#10-1 閉じた開放感
私の部屋に窓はない。というかこの施設で窓がある場所は無い。
だから、陽の光に当たることは外に出ない限りは無い。
静かな部屋の中。常に適温に保たれ常に換気がされただ人工的な光だけで満たされている。まるで水槽の中にいるみたいだ、なんて息苦しさを誤魔化した。
うずくまった私の視界は真っ暗。部屋の明かりはついているし、顔あげればそこに光があることぐらいわかっているけど。
怖い。
怖い。怖いよ。
これ以上化け物になりたくない。でもこれ以上足手纏いになりたくない。1人は怖いよ。でもみんなといるのも怖い。部屋から出たいのに出られない。どうすればいいのかわからない。
体を動かすための心の原動力は炎とともに燃え尽きてしまって、喉を振り絞り音をこぼした
「……助けて、」
優也、龍斗さん。
けれどその名前が続くことはないまま、時間だけがただ淡々と過ぎていく。
*****
#10 「戦いたくない」
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「狛坂さん。今いいですか」
「優也くん。どうかした?」
10月某日──SCR本部司令室にて
「前の戦闘での映像解析、もう一回見てもいいですか」
「いいよ。許可だしとくからまたb3デスクの山白さんに声かけて見せてもらいな」
「ありがとうございます」
狛坂さんに軽く礼をしてそのまま言われたデスクの番号のところに向かう。その途中に視界の端に何かこちらに向けて動いたのを見つけた。
「え……」
初老の男性だ。こちらに向いてちょいちょい、と手を振っている。来いってことか?
怪訝そうに近づく俺が可笑しいのか少し笑いながら、デスクの引き出しから何かを取り出す。なんだこれ。小さな箱の……お菓子?
「優也くん、今日も早くから頑張るね」
「え、えぇ」
「はい、これあげる。外で買ってきたんだ。口に合えばいいが」
「え?」
「10年。やっと終わったんだから少しは休みなさい」
「………ありがとうございます……?」
「呼び止めて悪かったね。それじゃ」
一礼して初老の男性のデスクから離れる。手渡されたお菓子は触り心地の良い黒の布地に金でブランド名か何かが書かれたいかにも高そうなお菓子だ。せっかくもらったものを返すわけもなく、大事に持ちながらも小さなため息が出る。
最近こういうことが多い。前回の戦闘でザセルを焼却して、その後一度も特異生物騒ぎがないしさらにオルガーの発生もない。確かに、特異生物の長であるザセルが死んだことで本当に特異生物が全滅したのであれば俺は英雄ものだろう。
それに父さんの関係で俺を恨めしく思っている人達も、俺がザセルを焼却したことでその嫌悪感が晴れたようで、色々な人に軽く声をかけられる機会が増えた。俺たちが実はザセルと繋がっているんじゃないかと噂していた人達ももういない。過ごしやすい環境になったはいいが、逆になんだか変な感じで居心地が悪い。端的に言うとこんなフレンドリーな扱いを受けたことがないから慣れない。
とりあえず山白さんのデスクに向かう。ザセルが本当に焼却できたのか。何度目かわからない確認だ。
「山白さん」
「ん?あー狛坂さんから聞いてるよ。映像だよね」
「はい。すみません何度も」
「いいよいいよ。任務も無くなって俺たちも暇しているんだ。このくらい何度でも聞いて」
「……はい」
またため息が出そうになって堪える。いや別に、比較的司令部の人たちからは手のひら返しされたわけじゃないけど、ここまで友好的でもなかったし。俺が過剰に人見知りだったのもあるか。うん
「はい、これ自由に見ていいよ」
「ありがとうございます。失礼します」
山白さんのデスクを借りて空撮されていた映像をスローモーションで見る。burst upを打つ瞬間にザセルが叫んで、その後は連続爆発。この後はドローンが退避したことで映像は乱れている。少し経った後の映像には真っ黒に焦げた工業団地のあと。何度見てもザセルの姿はそこにはない。
本当に、本当に焼却できたのだろうか。
もう一度繰り返し見ようと再びマウスに手を置く。何か見落としていないのか。ザセルが焼却できたとして、その場にいなかったネイチはどうなったんだ。SCRは解決ムードになりつつあるけど俺にはまだまだ終わりだなんて思えない。
画面を覗き込んでいると、後ろから足音が聞こえる。
「ゆ〜や!」




