#9-14 逆転
「あ、どうも。セリーこと、セリヌンティクスです」
黒煙の中から出てきたのは頭こ大きな2本の角に半透明な体と随所にへばりつく金属。ザセルじゃない。セリーだ。でも今までの特異生物はburn up で燃やしきれないわけないのに。
じゃあなんだ?フレイムのburn upが外れた?でもあのスパークの電撃から逃れることなんてできないし、俺の竜巻だってそうだ。てことはあの炎の中にいたのは確実りじゃあなんで生きている?
同じことを考えていたのかスパークも口を大きく開けており、フレイムも目を見開いて驚いたような様子だ。そうだよだって、burn upで燃えない特異生物なんてザセル以外今までいなかったから。
「3人がまとまっている。これが言われたチャンス!」
「っ!?」
「罪なき十字架!!」
そうセリーが叫ぶと地面が揺れる。な──!?
ザクザクザクッッ!!
「い゛っっぁああ゛っ!?」
「あ゛ッ……っ!?」
「………っ!?」
地面から牛のような角が飛び出した。
歯を食いしばってなんとか耐える。なんだ、なんで地面から牛の角が生えた?アイツの、セリーの能力か?
地面から生えた牛の角は俺の左肩と右の横っ腹を突き刺して、間一髪避けた左胸を狙っていた一本が頬を擦り血が伝っていく。フレイムも持ち前の動体視力で回避したみたいで刺さったのは左足の太ももだけだ。でも……
「う、ぁ」
「スパーク!!」
左後ろに顔をずらし視線を移動させると、四肢に絡むように牛の角がささり、左胸近くまで突き刺さっている。まずい。俺たちの唯一の弱点(心臓)が、鼓動が、止められてしまう。
ゆっくりスパークの体が海美ちゃんの体へとじわじわ戻っていった。意識は辛うじてあるけど、体が過剰な負荷に耐えられず変異が元に戻ったんだ。
左肩と右の横っ腹に突き刺さる角を掴み、グッと砕くように力を入れるとバキッと砕けてなんとか動そう。まだ刺さっているところは刺さっているけど出血を考えると抜かないほうがいい。とにかく、海美ちゃんをこの場からはなさ、
「グッッッ!?」
「なぁに勝手に動いてんのよこの厨二トカゲ。あぁいやドラゴンだっけ。厨二ドラゴンって、今時小学生すら好かないわよ!?」
アハハハハハハ!と大声で笑い俺に蹴りを入れ続けるネピア。その大きなクマの爪に俺の皮膚を引っ掛け空へ投げ、翼も風もなくただ重力に従って落ちる俺の体を今度は回し蹴りで地面に転がされる。
「あはは!お前みたいな失敗作が私に盾つけると思うなよ!」
「……ぅ、なんで……なんでフレイムの炎が効かない……!?」
手のひらが、腕が、体が、少しずつ人間の体へと戻っていってしまう。さっきblow awayも打ってそもそも限界が近かったんだ。クソ、クソ!ここで倒れるわけにはいかないのに!
第一なんでフレイムのburn upで燃えない?ザセルならまだしも、なんでセリーとネピアが生きている?わからない、わからない、
「答えは1つですよ」
「ザセル」
角の拘束から抜けたフレイムの前にザセルが笑って立ちはだかる。
「ネピアさんとネイチさんに私と同じ耐熱細胞を埋め込むために、実験としてセリヌンティクスさんを作ったのです。結果は大成功のようですね。先ほど咄嗟にネピアさんにも埋め込んでおいて正解でした」
「そーゆーこと!残念!」
「あ、あの、残念なのではないかと」
そうか、ザセルの試したいことってこれか。まずい。フレイムの炎だけが、burn upだけが完全に焼却するための一手なのに!
「さて、最終手段が効かなくなったわけですが。優也くん。諦めておとなしく私と一緒に来ませんか」
「断る」
「地球の未来のためなのですよ?」
「知った話じゃない」
「強情ですね。まぁいいです。力尽くでも一緒に帰っていただきますから」
そうザセルが腕を伸ばすと蔦がフレイムの足に絡みつき、フレイムが狼狽えたところで腕を拘束し腹に大きく分厚い葉が何重も叩きつけられる。フレイムの体は力無く宙を舞い、そのまま地面に押し付けられ、先端の尖った茎がフレイムの体を地面に縫い付け動かない。burn up直後だ。まだ細胞が完全に回復しきっていないのに攻撃を受けてしまったから動けるはずもない。
「……っ!!」
「本当は手荒な真似などしたくないのですが、優也くんは頑固なところもあるので。どうかお許しください」
フレイムの体も少しずつ優也の体に戻っていく。このままじゃ3人共倒れだ。どうする、どうする……!?
『こちら司令部!緊急時対策班を送りました!あと4分で到着しますのでそこまで耐えてください!』
耳元で狛坂が叫ぶ。あと、4分。どうにかして時間を稼げば対策班がザセル達の気を逸らしてくれる。その隙に一時撤退でもしないと……!
ギチッと言う何かが擦れる音を耳が捉え、逸らしていた目線を前に戻すと、優也が四肢を茎に絡め取られ無理やり立たされている。コイツらの、いや、ザセルの目的は優也だ。連れていく気だな!?
何が目的だ?的戸が言ってたまだわかっていない秘められた力のことか?
「さて、目的は果たしましたし、帰りましょうか。セリヌンティクスさん、ネピアさん」
「このクソトカゲ、殺しちゃダメですか〜?」
「今は一刻も早くこの場を後にしたいんです。増援を呼ばれたらこの素晴らしいチャンスを逃してしまうかもしれませんから」
「ちぇっ命拾いしたわねクソトカゲ」
ガスッと腹にまた蹴りが入り、人間の脆い腹から夥しい量の血が流れる。
「……あぁでも、そこの鮫の頭は潰しておきますか。体のどこを使って私達の場所を捉えたか分かりませんが、頭を潰しておけば確実でしょう」
その言葉に頭から血が引き全身が急に冷える感覚が体を瞬時に巡る。ダメだ、それは。変身態でも持たないのに人間の体でやられれば即死だ。
「はーい!海美、ごめんねぇ」
「うっ……」
ネピアが俺から離れて胸を抑えながら横たわる海美ちゃんの肩を踏みつけ、ぎゅうっと音が鳴るほど強く拳を固める。
「お、ねぇち、ゃ」
「キッッッモ!!あたしはあんたの事妹だなんて思ったことないわよ。何も知らないで笑ってるだけのグズが!今ここで引導を渡してあげる!!」
「やめろ……!」
立ちあがろうとしても体が言うことを聞かない。動け、動け、動け!
ネピアが腕を振り上げる。ダメだ、間に合わない。また俺のせいで、また大切な人が死ぬ。嫌だ、嫌だ!!やめ────
「っははははははは!!!」




