#9-15 潰える希望とマッドな乱入者
「っははははははは!!!」
「ひゃっ!?」「?」
「……え?」
突然優也が狂ったように笑い始める。四肢は相変わらず拘束されたままで、俺からは後ろ姿しか見えないけど、明らかに様子がおかしいことはわかる。
「はははははは!!ったく、ほんと馬鹿だな!」
「な、何よ!?なんなのよ!」
「前から思ってたけど、お前もしかして単細胞なのか?考えるための頭がないなら納得がいくよ、その救いようもない馬鹿さ加減に」
「なっ!?」
ネピアは海美ちゃんから離れて顔を赤くしドスドスと態とらしく音を立てながら優也の方に近づき、優也の首を強く掴み上げて怒鳴る。
「ふざけんじゃないわよ!アンタからぶっ殺してやるから!!」
「あ゛……っ!!」
「ネピアさん。やめてください」
「でもコイツ!ムカつく!!」
「ネピアさん。優也くんには手を出すなと伝えましたよね」
「〜っっ!!」
ネピアは大きく顔を歪めながら、怒りからか低いザセルの声にパッと手を離し、代わりに近くの壁を殴りつけ大きなクレーターを作る。助かった、のか?
優也を地面に転がり身を捩りながら激しい咳をした。
「ゲホゲホゲホッ!……っは、はは、スパークに、ゲホッゲホッ探知能力なんて無い。俺がお前らを見つけたからな」
「嘘をつくな!!」
「本当だよ。俺の力のこと、知らされて無いのか?」
「はぁ!?発熱能力なんてとっくのとうに知ってるし!それで私たちもザセル様の耐熱細胞もらったんだもん!」
「それとは別の力だよ。知らないのか?ザセルは知ってるみたいだけど」
ハッタリか。それでいい。あと2分耐えれば緊急救援部隊が援護に入る。その間耐えれば勝ちなんだから。
音を立てないようにこっそり腰につけた小さなポシェットからペン型注射を取り出し、左足の脹脛の側面に打ち込む。これである程度は動けるようになるはずだ。
優也がザセルを鼻で笑う。
「俺が自分のこと知らないとでも?俺の力は触れたものに熱を移して発火させるだけじゃ無い。敵を探知する能力もあるんだよ。だから海美を殺しても意味ねぇよ」
「だとしても、海美を殺せばそっちの戦力削げるし!」
「そんな暇あるのか?それに、俺の伝達能力を使えば、お前らが俺を連れて帰った後、その居場所を仲間に伝えることもできるんだぞ。お前らの根城に俺の仲間が流れ込んでくる。なぁ、本当に連れて帰っていいのか?」
「…………」
「え、え、本当……なんですか?ザセル様」
「………」
ザセルは沈黙している。ハッタリに呆れているのか困惑しているのか知らないけど、都合が良い。このままあと少し時間が経つのを待っててくれればそれで!
「残念です。優也くん」
「……はぁ?」
その瞬間、優也の姿が消え同時に何かの衝突音が鳴り響く。
「カハッ……!?」
「残念です。残念ですよ」
遠く離れたところから優也の荒れた息が伝わる。ザセルが優也を投げ捨て壁にぶつかった音だ。壁には小さくクレーターもできてる。
「その全てを覆す力を、何故貴方が理解できないのか。何故理解しようとしないのか。全く理解不能です」
「はぁっ!はあっっゲホッゲホッ!!」
「発熱能力?探知能力?伝達能力?私が欲しいのはそんなものではありません。仲良くすべきかと考えていましたが、こうも愚かだと呆れてしまいますね。」
優也は受け身がうまく取れなかったのか、地面に転がり数秒呻いた後、膝を立てて立ちあがろうとする。対してザセルは首を傾げながらその場に佇んでいた。
「もしかして淡い希望に目が眩んでいるのですか?希望を叩き潰せば黙って力を貸してくれますか?」
「あぁ?」
「私を倒せばもしかしたらお父様や彼女、鮫島愛海さんが自我を取り戻すと思っているのならば大間違いです。彼らは──」
何を言うのか言われずとも察した。やめろ、言うな。これ以上、もうこれ以上優也を追い詰めるようなことを言うな!!もう、もういいだろ!!
「やめろ!」
「トカゲは黙ってろ!ザセル様が話してんだろ!!」
背中を踏みつけられ口から血が溢れる。ザセルは俺に目もやらず優也に向かって淡々と語り続けた。
「──もう死んだのですよ。彼らの元の細胞と様々な生物の細胞を私の細胞を糊のようにして繋いでなんとか今動いているのです。私が死ねば、その糊も無くなって崩れ去るだけですよ」
「あ……」
「私を倒せば戻って来てくれるかもしれない?大層甘い考えですね。そんなだから無くすのではないですか?仲間も、家族も」
がくっ、と立ちあがろうとしていた優也の膝が力なく折れる。やめろ、やめてくれ、優也はもう限界まで来てんだよ!!
「こんなことにも気がつかないとは。全く、ふざけるのも大概にして欲しいですね。手が滑って殺しそうになります」
「え、え、ザセル様、本命なんじゃ?」
「あの程度で死ぬわけがありませんよ。ですが、あの大いなる力を貶すなど、優也くん自身であっても許せませんね」
優也は数メートル先の地面を見つめたまま動かない。瞳にいつものような力強い光はなかった。その姿にぶわりと冷や汗が吹き出す。ダメだ、そんな、
けれど俺の頭脳は優秀で、ザセルから感じる違和感を敏感に感じ取っていた。
これは──怒り?
初めて感じる、ザセルの際立った怒りの感情だ。心の底から怒っているように感じるけど、何でそんなに怒る必要がある?それも優也の苦し紛れのハッタリなんかに。
まるで信仰する神を貶されたような信者じゃないか。優也の力に心酔する信者?いや、この性質どこか……研究対象に心酔する、研究者のような……
「同感だね。僕ちんもそう思うよ」
「〜〜っはぁ!?」
「……貴方は?」
突然場に響いたのは、低めのアルト。
声の出どころは簡単にわかった。優也の隣。アーマーベストを着てはいるがその姿を見間違えることはない。的戸だ。
「僕ちん?僕ちんは天才科学者さ。フレイムくんの生みの親のね」
「なんでお前が!」
「やっほー龍斗!いやー派手にやられているねぇ!」
何のつもりだ。研究開発室の室長がこんな最前線に、危険な場所にいるんだ。ザセルとネピア、セリーから離れた場所にいるとはいえ、アイツはいわばSCRの頭脳。もし万が一何かあれば!
ピ、とインカムが音を立てる。
『ストーム、動けるか』
「はい」
『的戸の護衛を優先しろ。新たなsolutionをアイツが届け終わるまで、必ず守り抜け』
「了解」
新たなsolution?そう考えていると、的戸が優也の傷から流れ出る血液を少量採取し、見たことのないシリンジに入れて振り、さらに試薬っぽい何かを手際よく入れていく。まさかここで新しいsolutionとやらを作るつもりなのか!?嘘だろ!?
「なにあのガキ。ザセル様、殺します?」
「ええ。優也くんに何をするかわかりませんから」
「え〜こわーい!ふふん、いいのかなぁ僕ちん殺しちゃって」
「はぁ?」
「ザセル、君も見たいんじゃないの?フレイムくんの真の力ってやつ!」
「!」
ザセルが驚く。優也の真の力? まさか、前に言っていた優也の知られざる力が分かったのか?
「僕ちんなら君に見せてあげられるよ、君の理想通りのフレイムくんをね!」




