#10-2 メンタル不調と鈍感屋
画面を覗き込んでいると、後ろから足音が聞こえる。
「ゆ〜や!」
「龍斗さん」
「また見てんの?それ」
「ええ。俺にはどうしても違和感があって」
「その映像に?」
「はい。何か見落としているような、引っかかる感じがするんです」
何かはわからない。でも何故かこれで終わっただなんて思えはしない。
「……ま、10年やって来たことが急に無くなったら不安にもなるわな。でもさ、その時はその時で考えればいいじゃん。今はちょっと休もうぜ」
ポン、と頭を撫でられる。俺の努力は虚しく全く危機感が伝わらなかった。杞憂で終わればいいけど、あんなにあっけなく終わる気もしない。
そうだ、そういえば、
「海美の様子はどうですか?」
「今日もいつも通り、部屋に1人でいたいってさ」
「……そうですか」
そして、あの日から変わったのは環境だけじゃない。海美の様子も変わった。
まず朝ごはん。いつもは揃って食べていたけど来なくなった。体調が悪いと言われそれ以上こっちからは聞けていない。訓練だって最近は休みがちだ。どれだけ体調が悪いのかと心配になって柏木先生を尋ねるも体に異常は一つもないとの事。ただ、
「mortal evolution、相当ショッキングだったんだろうね」
「見た目が、ですか?」
「見た目もそうだけど、やってることが生物のそれとかけ離れてる。同じ特異生物とは思えない……いや、そもそも生物とは思えないところ?でショックだったのかな」
「………」
「悪い悪い。でも忌憚の無い意見が聞きたいんだろ?」
どうにも、メンタルの問題らしい。
mortal evolution。そう名付けられた新しい力はまだ的戸さんが休養中だから詳しいことはわからないが、あのあたりの工業団地を吹き飛ばし簡単に地図を書き換えるほどの力を持っていることは確かだ。そして
「『融合』と『進化』。確かに気味が悪い力ですからね」
「相手を自分に『融合』させてその力を奪い、それを『進化』させるってのはなかなかお目にかからないな。融合させたってことは、セリーの声とか頭の中で聞こえたりすんの?」
「いいえ全く。それに力を奪ったって感覚よりは、気づかないうちに体に取り込んでいて力を使って初めて融合できたんだって理解しましたね」
「いつのまに、ねぇ。でも一晩、一週間もすればショックも落ち着くかなって思ったんだけど、もう一ヶ月経ってるんだよなぁ。まだそれでも優也のことあからさま避けてるし」
最近はご飯も食べられてないみたいで、部屋に篭りっきりなんだよね。と心配そうにぼやく龍斗さん。
立ち話もアレだし、と礼を言いデスクを後にしてブレイクスペースに入る。壁際の給茶機で紙コップを2つとり、1つに煎茶を、1つにほうじ茶をいれ、ほうじ茶が入った方の紙コップを龍斗さんに手渡し椅子に座る。
「ありがとう優也」
「いえ」
「一ヶ月経っても治らないとなると相当だよなぁ。このままずっと避けられるってのも辛いだろ」
「別に避けられるのはいいんですけど、海美が苦しい思いしているのなら何とかしたいです」
もし海美が部屋の中で1人、ずっとショックやフラッシュバックで辛い思いをしているなら何とかしてやりたい。本人の堂々とした立ち振る舞いと並々ならぬ努力がわかりにくくさせているが、まだ戦いの場に出てたったの半年、それまでは普通の高校生で普通の生活をしていたんだ。今まで不調が出なかった方がすごいくらいで。
ショックの元凶である俺が何を、という話ではあるが何か力になれることはないのか。
「ほんと、そういうとこ」
「はい?」
「いーやなんでも。ただこういうのって時間が特効薬なんだよなぁ。それも効いていない今、どうすべきか」
「仮にザセルが本当に焼却できていたとして、今後任務がないなら海美は元に戻していいんじゃ無いですか?抜けるまでは難しくともそれこそ休養って名目で」
「それはつまり?」
「普通の高校生に戻したらどうだって話です。俺のmortal evolutionがあればザセルだって燃やせたんだから、無理に海美に戦わせることないでしょう」
ううん、と唸って返事を決めあぐねている龍斗さんを横目に煎茶を一口飲む。俺とっては大分ぬるいが味は美味しい。
「そこはまぁ、本人が決めることかなぁ……無理させることでもないし気が向いたらとか?」
「俺は強制的にでも一度返すべきだと思いますけどね。動かなきゃ気だって向かないでしょう」
「それはそうかもだけど……優也はいいの?」
俺はいいの?何が?
「提案してるの俺ですよ」
「いやそうじゃなくて、そうなんだけど!あーもう!!めんどくさいなお前!!」
「何勝手にキレてんですか。そっちこそめんどいですよ」
1人であーでもないこーでもないと頭を抱えている龍斗さんに呆れたため息が溢れる。一体何を気にしているんだこの人は。昔っから勝手に俺を配慮しては1人で悩む癖、治らないよなぁ。もうそんなに配慮が必要になるほど子供じゃないのに。
部屋の外からこちらに来る足音。コンコン、とドアがノックされ開かれる
「龍斗さん今大丈夫ですか」
「狛坂、どうした?」
「ご家族の件ですこし」
「あぁそっち行くよ。優也、少し待ってて」
「大丈夫ですか?」
席を立つ龍斗さんがニコッと笑う。
「大した話じゃない。すぐ帰ってくるから。え?なに?寂しい?」
「難聴でしたっけ。あぁ歳か」
「そうそう最近耳が遠くてのぉ……っておい──」
『緊急司令!緊急司令!特殊戦闘部隊3名は至急司令室へ!!』




