#9-17 Mortal Evolution
体を前に倒したまま、腹に抱え込んでいた左腕を前に突き出して、叫ぶ。
「change my……feature!!」
その瞬間、何かが爆ぜる。
「ぐっぅぅううう!!?」
ものすごい爆風と熱を皮膚で感じると同時に白い光で視界はいっぱいになり、耳はキンッと悲鳴をあげる。海美ちゃんが腕の中で苦しげな声で俺の腕にしがみついていた。耳を強く抑えてこの爆音に耐えているようだ。海美ちゃんをより強く抱えて爆風に乗り、上へ上へと避難する。
数秒後、全てが止んだ後上から見下ろすと、
そこには
「何だよあれ…!?」
見たことのない異形なる生物がいる
優也がいたはずのそこは 《それ》 がいる場所を中心に半径5mほどがマグマで覆われグツグツと煮えたぎっている。1番の特徴は頭部だ。虎のような頭部に大きな目が四つ、通常と同じ前を見るもの2つと後頭部についているものが1つ、背中の中心についているものが1つありそれぞれが別にギョロギョロと動く。
首から下にかけての大部分がゴウゴウと音を立てて燃える炎に覆われており、ところどころに見える皮膚は黒く炭化して炎の影を落としている。足は赤い筋肉が見えており、四肢は太く両手両足大きく鋭い爪が銀色に光る。
炎を纏う化け物、いや、
「悪魔……」
「っ!海美ちゃん、大丈夫?」
「悪魔が、悪魔がいる……」
ワナワナと震える海美ちゃん。無理もない。かくいう俺も 《それ》 に恐怖を覚えている。あれは本当に生物と呼んでいいものなのか?もっと何か別の呼称が正しいんじゃないか。化け物、悪魔、邪神。そっちの方がまだしっくりくる。
その上信じられないのはあれは状況的に優也が変身したものだってこと。…本当に?本当にあれが優也だっていうのか?自分の頭が何か誤作動を起こしているだけなんじゃないのか?信じられない。信じたくない。
《それ》が一歩踏み出すと、地面はたちまち融解しさらに圧力がかかって炭化して、歩くたびに小さな黒いクレーターを作っていく。その有無を言わせない圧倒的な存在感でセリーはただ後ずさることしかできない。
「な、な、何でしょうか貴方はぁ!?」
「あぁ、名乗ってなかったな」
「うぐっぅ!?」
瞬きに満たない間にセリーの胸元抉りながら左手で掴み上げ、あたりにセリーの血が撒き散らされる。それも地面についた瞬間にじゅわっと音を立てて消えた。
「はな、離してっ」
「お前を殺すバケモンだよ」
「ひぃ、ひぃぃぃいぃいいいいいい!?!?」
そのままセリーを掴んでいた手を離し、右腕のブローがモロにセリーの腹に入る。そのままセリーの体が宙を舞う……はずが
「え……」
「燃やし尽くした……!?この一撃で!?」
ネピアが俺の心を代弁するように叫ぶ。そう。《それ》の拳がたった一度殴りつけられただけでセリーの体は燃えて崩れ落ち、塵となってその塵すら空中で燃え消える。嘘だろ、そんな、そんな火力、生物が出せるわけがないのに。
「や、ば……」
絶句したネピアが後ずさる。それとは対照的にザセルは手を組んで見惚れてしまっているかのように動かない。
地面にクレーターを作りながら 《それ》 は近づく。
「あぁ、あぁ、あぁ!!本当に!!覚醒したのですね!!」
「ざっ、ザセル様、逃げないと!!セリーがやられたんだよ!?私たちだって危ないよ!!」
「逃すか」
そう《それ》が言うと右足を高く上げてドンッッと地面を踏み締め、
「Penetrate」
そう呟く。すると足を中心に地面にヒビが入り強い地震が起こった。落ちる落ちる落ちる!?あっぶな、と息を吐きながら近くの鉄骨に引っ付いて事なきを得る。視線を元に戻すと
「なっ……!?」
地面から数十本以上生える何か、それらがザセルとネピアの体を貫いている。それ、それは。《それ》を中心に地面の中で伸びて生えているであろうその角は
「何で!?何でよ!?何でアンタがセリーの能力を使えるのよぉぉおおおおおおおお!!」
「……罪なき十字架、だっけか。ありがたく『もらった』よ」
「もらった……って…!?」
ザセルとネピアを貫くその角はまさに先ほど俺たちの体を貫いたそれと全く同じものだ。それはさっき確かに滅却したセリーの力のはずで、どうして使うことができる。模倣…したとか?
でもあれは確かに優也が変身したもので、フレイムにそんな模倣能力はない。
「優也、どうしちゃったの!?」
「わからない。でも、Mortal evolution……致死に向かう進化って意味なら、優也が危ないかもしれない」
「………!」
《それ》は苦しみもがくネピアなど見えていないようにスルーして、真っ直ぐゆっくりとザセルに近づく。離れたここからでもわかる威圧感。高鳴る心臓の音ですら許されないような緊張感。震える呼吸はきっと海美ちゃんも同じだろう。
そんな中、ザセルが笑い始めた。




