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SCR -Specific mutant Cells organism Rangers-   作者: none
#10 「戦いたくない」
117/200

#10-5 ワーカホリック

「海美ちゃん、大丈夫?」


「う、ゲホゲホゲホッ、」


「水でうがいしようか。ちょっと待ってね」


 近くの自販機で500 mlの水を買う。蓋を開け、震えながらしゃがみ込んだままの海美ちゃんに手渡した。


「飲まないでいいからね。うがいするだけ」


「うん」


 ゆっくりうがいをする海美ちゃんを横目に周りを確認する。誘導通りに来たから人気のない場所だけど、一応確認しておかないと。


 それにしても回収ポイントが近くて助かった。この状態の海美ちゃんを抱えて移動となると長距離は避けたいよな。


「ごめん」


「え?」


「ごめんなさい。私の、私のせいで、」


 蚊の鳴くような声。しょげて下がる肩。


 普段の彼女からは想像がつかないほどの凹みようだ。限外の無茶をしてしまう子供の面をもちながらも、俺たちが思うよりは大人な海美ちゃんには任務に支障をきたしたことが心に来るものがあるんだろう。そういう無茶は限界のわからない若いうちしかできないんだし、いい経験ではある。けど、


 ポン、頭を撫でてやる。少しでも早くこの震えが治ってくれるように。


「確かに想定外の無茶する前に言って欲しかったのはある。言わなかった結果優也1人に任せることになって危険だし。それは報連相しよう」


「ごめんなさい……」


「でもね、優也も俺もね、海美ちゃんが頑張ってここまで来てくれたことも辛くても諦めなかったことも、嬉しいしすごいと思ってるよ。今はあれだけど、帰ったらゆっくり話そう。ね?」


「……もう行って龍斗さん。私はここで隠れてるから」


 話している間に少し顔色が元に戻ってきた。なるべく物陰になるようなスペース見つけ、そこに入るよう促す。


「狛坂、海美ちゃんを頼む」


『了解』


 海美ちゃんにヒラヒラと手を振って、そのまま優也───フレイムの元へと向かっ……



「……え?」



 咄嗟に物陰に隠れる。視線の先はかなり離れているビルの麓あたり。そうちょうど今向かっている現場の目と鼻の先。なんだあれ。あの人達。


 ここは避難区域のど真ん中のはず。人間がいるなんてことはあり得ない。それにさっき全員退避したって狛坂も言っていたし。じゃああの人達は一体誰だ?


「狛坂、現場近くに人影は?」


『人影?いえ、こちらからは確認できていないです』


「えぇ、っと……あのあたり結構複雑な構造してるからわかりにくいけど、ビルの麓あたり?上からは見えないかもな。ちょうどオブジェの陰にある。暗いけど……なんかデカいカメラ持ってるな」


『それ先ほど伝えた隠れて変身できるスペースですね………まさか!?』


「マジか……!」


 嫌な予感にピンときて走り出す。あの特徴的な、あまりテレビ画面に映ることはないけど、誰もが一度は見たことがあるようなカメラ!それに人数もそれっぽい。まさか、まさか!


「フレイム!聞こえるか!!」


 インカムを繋いで叫んだ。戦闘中なのか荒々しい音が聞こえてくる。


『なんですか、今──!!』


「近くにテレビ局の人間が盗撮してる!!」


『カメラを破壊し、その場の人間達を逃がせ!』


「俺に任せろ、フレイムは敵に集中!!」


『っ了解!!』


 現場へ走りながら、奴らの視線を遮るタイミングで、シリンジを装填したままのミューシスのプランジャーを一気に押し込む!



「change my feature!!」



 瞬時に細胞が変異して風を纏い空へ跳ぶ。あの命の取り合いの最前線で何をとち狂ったかは分からないが、フレイムのことを晒しあげようものなら容赦しない。事情なんて知るもんか。


 風の推力で体を押して、隠れている男達の近くに着地する。1,2,3,4……5。5人か。男たちは突風と共に現れた俺に腰を抜かすものもいれば、何か決まった表情でこちらにカメラを向けるやつもいる。


「はいストップ。何をしてるのかな?」


「ひ、ひぃぃいいい!?化け物!?」


「恐るな!!俺たちは真実を報道しなければならないだろう!!」


「真実、ねぇ。何の話だか」


 驚いた。想像以上のワーカホリックだ。


 ポキ、と手の骨を鳴らし腕を軽く振るうと足元で風が砂利をつれて渦を巻く。


「真実でもなんでも好きにすればいいけど、死んでも恨むなよ」


「うっ……」


 男たちは狼狽えるが逃げようとしない。カメラやマイクをこちらに向けてくる。あーあーあ、どうしようかねぇ。コイツらを傷つけないままカメラだけ破壊って難易度高くない?コイツら死んでもカメラ離さないじゃん。あーもーめんどくさい!早くフレイムのところに行きたいのに!!


 ぶつくさ考えてないでやるしかない。やるって言っちゃったんだし。


 回転しながら風を体に纏って、肩から指先まで神経を集中させる。ブレるな。焦るな。フレイムにもスパークにもない、風の精密操作は俺の1番の得意技だろ?


 少し後ろに下がって体を浮かせる。まずは……


「踏ん張れ野郎ども!!」


「は、はい!?」


「せーのっ!!」


 腕を横に一薙しながら隠れ蓑となっているオブジェの屋根を蹴り飛ばす。起こした風で男達に振りかかる瓦礫を外へと吹き飛ばし、同時に屋根を滑り台のようにして荒いが逃げ道を作ってやった。フレイムとアースダンゴームの戦闘から離れるような方向でね。よーし次。次だ。集中しろ。


 近くの割れたたくさんの細かいガラスの破片を風で絡めとり、体の周りを回す。


「──動くなよ」


「え?」


 指先まで緊張が走る。ちょっとでもズレれば処刑行きだ。


 景色がスローモーションに映る。目を見開く。見える。全部。俺の目は0.01 μmまで狂いはない。


 今だ。


「う、うわあああああああああっ!?」


 腕を前に振るって風を男たちへ向け、ガラスの破片が男たちへ次々と襲いかかる!



 ジョキジョキジョキッッ!



「っ………」


「ふーーっ……」


「……あれ?」


 怯えて身を固くしていた男たちは自分の体をまじまじと見つめる。あんなガラスの雨を受けといて無傷なことに驚いてるみたいだね。何もするわけないでしょ?俺、特異生物なんだし。一般人傷つけたら処刑行きよ?ただその代わりに、


「早く帰ったら?その格好じゃ何かと不便でしょ?」


「え?」「はい?」「はえ?」「うん?」「ま?」


「ほら、よーく見てみ」


 その瞬間



 サァァアアアアアアアアア…



「「「「「あ」」」」」


「下着残してやっといただけ感謝してよ?」


 さらさらと細かく細かく切り刻んだ服が風に乗って飛んでいく。その場に残されたのはパンイチの男5人。わぁおすごい絵面〜海美ちゃん置いて来て良かった〜


「それでも邪魔するってなら下着もやっちゃうけどねぇ」


「「「「「ぎゃぁぁああああ!?」」」」」


 あーらら。恋する乙女みたいに顔真っ赤じゃん。


 そう男5人は泣きながら見えない尻尾を巻いて、俺の用意した屋根を走って逃げていった。逃げ足の速いことで、カメラもマイクも置いていってくれて助かるよ。


 カメラを握りつぶし、メモリー部分を踏みつけて完全に削除する。テレビで使うようなマイクってどこにメモリーあるんだ?……ま、全部潰しときゃ問題ないか。多分?



 Burn up the mutation!



「あ」


 後ろを振り返る。この音!


 アースダンゴームに向かって姿勢を低くしたフレイムの体が炎に覆われていく。



「───ファイナルフレイムアタック」



 目に追えない速さでアースダンゴームへとぶつかり、大爆発を起こす!!


 Burst upよりは大きくないし一度きりの爆発だ。周りへの被害はそこまで酷くないけど、やっぱりこの火力、全てを飲み込み燃やし尽くす炎に変わりはない。


 ゆらゆらと揺れる炎の海、ゆっくりとおさまっていくその中には2つの影がある。


「マジか」


「……ザセルの仕業か?」



「アタシにそんな柔な熱で対抗できると思ってるのォ?ほんと、あまあまアマちゃんねェ!!」



 1つはフレイム、もう1つはアースダンゴーム。ほとんど無傷だ。そう、あの時のザセルやネピア、セリーと同じように。ならコイツも耐熱細胞つきってことで、だとすると焼却にはburst upが必要になる。


 フレイムが厳しい表情でアースダンゴームを見つめる。


「ヤダヤダ、そんな見つめないでよ。そんなに恋しそうにみなくたって、ちゃぁんと殺してあげるからよォ!!」


「っ!」


「アハハハハハハハハハ!!分解分解分解分解分解!!!」


 回復中のフレイムにアースダンゴームが四つん這い、いや六つ這いでダンゴムシのようにフレイムに突撃する。速い!


 フレイムは近くの建物の壁に向かって跳び壁を蹴って地面に戻る。ん?地面……?確かここらへん一体はコンクリートのはずだったよな?なんでふかふかの土になってる……?


「分解者らしい能力だな。這って通った道を分解しやがって」


「アタシの『分解』の力。ふっかふかの土の温かみを知りなさい?」


「……なるほどね」


 いわば『分解』の能力か。何でもかんでもあのダンゴムシの状態で噛み付くか何かすればふっかふかの土に分解しちまうってわけだ。…何でコンクリートを分解したら土になるのか分からないけど、何でもかんでも土に分解してしまう能力だとすると、俺たちの体も例外じゃないかもしれないし厄介だ。


「長官、mortal evolutionの許可をください」


『許可する。ただし被害を考え最後は上空で行え。ストームはその補助だ』


「「了解」」


 フレイムは体を人間に戻し、懐から細長い筒──Burst upシリンジを取り出す。フレイムの状態からじゃまだ何が起こるかわかっていないから人間の体に注入するのがルールだ。フレイムの体で試してみるのは的戸の復帰待ち。


 くびれのついた中央でパキンとちょうど半分に折る。その半分をミューシスにはめ込むと



 Burst flame!Ready for injection!



 という音声が鳴り響く。更に針のついた方のシリンジを──



 カシャッッ!!



「……え?」


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