に照らされ海美が輝いて見える。その強い意志を宿した瞳と固い表情にドクンと心臓が跳ねた。
「私は戦う!戦って勝って、全部知るんだ!!」
Spark!Ready for injection!
「「change my feature!!」」
Genes are promoted!
2人を中心に雷を纏った竜巻が吹き荒れる。数秒経って2人が異形なる姿を現す。
「ストーム、変身かんりょーう!」
「スパーク、変身完了!!SCR、戦闘を開始します!!」
ストームはその場から高く飛び、スパークは腕を鮫の頭部に変形させて猛スピードで噛み付く。流石にあの硬い殻を噛みちぎることはできないが、それでも諦めずに続く乱噛みにアースダンゴームが狼狽える
「くっ!?この小魚がァ!!」
「よっと!」
横に振るわれたアースダンゴームの剛腕をヒョイとバク転して華麗によけて、距離をある程度とった後、隣にストームが着地する。
「ちょうどいいね。スパーク、前に練習したアレやってみようか」
「確かに!よーし行くぞ〜!!」
ストームが指をクルクルと回転させるとそれに応えるようにスパークが頷き再び前を見据える。何だ?
すると突然2人を中心に少しずつ風が巻きはじめる。いつもの何もかも吹き飛ばすような突風じゃない、でも強い風だ。何だ?何するつもりだ?
嵐の前の静けさのようなストームの声に視線を逸らさないままスパークは声だけで返す。
「構えて」
「うん」
「3、2、1、Go!!」
その掛け声とともにスパークがアースダンゴーム目掛け飛び出し、緩く渦を巻いていた風はその勢いを一瞬で増してスパークの背中を押していく。スパークが腕の殻を前に構えて防御の体勢をとるアースダンゴームに突撃──
「っあ、」
「アラッ!?」
加速したスピードのまま突撃するかと思ったその瞬間、スパークの姿が消える。足音は風の吹く中途切れ途切れに聞こえる。どこだ!?
「ここだよ!!」
「イッ!?」
突然打撃音と共にアースダンゴームが横によろける。あ、見えた!
気づけば風はアースダンゴームを中心に渦を巻き、あたりの瓦礫やガードレールが巻き込まれてぐるぐるとアースダンゴームの周りを高速で回っている。それらを足場にし一つ一つを飛び移りながら隙を見てアースダンゴームに突っ込む黄色い影。あれだ!
「ストームアレやるよ!」
「はいよ!」
アースダンゴームの頭上にスパークが高く飛び、下に向けて手を伸ばすと細かな電撃がアースダンゴームに降り注ぐ。でもアレじゃ殻は貫通できないんじゃ、
「「せーのっっ!!」」
「ギャアっ!?!?」
バチッと一際強い音が鳴り響きアースダンゴームは腹を抑えて蹲る。見えた。電撃の軌道!ストームが巻き込んだ瓦礫の中の金属に電撃を伝わせて予測不能な角度から急所に電撃をぶつけているのか!ストームがちょうど良いタイミングと位置に瓦礫を並べて、そこにスパークが電撃を流す。こんなの、いつ練習したんだ?
「このッッ!」
「うわっ!?」
走る電撃に負けじと着地しようとしたスパークの足を掴み、そのままハンマー投げの要領でスパークの体は吹っ飛ぶ。空中で体勢を整えて地面に転がりながら体をできる限り低くして着地しダメージを最小限にする。すごい。前まで全然出来なかったのに。
その合間にストームが空から滑空してその大きな爪で上から襲いかかる。けれどアースダンゴームのダンゴムシのような殻は割れない。
おそらく今の感じとさっきまでの俺の失態から見るに、アースダンゴームに近づくのは悪手だ。相手は腕が6本ある上に体の至る所にある硬い殻で攻撃が通じにくい。今のように細かな電撃で隙をつくか、あるいは遠くから強力な電撃で叩くか。スパークができるのは……
「こんなッ静電気みたいなので!!アタシを倒せるなんて思ってんじゃないワヨ!!」
「なら見せてあげる!私の必殺技!」
そう吹っ切れたスパークが取り出したのは一本のシリンジ。変身用のとはデザインが違う。大きさとしてはストームのblow away シリンジぐらいだけど……なんだあれ?
スパークは取り出したそれの天辺にある小さなボタンを押すと針が伸びる。それをそのまま躊躇なく腕に突き立てる。それと同時に音声が流れた。
Go bite into the mutation!
「はぁぁぁあああああああああ!!!」
スパークの体全体が発光する。その光はスパークの左手に集まっていき右手を左手に添え、体をアースダンゴームに向けて半身にする。そして
「弓……!?」
左手に添えていた右手を引くと左手と右手を繋ぐ電流が矢のように、そして弓のように電流が上下に弧を描いてながれ、右手に帰着する。まさに電流で作られた弓矢。スパークは弦を限界まで引いていく。
ただならぬ光景に圧倒されていると、弓矢の向かう先にいるアースダンゴームが焦ったように叫ぶ。
「何!?何なのアンタ!!」
その言葉にスパークは清々しく笑った。
「お前を殺す、化け物だよ!!」
「ヒィィッ!?」
「───ファイナルシャークスパーキングアロー!!」
その瞬間、スパークの右手から弦が離れ、目に見えないスピードで矢が放たれる。その電撃の矢は途中で大きな大きな鮫へと姿を変え、その口をさらに大きく開きアースダンゴームへと噛み付く。さらに突然雷がアースダンゴームに落ち、視界が一瞬にして白くなって慌てて左手で顔を覆う。
バチ、バチ、という音に少しずつ目を開く。白くなったはずの世界は元の朝焼けに戻っていて、そこには腕が真っ黒に焦げたスパークの後ろ姿。さらにその先には殻が割れ中まで丸焦げになったアースダンゴームがいる。
「……すげぇ」
気がつけば口から感嘆が漏れていた。あのシリンジはストームや俺のと同じpower up solutionか。いつのまにあんなの用意していたんだ?
「よっと。ふー危ない危ない」
「ストーム」
「的戸がいない間、煌湊も1ヶ月ただ暇してたわけじゃないってわけだ。さ、優也。いけるか?」
「足がまだ折れてて。でもあの様子じゃ別に焼却は──」
『司令部よりフレイム。burst upは可能でしょうか?』




