#10-3 ギクシャクした会話
『緊急司令!緊急司令!特殊戦闘部隊3名は至急司令室へ!!』
「「!?」」
「狛華さん!?行きましょう!」
「「了解」」
先ほどまでいた司令室に戻る。4分ほど遅れて顔色の悪い海美も到着した。全員揃ったのを確認して白夜長官が席を立ち任務を告げる
「目通史区のs-555-912の23番で特異生物と思わしき目撃情報が入った。現場に急行し捜索、見つけ次第焼却しろ」
「「「了解」」」
「狛坂、区民の退避は後どれだけかかる」
「およそ30分以上はかかるかと」
「長いな」
龍斗さんが驚く。確かに長いな。いつもは20分超えたことがないくらいすぐに退避してくれるんだけど。
「はい。実は最近、退避命令に素直に従わない方が多くて」
「えぇなんで?死にたいの?」
「前回もいた記者みたいに俺たちの存在を変に嗅ぎつける奴が多いんでしょ。でも優先は特異生物の焼却です。変身時だけ気をつければあとは陰謀論でもなんでも言わせておけばいい」
「その通りだ。お前達はいつも通り焼却に専念しろ。SCR特殊戦闘部隊、出動」
「「了解」」
「……了解」
黒いジャケットに袖を通し裏ポケットにシリンジを入れて車に乗り込む。相変わらず視界は塞がれ俺は軽く耳栓までつけられた。この程度なら車内での会話ぐらいは出来るけど。
「ザセル、まだ生きてたんだね」
「海美」
「まだ確定じゃないよ。海美ちゃん、無理することないからね」
視界は暗いまま、暗い声の海美の様子はわからない。
「でも、それってお姉ちゃんももしかしたら生きているのかな」
「あ……」
確かに。mortal evolutionとザセルの焼却ばかりに意識が向いていたが、あのときネピアも焼却したんだ。それも生物かどうかも怪しい怪物が大好きな姉を殺すなんて、一ヶ月どころか一生引きずってもおかしくないトラウマだろう。
憎まれても任務だ。殺ったことに後悔はない。けれど、海美の痛みに気づけなかったことに胸が痛くなる。
「海美、本当に大丈夫か?」
「なーに心配してんの!別に大丈夫!」
声こそいつもの調子だ。けど、それが明るく取り繕った空元気かどうかもわからない自分に嫌気がさす。これほど目隠しを取り去りたい気持ちになるのは後にも先にもないだろう。
「到着しました」
その声と共に目隠しが外され、耳栓も外して車を降りるとそこはテレビ局の大きなビルが建っており、おしゃれのためか登りづらそうな半透明の複雑に交差した階段が続いている。それだけじゃ無い。建物のデザイン自体も複雑で上空からじゃ影になるところも多い。目で探すより耳で聞いた方が早そうだな。
「SCR現着、捜索を開始します」
『こちら狛坂。目撃された特異生物はダンゴムシのような姿にミミズのような足だと報告されています。気をつけてください』
「了解」
「うわぁ虫かぁ。また頭から襲われそうだ」
「頭から?」
「前にね。頭上注意だよ」
そう龍斗さんが視線を上にあげ空をくるくると見渡すが、特に収穫もなさそうでハズレ、という残念そうな声だけが返ってくる。鷹並みの視力を持つ龍斗さんがそういうならきっと間違いはないだろう。静かに耳を澄ます。
「……足音?と機材を運ぶような音です」
「え」
「狛坂さん。まだ退避完了していないんですか?」
『いえ、そんなはずは……』
珍しく狛坂さんの焦った声が聞こえてくる。狛華さんに万が一に備えザセルの透明グラフィック解析を頼んでいるから狛坂さんだけが頼りだ。数秒後白夜長官にインカムがつながる。
『確認できるまでは変身するな。万が一変身を誰かに見られたら大変なことになる』
「「「了解」」」
となるとバラバラで特異生物を探すのは危ないだろう。変身できない生身じゃ特異生物相手に脆すぎる。なるべく鉢合わせるような形も避けたい。そう耳に神経を集中させる。
「そういえば、何で変身を見られるとまずいの?」
「んー俺たちSCRは表じゃ都市伝説的な存在なんだよね、知る人ぞ知るって奴?携帯でググればでるよSCRって」
「え!?ググればでるの!?」
耳に集中しようとしても後ろの声でかき消される。うるさい、と言ってやろうと振り返ると海美が笑って龍斗さんと話している様子に出かかった言葉は喉に詰まってしまった。開いた口はもごもごと閉じられる。俺といるだけで精神を消耗させているかもしれないなら、俺が言ってしまうとまた心に負担をかけさせるよな。
任務だし甘いことばかり言ってられないけど、なるべく早く終わらせよう。必要以上に海美がしんどい思いすることはない。
「そうそう。でもだーれも信じてないのよ。そう言うコアなマニア以外はね。政府が特異生物を使って特異生物を焼却してるなんて都市伝説すぎてさ、本当に存在しているのを知ってるのはごくわずかよ」
「そうなんだ。でも確かに、嘘だと思ってた秘密の政府の組織が本当に存在する!!って思わせるようなことはしちゃダメなんだね、社会が混乱しちゃうから」
「そうそう。頭いいねぇ海美ちゃん」
「そ、そうかな。優也!私の頭いいって!」
「え、あ、そう」
わざとらしく明るく話しかけてくる海美に詰まっていた言葉が焦って崩れて形を変えて出て来た。どうにも会話のテンポが合わない。擦れてずれた歯車がガタガタと音を鳴らしているような感じ。視線を逸らし気まずそうに笑う海美に居た堪れなくなって、海美の頭を下げて撫でようと腕をあげる。
「っ!?……」
「……ごめん」
「あ……ごめん!違うの!違くて、その……違くて」
俺の上げた手に海美がビクッと体を震わせた。上げた手は行き場をなくし、後頭部を掻く。海美を怖がらせたくないだけなんだ。辛い思いしてほしくなくて、リラックスさせたくて。でも言い訳は喉の奥から出てこないままうまく伝えられない。
海美もひどい表情だ。悪意はないってことぐらいわかっている。そんな申し訳なさそうな顔なんて、
「……っ!!」
この音!




