#10-4 拒絶反応
※嘔吐の描写があります。苦手な方はお避けください
この音!
急いで振り返って前を向く。1時の方向だ。
「1時の方向、特異生物らしき足音」
「えっ」「りょーかい!」
『人間の足音の方はまだ確認が取れていない。時間を稼げ』
「了解。龍斗さんは海美のカバーに回ってください。俺がやります」
「別に私だって!」
「命令だ。動くなよ」
「でも」
「リーダーの命令だからね。海美ちゃん下がるよ」
納得のいかない様子の海美を龍斗さんが腕で制して2人は下がる。何があっても龍斗さんが海美を守ってくれるはずだ。俺は相手に集中しよう。
手に熱を集める間、建物の影から出てくる影は大きい。二足歩行で丸いシルエットだ。影が太陽の当たるところまで出てくるとその姿が見えてくる。
上半身は半透明で少し白っぽい体に節があり、人間の腕に相当するものはなく、代わりに胸あたりから腰にかけて6対の関節肢が波のようにうねっている。
頭部には長い触覚が2本、足はミミズのような模様と色をしてて、さらに背中から前に少し見える甲冑のような装甲はダンゴムシの殻を背負っているようだ。
「ンン……騒がしい声がすると思ったら、確かにお目当てがいるじゃないノ♡」
「メイン2、周辺の解析は」
『反応無しです』
「了解」
狛華さんの解析結果が反応無しならザセルはいないはず。ならburn upで試してみる余裕ぐらいはあるだろう。周囲への被害がデカすぎるし、自分への負担もある。できる限りmortal evolutionは使いたくない。
「メイン1、結果を」
『依然人間の足音の正体は不明。ですが周りからの視線が遮られるスペースが複数あるので緊急時は誘導します。そこで変身してください』
「了解」
「な〜に話しているのカシラ!?」
「っ!!」
突然特異生物は背中の殻を丸めダンゴムシが丸まったような球体となって回転しかなりのスピードで突進してくる。咄嗟に腕を前でクロスして重心を低くしガードする。押してくる力自体はそんなに強くないけど、回転の摩擦で腕が折れそうだ。
「〜このっ!!」
「キャアッ!?」
押してくる力の方向を上にずらして空へと受け流す。飛んだ中で球体状態を解除し、重力に従って落ちてくる特異生物を蹴り飛ばそうと見上げるとワラワラとそれぞれが独立に動く6対の関節肢に鳥肌が立って反射で避けてしまった。ゴツンッ!!と地面と衝突する音が聞こえてくる。コイツかなり重そうだし、避けて良かったかも。
「ちょっと、アタシと愛の抱擁しなさいヨっ!?」
「断る。気持ち悪い」
「失礼ね!?このアタシ、アースダンゴームと抱擁できるチャンスなんて滅多にないのヨ!?」
「滅多にあろうとなかろうと、ダンゴムシと熱い抱擁したいのなんてその道の学者ぐらいだ。覚えとけ」
あの硬そうな殻は人間態の熱じゃ燃えないだろう。かと言って腹側の関節肢を狙って無事に済むとも思えない。なら狙うは頭部か足か。時間を稼ぐなら足かな。頭部の口に生えてる鋭い歯もリスク高いし。
アースダンゴームとの距離を詰め、繰り出される6対の前脚を跳んで避けて空中で身を捻り、アースダンゴームの殻を蹴り飛ばす。突然の後ろからの攻撃でよろめき宙を蹴るアースダンゴームの右足を掴んで思いっきり熱と力をかけるとグチャッという音と共に生温かい血で顔と隊服が赤に染まった。
「ギャァァァアァアアアアア!!あし、足がァ!!」
さらに足に熱を溜めて地面を転がるアースダンゴームの左足を捻り潰し、重なる殻を一枚掴んでアースダンゴームを浮かし、回し蹴りで遠くに蹴り飛ばした。ガラス製の階段に突っ込んでいきガラスの割れる音とアースダンゴームの悲鳴が耳をつんざく。隙もできたし耳を塞ぐようにしてインカムに手を当てた。
「メイン1、報告」
『ビルに取り残されていた人達を発見。どうやら外の様子を見て動くに動けなかったようで、保護して地下から脱出させています。変身可能です』
「了解」
「優也、平気か?」
「えぇ。まずはburn upで様子見します」
下がって見ていた龍斗さんと海美が駆け寄る。
「ゆ……ひっ!?」
すると海美から短い悲鳴が上がった。なんだ?と顔を顰めると龍斗さんが近づいてきて小声で顔に飛び散ってる血を拭き取りな、と教えてくれる。そっかさっきのか。まずいまずい。海美にこんなところ見せちゃダメだ。慌てて顔についた血を腕で擦って拭き取る。服は流石に脱げないから、海美に背を向ける形でアースダンゴームがすっ飛んで行った方を向いた。
「さっさと焼却するぞ。海美、行けるか?」
「う、うん」
「ま、結構ザコっぽいし、俺も優也もいるから無理はしないでね」
俺を挟むように3人横に並んミューテーターのボタンを押すと側面が変形してソケットが形成される。そこに取り出したシリンジ嵌め込み──
Flame!Ready for Injection!
Storm!Ready for Injection!
カタンッ……カラカラカラ……
「……え?」
いつも3番目に鳴る音声が聞こえない。かわりに何かを落としそれが転がる音。なんだ?顔をと横に向けると肩を振るわせ手で口を抑えこむ海美。顔は真っ青で脂汗をかいている。
「海美?」
「うっ……」
「海美ちゃん?」
「ゔっ……おぇっ……」
「海美!!」
咄嗟にガタガタと体が震えその場にゆっくりと崩れる海美の体を支える。なんだ、
「海美!!しっかりしろ海美!!」
「おぇっ、げほ、ゲホゲホっ……うっ、うぇぇえ」
突然胃の中のものを吐き出し止まらない。胃酸で喉が焼けているのか咳もひどい。体全体がブルブルと震え始め、痙攣を起こしているようだった。真っ青な顔と比べて摩る背中は熱く、四肢は氷のように冷たい。
「海美ちゃん聞こえるかな?一回全部吐いちゃおう。我慢しないで全部出してね」
トントン、龍斗さんが海美の背中を優しく叩く。ある程度吐き出し落ち着いたのかもう吐ける物がないのか、ただえづくだけになって言葉が聞き取れるようになった。
「怖い……怖い、怪物、おぇぇっ怪物になりたくない……!」
「「!!」」
そうか。そういうことか。
眉をよせ口をきゅっと結んだ龍斗さんと目が合う。そうだ。
「龍斗さん。海美をつれて回収ポイントに向かってください。」
「な……」
「安全なところに海美をおいて、できれば帰ってきてください。長官、スパークの帰投許可を」
『許可する。ストームはスパークを連れてこい。狛坂、誘導と車を』
『了解』
「了解。優也は?」
「時間を稼ぎます。1人で片付けられたらベストですけど、不測の事態に備えてカバーに戻ってくれると助かります」
「わかった。無理すんなよ!」
龍斗さんが海美の肩を支えながら少し強引に後ろへと下がる。
数秒してガチャンガチャンとガラスを踏み締める音が遠くから聞こえてくる。足は再生したみたいだな。やっぱり完全に焼き切るにはburn up以上の火力じゃないと無理か。
「よくもやってくれたわネ……貴方1人だけでいいの?捻り潰されるのは」
「お前くらい俺1人で充分だ」
左腕を上にあげて、前に回しながら右後ろに振りかぶり、拳を突き出して叫ぶ。
「change my feature!!」
Genes are promoted!
俺の周囲が火の海となり、右腕を横に一薙すれば視界の炎は晴れる。
「フレイム、変身完了」
「あーら貴方変身しちゃったの。なら私も」
アースダンゴームの背中からブチブチと何かが膜を破って突き出てくる音がする。正確には見えないが、殻にあった黄色の斑点から棘のような何かが飛び出していた。
その上、ダンゴムシの殻がアーマーのようについた太い腕が4本、左右に2本ずつメキメキと生える。
なるほど。さっきまではコイツも手加減してたわけだ。
「本気、出しちゃおうかしら♡」
「SCR、戦闘を開始します」




