#10-12 “代償”と窮地
「ハロー?お元気かしら」
「随分な挨拶だな。散々小突きやがって」
「ぬぁっかなか気付いてくないからもう車ごとやっちゃった♡びっくりした?」
「ありがたく最悪の気分だ」
「素敵な褒め言葉をどうもありがとう。さ、始めましょうよ」
「話が早くて助かるよ」
胸ポケットからmortal solutionシリンジを取り出す。こんなゴミ、さっさと焼いて早く海美の元に帰るんだ。……あれ?
「メイン、ストームは?」
『こちら狛華。グラフィックを見るとおそらくですが人間態のまま先ほどの爆発から運転手を庇って怪我をし動けないようです。離れた場所で回復してから合流させます』
「了解。できれば合流前にでも焼却します」
あの程度の爆発で龍斗さんが倒れるわけがないし足とかに怪我したんだろう。きっと怪我自体は軽いだろうけど、かと言ってそんな無理もさせたくない。俺1人で事足りるならそれで終わらせるのがベストだ。
『ごめんごめん。ちょっと目がボケてた』
代償のことを考えても。
「っ!!」
「あらあら、アタシ、それ嫌いなのよねぇ。嫌な匂いがプンプンするわ?」
考え事の最中に後ろから突然何かに突撃されて息が跳ねる。それと同時にmortal solutionは手から離れ、カンッという音の後カラカラカラ……と転がって行ってしまった。まずい、あれがないと変身できないのに!
拾いに行く隙もなく、後ろから襲ってきた何かの攻撃を地面を転がって避け、低い体勢を整えながら蹴り飛ばし距離を少しでも空ける。落ち着いてよく見るとこのアースダンゴームの下っ端のようだ。トップであろうアースダンゴームより一回り小さいが同じ体だ。周りを見渡すと1,2,3,4,5。5体か。転がったmortal solutionはそのままに、一旦なんとかするしかない。
ポケットからシリンジを取り出す合間にもアースダンゴーム達が襲いかかる。くそ、数が多いな!1体ならまだしも……!
飛んでくる拳を避けその合間に横からの蹴りを避けつつ、地面を分解してくるやつを他のアースダンゴームに飛びついて躱す。
「ぴょんぴょん小賢しいのねぇ。猫ちゃんの割にやるじゃない」
「あっ!?」
5体の下っ端の合間をぬって一回り大きな手が俺の右腕を掴む。ぬ……抜けない!力が強すぎる!
「で〜も?一人ぼっちのアンタじゃアタシには勝・て・な・い・わ♡オルァァ!!」
「ゔぁっ!!?」
ベキベキベキッと派手な音を立てて右腕が粉砕され、頭が真っ白になって一瞬意識が飛びそうになる。痛い……けど、痛がってる場合じゃない。人間態のままじゃ勝ち目がない。けど、これじゃシリンジをミューシスに挿せない!
「あらあらごめんなさ〜い!前に足をへし折ってくれたお返し、ちょっと力が入りすぎちゃったみたい♡」
「この……!」
「やぁねぇ、そんな反抗的な顔。足も折っておこうかしら?」
掴まれていない左腕に熱をこめてアースダンゴームの顔を殴る。なっ!?硬い!びくともしねぇ!前に戦った時よりも格段に硬くなってる!
「この麗しきレディの顔を殴るなんて、お仕置きが必要みたいね。アンタ達!」
その声に応じて下っ端が俺の体を殴りつける。さっきまで躱しきれていたものが腕を割られた動揺と焦りで避けきれず地面に転がってしまい、さらに上から容赦なく蹴りが降ってくる上に噛みつかれ、止めどなく血が流れていく。
「ガッ……っ!?」
「安心なさい?殺しはしないから。ま、死にたくなるほど痛い目にはあってもらうけど♡」
アースダンゴームが指でゴミを拾うように俺の首根っこを掴み上げ地面に打ちつける。何度も何度も繰り返されるそれに意識が飛びそうになるのを耐え続ける。痛い、痛い、痛い、でも、ここで意識を飛ばすわけにはいかない。別のことに意識を回せ。っ、そうだ、
「あぁそうそう。足を潰しとかないといけないんだった。逃げられちゃ困っちゃう♡」
「……ぉま、ぇ」
「ん?」
「なんで、俺を……」
「殺さないかって?ンフフ、教えてあげる。ザセル様が貴方を欲しがってたから取っておこうと思って!」
ガツン、と体を壁に叩きつけられる。
「ま、今どこにいるのかわからないけどね!でもアタシが生きてるってことはザセル様も生きてるでしょ?」
「は……ぁ?」
「あら!知らないの?アタシ達はザセル様が変異させた複数種の細胞をご自身の体の細胞を糊のようにして細胞をくっつけたものよ?ザセル様がもし死んでるなら、支配を受けている私も死ぬはず。けど死んでないってことはそういうことでしょ!」
そうか。ザセルが本当に死んだのならその糊とやらも消えてコイツも他の特異生物も死ぬはずだったってことだ。やっぱりザセルは生きている。でもあの時、どうやって俺の炎から逃げ切った?
どうであれ、ここで燃え尽きている場合じゃない
「そんな素晴らしいザセル様が欲しがったものがアンタとはねぇ。ザセル様も酔狂だわ」
「あぁそうか......よ!!」
「い゛っ!?!?」
話して腕の力が緩んだ隙に手に掴んでいた砂を目に投げつけて拘束を抜け、壁に跳んで勢い付けアースダンゴームの目を蹴る。怯んで後退するアースダンゴームの腹あたりを狙って蹴るが硬くびくともしない。ここも硬くなってんのか!
ガシッ
「逃がさないわよ!このクソが!!アタシの!!この目に砂をかけやがって!!」
「うっ……!」
「もういいわ!体さえあればなんでもいい!」
そのまま右足を折られ体勢を崩したところで首を掴まれ息が途切れる。ま、ずい。咄嗟に左腕に熱を込めて絞めてくるアースダンゴームの腕を焼くが、怒りでそれすら気にならないのか絞める手の力どんどん増すばかりだ。燃えたところで離す気は無いらしい。
ミシミシと首の骨が音を鳴らす。あれ、これ、やば
「優也から離れろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」




